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経済・物価の将来展望とリスク評価 (2003年10月)

2003年10月31日
日本銀行

【基本的見解】1

(経済・物価の標準シナリオ)

 わが国経済の先行きを展望すると、本年度下期には前向きの循環が働きはじめ、来年度を通じて回復が続くと予想される。前回(本年4月)の「経済・物価の将来展望とリスク評価」の標準シナリオと比べると、全体としてやや上振れて推移していると考えられる。

 まず前提となる海外経済は、IT関連需要の回復もあって米国や東アジアなどを中心に高めの成長を続けると予想される。こうしたもとで、わが国の輸出や生産は増加していくものとみられる。企業収益は経営体質の改善努力ともあいまって改善し、設備投資も増加傾向を続ける可能性が高い。

 ただし、過剰債務や過剰雇用などの構造的な制約要因が残存するとみられるため、先行きの景気の回復テンポは緩やかなものにとどまる可能性が高い。実際、雇用者所得は下げ止まるものの、企業の人件費抑制姿勢が根強く、明確な改善を示すには至らないと考えられる。このため、個人消費は概ね横這い圏内の動きを続けるとみられる。なお、実質GDP成長率については、GDPデフレーターの下落幅が他の物価指数に比べて大きめになる傾向が強まっている中で、その分これまでよりも高めに算出される可能性がある。

 需給ギャップは、こうした緩やかな景気回復のもとで本年度から来年度にかけて小幅縮小するものの、現状のマイナス幅はかなり大きいため、需給面では物価を押し下げる圧力が幾分残存する可能性が高い。消費者物価指数は、本年度、来年度とも小幅の下落が続くと予想される。

(リスク評価)

 日本銀行としては、以上のような経済・物価の姿を標準的なシナリオとして想定している。ただ、こうしたシナリオには、以下のような上振れまたは下振れの可能性がある。

 第1に、海外経済の動向である。海外経済を取り巻く不透明感は緩和されているが、米国の雇用情勢や世界のIT関連需要の動向、東アジア経済の成長率などによっては、わが国の景気が上記の標準シナリオより上振れまたは下振れることも考えられる。

 第2に、金融・為替市場の動向である。市場は中長期的には実体経済の動向を反映して動くが、短期的には様々な要因によって変動する。株価、長期金利、為替相場の変化の程度や組み合わせ如何によっては、経済活動に対して影響が生じることも予想される。

 第3に、不良債権処理や金融システムの動向である。このところ大手行を中心に不良債権残高が減少し引当率も高まっているなど、不良債権処理は一定の進捗をみせている。また、株価の上昇もあって、金融システムに対する不安感は後退している。こうしたもとで、金融システムの問題が企業金融や実体経済に悪影響を与えるリスクは、これまでに比べれば減少しているが、なお大きなリスク要因として残っている。

 第4に、国内民間需要の動向である。標準シナリオにおいては、製造業大企業を中心に回復する姿を展望しているが、その非製造業や中小企業、家計部門への広がりの程度や、将来の需要に対する企業の期待などによっては、上振れまたは下振れる可能性がある。

(デフレ克服の展望と金融政策運営)

 デフレから脱却し持続的な成長軌道に復帰するためには、循環的な回復に加えて、過剰債務や過剰雇用、金融システム面の弱さなど構造的な問題への対応の進展などを通じて、企業や家計の成長期待が高まっていくことが必要である。この点、企業の過剰債務や過剰雇用の問題は、一部の製造業大企業では解消しつつあるものの、非製造業や中小企業などを中心に引き続き残存している。また、不良債権処理をはじめとする金融システムの健全化に向けた動きも一層進めていく必要がある。

 日本銀行は2001年3月以降量的緩和政策を採用しているが、この政策は、金融市場の安定や緩和的な企業金融の環境を維持することに寄与し、実体経済に対してしっかりとした下支え効果を発揮している。金融資本市場では、長期金利の上昇などがみられたが、一方で株価は上昇した。企業の資金繰りは幾分改善しており、緩和的な資金調達環境が概ね維持されている。

 日本銀行は、消費者物価指数を基準とする明確かつ具体的なコミットメントに沿って量的緩和政策を堅持していくことによって、日本経済の持続的な成長軌道への復帰を支えていきたいと考えている。また、金融機関の金融仲介機能が万全とはいえない中にあって、貸出やCP、社債をはじめとするクレジット市場の整備等を通じて金融政策の波及メカニズムを強化し、金融緩和の効果が経済全体に行き渡るよう努めていく所存である。

  1. 10月31日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

以上

(参考)

▽政策委員の大勢見通し 2

  • 図
  1. 2「大勢見通し」は、各政策委員の見通しのうち最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものである。政策委員全員の見通しの幅は下表のとおりである。
  • 図

<参考>

背景説明を含む全文は11月4日(火) 14時に公表の予定です。