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経済・物価の将来展望とリスク評価 (2002年 4月) 1

  1. 「経済・物価の将来展望とリスク評価(2002年4月)」は、4月30日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

2002年 4月30日
日本銀行

(経済・物価情勢の将来展望)

(1)昨年度の日本経済を振り返ると、景気は悪化傾向を辿ったが、年度末にかけては、海外経済の持ち直しを背景に悪化テンポは幾分和らいだ。

(2)本年度から来年度初めにかけての経済の姿を展望すると、輸出の増加や在庫調整の一巡から生産が回復に転じ、これが製造業を中心とする企業収益の改善や設備投資の持ち直しに繋がっていくと考えられる。

 もっとも、グローバルな競争圧力の高まりや、過剰債務の残存等を背景に、企業のリストラへの取り組みが続けられており、雇用・賃金に対する調整圧力が根強くかかり続けるとみられる。このため、製造業における輸出・生産面での回復が、非製造業や中小企業、さらに家計も含めた経済全体に波及していくには、かなりの時間を要すると見込まれる。こうした情勢を踏まえると、景気は今年度下期にかけて下げ止まるものの、自律的な回復力に乏しい展開が続くと考えられる。

 物価は、需要・供給両面から低下圧力が働き、なお緩やかな下落傾向が続くとみられる。

(3)需要項目別の動きを展望すると、次のとおりである。

 公共投資は、現時点で入手可能な情報から判断する限り、本年度もさらに減少する見通しである。輸出は、海外経済、特に米国・東アジアの景気回復を主たる背景として、増加傾向を辿るとみられる。

 国内民間需要については、生産が回復するもとで、製造業を中心に稼働率や企業収益が改善し、下期には設備投資が下げ止まりないし緩やかな回復に転じる姿が一応想定される。しかし、個人消費は、雇用・賃金に対する調整圧力が継続するもとで、年度を通じて弱めの動きを続けると考えられる。従って、国内民間需要を全体としてみれば、徐々に底固さを増していくにしても、力強い自律反転には至らない状態が続くものとみられる。

(4)金融面の動きを展望すると、日本銀行による強力な金融緩和政策のもとで、金融市場では極めて緩和的な状況が続くことが想定される。また、上述の企業収益の改善は、企業の資金繰りを緩和する要因となる。しかし、民間銀行や投資家は信用リスクに対して慎重な姿勢を継続するとみられることから、信用力の低い先を中心に資金調達環境の厳しさは続く可能性が高い。

 一方、資金需要は、企業が有利子負債の圧縮を続けるなかで、引き続き低迷するとみられる。民間銀行貸出は、このような需要・供給両面の要因から、減少を続ける見通しである。もっとも、マネーサプライは、超低金利のもとで他の金融商品から流動性預金等への流入が続いていることや、金融機関が国債投資を増加させていることなどからみて、今後も経済活動との対比ではやや高めの伸びを維持すると考えられる。

(5)物価動向については、過去1年間、需給ギャップが拡大したとみられるもとでも、消費者物価の前年比下落幅に大きな変化がみられなかったことに表れているように、必ずしも需給ギャップの動きのみで規定されるわけではないが、この面からの物価低下圧力は引き続き根強いとみられる。すなわち、日本経済の短期的な供給能力の伸びは年1%台に低下しているとみられるが、前述のような需要見通しのもとでは需給ギャップはさらに拡大すると見込まれる。一方、昨年秋以降の円安や国際商品市況の上昇傾向は物価上昇要因として働くが、賃金の弱さを反映して、その影響を受けやすいサービス価格には下落圧力が加わると考えられる。この間、安値輸入品の流入や技術革新、規制緩和などの供給サイドの要因は、引き続き物価低下方向に作用する公算が大きい。

 各種の物価指数は、これらの要因を反映して、緩やかな下落傾向を辿り、本年度の国内卸売物価や消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、マイナスを続ける見通しである。ただ、国内卸売物価の前年比マイナス幅は、在庫調整の進展や国際商品市況の上昇などから幾分縮小していくとみられる。

 名目所得の伸びは、以上のような景気・物価情勢のもとで、マイナスが続く蓋然性が高い。

(経済・物価情勢の将来展望に関するリスク評価)

(6)金融政策運営に当たっては、上記のような展望を最も蓋然性が高い標準シナリオとして想定しているが、以下に述べるような下振れないし上振れの可能性(リスク要因)を、十分に念頭に置いておく必要がある。

 第1のリスク要因として挙げられるのは、個人消費、設備投資など国内民間需要の回復力である。

 前述の標準的なシナリオでは、設備投資は、生産と収益の回復を映じて緩やかながら回復に向かう姿を想定した。しかし、その回復力は、稼働率や収益の改善状況、将来の需要回復の展望、さらには海外投資との比較などにより大きく左右される。また、個人消費については、雇用・賃金に対する根強い調整圧力が続く一方で、消費者マインドの急激な悪化は避けられるという姿を前提としているが、これらの前提には多分に不確実な面が残されている。

 このため、民需全体の自律的な回復力や回復のテンポについては、かなりの幅をもってみておく必要がある。

(7)第2のリスク要因としては、海外経済の回復力と持続性が挙げられる。

 上述のように、標準的なシナリオにおいては、内需面からの力強い自律反転は想定しておらず、経済が先行き明確な回復基調に復するかどうかは、引き続き海外経済と輸出の動向に大きく依存する。

