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経済・物価情勢の展望(2004年10月)

2004年10月29日
日本銀行

【基本的見解】1

(経済・物価情勢の見通し)

 わが国経済は、回復を続けている。すなわち、輸出や生産が伸びをやや鈍化させつつも増加傾向を続けるもとで企業収益が増加しており、これが設備投資の増加につながっている。また、雇用面の改善や消費マインドの好転を背景に、個人消費もやや強めの動きを続けている。このように、わが国経済は、前回(4月)の「経済・物価情勢の展望」において示された「2004年度見通し」と比べると、上振れて推移していると考えられる。物価面では、国内企業物価は「見通し」に比べて上振れて推移している一方、消費者物価は概ね「見通し」に沿った動きとなっている。

 先行きについても、景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくと考えられる。前提となる海外経済は、原油価格上昇やIT関連財の在庫調整の影響などもあって、これまでの高めの成長から幾分減速するものの、拡大を続けると予想される。こうしたもとで、わが国の輸出は、伸び率がやや低下するものの、増加を続けるとみられる。生産・在庫面では、IT関連財の在庫調整が進行中であるが、調整は軽度なものにとどまると予想される。他方、素材関連では、好調な需要などを反映して、高水準の生産が続いている。このため、鉱工業全体では、在庫が総じて低水準で推移していることもあって、生産の基調的な増勢が続くと考えられる。企業収益は、企業のコスト削減や財務体質の強化等ともあいまって、大企業・中小企業ともに幅広い業種で改善を続けると予想される。また、企業の過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力も和らいできている。こうしたもとで、設備投資は増加を続けていくとみられる。企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いとみられるが、企業収益の増加や雇用過剰感の緩和が続くもとで、雇用者所得は緩やかな増加に転じる可能性が高い。このため、個人消費は緩やかに増加していくと予想される。

 国内企業物価は、原油価格の上昇や素材の需給引き締まりなどを反映して、2004年度中は上昇を続ける可能性が高い。2005年度は、原油価格の一段の高騰等がない限り、上昇テンポは緩やかなものになっていくと予想される。この間、消費者物価については、景気が回復を続けるもとで需給ギャップは改善を続けるものの、企業部門における生産性の向上や人件費の抑制等から、当面上昇しにくい状況が続くとみられる。消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比は、今後、米価格が前年比で下落に転じることもあって、今年度後半も引き続き小幅のマイナスで推移すると見込まれる。2005年度については、需給バランスの緩やかな改善が続くもとで、前年比で小幅のプラスに転じると予想される。なお、物価の先行きは、原油価格のほか、生産性や人件費の動向にも左右されるため、見通しは上下に振れる可能性がある点には留意しておく必要がある。

(上振れ・下振れ要因)

 以上述べた「見通し」には、以下のような上振れまたは下振れの要因があることに留意する必要がある。

 第1に、海外経済の動向である。米国や中国をはじめとする東アジアの景気展開次第では世界景気が下振れ、わが国の輸出の減少をもたらす可能性がある。原油価格は、既往最高値圏で推移しており、今後さらに上昇を続ける場合には、原油輸入国を中心に、企業収益の圧迫や家計の実質購買力の低下等を通じて経済の下振れ要因となる可能性がある。また、IT関連財については、需要の振幅が激しいだけに、最終需要が予想以上に下振れた場合には、生産・在庫面での調整が深まることも考えられる。

 第2に、国内民間需要の動向である。原油価格や世界的なIT関連需要が予想以上に変動した場合、その動向は、前述のように海外経済を通じてわが国の輸出に影響を及ぼすほか、設備投資等の国内民間需要に影響をもたらす可能性もある。また、企業の人件費抑制姿勢が強まる場合には、雇用者所得の改善が遅れ、個人消費が下振れることも考えられる。一方、生産性の向上や構造的な調整の進展などを背景に、経済の先行きに対する企業や家計の強気の見方が広がる場合には、設備投資や個人消費が上振れる可能性もある。

 第3に、国内金融・為替市場の動向である。市場は中長期的には経済・物価動向を反映して動くが、そのもとで短期的には様々な要因によって変動する。このため、今後の変化の程度と方向によっては、経済活動に対して上振れ・下振れいずれにも作用し得る。

 第4に、不良債権処理や金融システムの動向である。不良債権問題への対応は、既に相当程度進捗しており、金融システムに対する不安感は後退している。金融システム面の問題については、2005年度からのペイオフ解禁を控え、引き続き注意を払っていく必要があるが、企業金融面を通じて実体経済に悪影響を及ぼす惧れは小さくなっている。

(金融政策運営)

 現在、民間企業は、経営戦略の明確化、コストの削減、財務体質の強化等により引き続き収益向上に取り組んでおり、その成果が現れてきている。また、金融機関における不良債権処理にも進捗がみられている。政府も各種の規制緩和や金融・税制・歳出等の分野における改革を通じて、民間の経済活性化の努力を支援している。日本銀行も思い切った金融緩和を続けている。幅広い経済主体がこれまでのような取り組みを粘り強く続け、景気回復の動きがさらに確かなものとなっていけば、持続的な経済成長とデフレ克服の可能性が高まっていくと考えられる。

 こうしたもとで、日本銀行は、量的緩和政策を、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続するという「約束」にしたがって、堅持していく方針である。「約束」がもたらす金利を通じた景気支援効果は、景気が回復し企業収益が改善する状況において、より強まっていくものと考えられる。

 今回の展望レポートの見通しのもとでは、2005年度内に日本銀行当座預金残高を金融市場調節の主たる操作目標とする現在の金融政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではない。今後の金融政策運営については、言うまでもなく先行きの経済物価情勢に依存するが、経済がバランスのとれた持続的な成長過程をたどる中にあって生産性の向上を基本的な背景として物価が反応しにくい状況が続いていくのであれば、余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられる。

 もとより、日本銀行としては、今後の情勢変化に応じて適切かつ機動的に対応するとともに、金融経済情勢に関する判断や金融政策運営に関する基本的な考え方を丁寧に説明していく方針である。具体的な説明の内容や方法については、さらに工夫を重ね、市場参加者が金融政策の先行きを予測する上で参考になる基本的な判断材料を適切に提供していく。

  1. 10月29日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。

以上

(参考)

  • 図
  1. 2「大勢見通し」は、各政策委員の見通しのうち最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものである。政策委員全員の見通しの幅は下表のとおりである。
  • 図

<参考>

背景説明を含む全文は11月 1日(月)14時に公表の予定です。