 この点、海外経済の下振れリスクは昨年までに比べかなり後退してきているが、その回復力は緩やかなものに止まる可能性がある。情報関連財については、世界的な在庫調整はほぼ終了したものの、最終需要の回復力はなお不確実との見方が多い。米国景気も、予想以上に底固い個人消費に支えられているが、家計部門の貯蓄率の低さや債務残高の高さ、企業部門の資本ストック調整圧力からみて、持続性には見定め難い面がある。こうしたなかで、原油価格の動き、国際政治情勢、エマージング諸国の動向などが世界経済に及ぼす影響については引き続き留意が必要である。また、世界経済全般に不確実な要因が多いことを踏まえると、国際的な資金の流れとその影響についても十分注視していく必要がある。

(8)第3のリスク要因としては、不良債権処理の動向が挙げられる。

 金融機関は、経営健全化、市場の信認回復に向けて、不良債権問題の解決や利鞘の適正化への取り組みを強めつつある。これは、経済・産業面の構造改革に対応したものであり、資源・資金の効率的な配分に向けた動きと位置付けられる。こうした動きは、短期的には金融機関の貸出を抑制する要因として働くとみられるが、これによって信用力の高い企業が資金制約に直面することは考えにくい。前述の標準的なシナリオは、金融機関の融資姿勢が幾分厳しさを増すとしても、このような金融環境が概ね維持されることを前提としている。

 しかし、既存の不良債権の処理が遅れたり、多額の不良債権が新規に発生する場合には、金融システムに対する信認が低下するおそれがある。この場合、金融機関の信用仲介機能が低下し、景気に対しても悪影響を及ぼすことが考えられる。とくに、本年4月から流動性預金を除きペイオフ凍結が解除されたもとで、従来に比べ金融機関間の資金移動の不確実性が高まっており、これが金融市場にどのような影響を及ぼすか留意が必要である。

 この間、金融機関による信用仲介を補完していく意味でも、資本市場が円滑な信用仲介機能を発揮し得るかどうかは重要である。昨秋以降の相次ぐ大手企業破綻などから投資家は信用リスクに対して慎重な姿勢を続けており、社債・CP市場では、低格付け企業を中心に信用スプレッドの高止まりや、新規発行の困難な状況が続いている。仮に、投資家のリスク回避志向がさらに強まるようになれば、景気の下押し要因となる可能性がある。

(9)第4のリスク要因としては、第3のリスク要因とも密接に関連するが、株、土地等の資産価格や長期金利の動向が挙げられる。

 わが国の株価は、2月初にバブル後最安値をつけた後、景気や企業収益の回復期待もあって幾分持ち直しているが、非製造業などでは不安定な動きもみられ、このところ一進一退の動きが続いている。この間、地価は、地域や用途により違いはあるが、全体として下落傾向が続いている。長期金利は概ね安定しているが、わが国の国債残高が先進国中最高水準に達するなかで、潜在的には不安定な要因を抱えている。

 一方、金融機関は、保有株式の削減を進めつつあるが、なお多額の株式を抱え、株価変動の影響を受けやすい財務体質である点に大きな変化はない。地価の変動も、不動産担保融資の担保価値の変動をもたらす。また、貸出が減少するなかで、金融機関は国債など債券投資の増加を通じて期間収益の確保を図る傾向にあり、景気回復への動きを伴わない長期金利上昇が生じた場合には、その影響を受けやすくなっている。

 このため、仮に大幅な株価・地価の下落、あるいは長期金利の上昇が生じると、金融機関の経営や信用仲介機能への影響を通じて、景気動向に悪影響を及ぼす可能性がある。また、これらが企業や家計のコンフィデンスを悪化させる面もある。反対に、構造改革の進展などを反映して資産価格が大幅に上昇すれば、上記とは逆のプロセスを通じて、景気回復の動きを力強くサポートしていくものと考えられる。

(10)第5のリスク要因としては、経済構造改革の進展とその影響が挙げられる。

 金融機関による不良債権処理の影響も含め、経済・産業面の構造改革が進められる過程では、短期的には、企業倒産や失業の増加を通じて景気に下押し圧力が働くおそれがある。しかし、やや長い目でみれば、構造改革は企業の再生・整理を促し、成長分野における企業活動の活発化、経済全体の生産性の向上に資するものである。加えて、改革の道筋が明らかになり、これが内外市場の日本経済への信認向上に繋がれば、資産価格の動きなどを通じ短期的にも景気にプラスに作用すると考えられる。

 財政構造改革についても、景気に対する影響という点で二面性を有する。すなわち、財政支出の減少は景気にマイナスの影響を与える要因となる。一方、民需の創出に資するようなかたちで政府支出や税制の見直しが行われたり、財政規律に対する投資家の信認確保に繋がれば、景気にも好影響を及ぼす。

以上

(参考)

政策委員の大勢見通し2

対前年度比、%。( )内は昨年10月時点。

表 政策委員の大勢見通し
  実質GDP 国内卸売物価指数 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2002年度 −0.5〜+0.1
(−1.1〜+0.1)
−1.0〜−0.5
(−1.3〜−0.9)
−1.0〜−0.8
(−1.3〜−0.9)
  • 政策委員の見通しを作成するに当たっては、先行きの金融政策運営について、不変を前提としている。
  1. 2「大勢見通し」は、各政策委員の見通しのうち最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものである。なお、委員全員の見通しの幅は下表のとおりである。

対前年度比、%。( )内は昨年10月時点。

表 政策委員の大勢見通し
  実質GDP 国内卸売物価指数 消費者物価指数
(除く生鮮食品)
2002年度 −0.5〜+0.2
(−1.7〜+0.2)
−1.0〜−0.3
(−1.9〜−0.5)
−1.1〜−0.5
(−1.7〜−0.5)

ちなみに、2001年度の実績は、概ね以下の通りであった。

  1. (1)実質GDP前年比は、2002年1〜3月期が前期比横這いと仮定した場合、−1.5%。
  2. (2)国内卸売物価指数前年比は、−1.1%。
  3. (3)消費者物価指数(除く生鮮食品)前年比は、−0.8%。