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経済・物価情勢の展望(2005年 4月)

2005年 4月28日
日本銀行

【基本的見解】1,2

(経済・物価情勢の見通し)

 わが国経済は、基調としては回復を続けているが、2004年後半にIT関連分野において生産・在庫面での調整が深まったこともあって、このところ「踊り場」局面となっている。この結果、2004年度の経済は、昨年10月に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した「見通し」と比べて、幾分下振れて推移したとみられる。

 先行きについては、IT関連分野の調整の影響が弱まるにつれて、年央以降、回復の動きが次第に明確になり、2005年度は、潜在成長率を若干上回る成長が実現するとみられる。こうした見通しは、概ね前回「見通し」に沿ったものである。2006年度は、現時点においてはかなり幅をもってみる必要があるが、緩やかながら持続性のある成長軌道を辿ると予想される。こうした先行きの経済の姿は、海外経済が拡大基調を続けることに加え、企業の様々な取り組みにより企業収益が高水準を続けること、企業収益の好調が様々な形で経済の各部門に及んでいくこと、さらに、慎重な企業行動を背景に設備投資、在庫投資などの面で行き過ぎは回避されていくことを、基本的なメカニズムとして想定している。

 すなわち、海外経済は、米国や東アジアを中心に拡大基調を続けると予想される。こうしたもとで、わが国の輸出は、東アジア域内での国際分業の深化を伴いながら、増加を続けていくと考えられる。鉱工業生産は、IT関連分野の在庫調整が年央頃には概ね一巡するとみられることもあって、その後は増勢を取り戻していくと見込まれる。企業収益は、既に高水準にあるが、先行きについても、原油など商品市況上昇の影響を受けつつも、製品・サービスの高付加価値化などを背景とした生産・販売の増加や一段の合理化努力などから、緩やかな増益基調を維持していくと考えられる。設備投資は、キャッシュ・フローとの対比ではなお抑制的であるが、過剰設備・過剰債務などの構造的な調整圧力が和らいできている環境のもとで、増加傾向を辿ると予想される。雇用者所得は、労働市場の需給改善を背景に緩やかな増加を辿り、これを反映し、個人消費も緩やかな増加を続けると予想される。

 物価面では、マクロの需給バランスが基調として改善を続ける中で、国内企業物価は、内外商品市況の上昇などから、昨年初以来、前年比プラスが続いている。消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、米価格の下落や規制緩和とそれに伴う競争激化による電気・電話料金引き下げの影響もあって、引き続き小幅のマイナスで推移している。こうした中で、2004年度の国内企業物価、消費者物価は、ともに概ね前回「見通し」に沿った動きとなった。

 先行きについてみると、国内企業物価は、内外商品市況の動きにも左右されるが、2005年度、2006年度とも、2004年前半ほどの急ピッチにはならないまでも、上昇を続けるとみられる。このうち2005年度については、原油価格の上昇を主因に、前回「見通し」と比べ上振れて推移するとみられる。一方、消費者物価についてみると、原材料コストの上昇は企業部門における生産性の上昇によってかなりの程度吸収されるとみられ、目立った上昇は想定していない。前年比では、2005年度は、米価格の下落や電気・電話料金引き下げの影響がなお暫く残ることもあって、前回「見通し」より幾分下振れ、ゼロ近傍での推移にとどまると予想される。2006年度は、これらの特殊要因の影響が剥落する中で、前年比プラスに転じる可能性が高い。

(上振れ・下振れ要因)

 以上述べた「見通し」のうち、経済活動については、以下のような上振れまたは下振れの要因があることに留意する必要がある。

 第1に、エネルギー・素材価格の動向である。原油価格は、世界需要の拡大予想等を背景に再び上昇し、このところは既往最高値圏での相場展開が続いている。素材市況も、鋼板類や非鉄を中心に、多くの品目で強含んでいる。こうしたエネルギー・素材価格の高騰が続く場合には、企業収益の圧迫や家計の実質購買力の低下等を通じて、内外経済に悪影響が及ぶ可能性がある。

 第2に、米国および中国の景気動向である。「見通し」においては、米国や中国をはじめとする東アジアの景気が現状程度の成長を続けることを想定しているが、それらの展開次第では、わが国の輸出に上振れ・下振れいずれの可能性もある。先行きを展望すると、米国経済については、エネルギー価格の上昇や国内の需給引き締まりが底流にある中、インフレ懸念が高まる場合には、より強い金融政策運営面での対応を通じて、米国ひいては世界経済の成長が鈍化する可能性がある。また、そのような場合には、資本移動や金融資本市場を通じてエマージング諸国を中心に世界経済に悪影響が及ぶリスクがある。中国経済については、同国政府が過熱リスクを抑えて息の長い景気拡大を図る方針を明確に示しているが、各種の構造問題を抱える中で、その成否には引き続き不確実性が残っている。

 第3に、国内民間需要の動向である。「見通し」は、企業収益の好調の割には慎重な企業行動に大きな変化がないことを前提にしている。したがって、中期的な期待成長率が高まったり、有利子負債削減を最優先する企業の財務行動に前向きの変化が生じる場合には、企業の支出行動、特に設備投資が上振れる可能性がある。一方、企業行動がさらに慎重化した場合には、設備投資や雇用・賃金などの伸びが抑制される可能性もある。

 物価の先行きについても、上振れ・下振れ両方向の要因がある。経済活動水準の変動についての上述のような上振れ・下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響を及ぼすとみられる。物価に固有の不確定要因を挙げると、上振れ要因としては原油価格をはじめとする内外商品市況の上昇やそれに伴うインフレ心理の台頭が、下振れ要因としては規制緩和などに伴う企業間競争の強まりの影響が考えられる。

(金融政策運営)

 1990年代以降のわが国経済を振り返ると、バブル崩壊に伴う不良債権の発生によって、企業や金融機関のリスクテイク能力が低下し、前向きの経済活動が抑制された。そうした不良債権問題の影響に加え、経済のグローバル化や情報通信技術の発展をはじめ、経済の様々な変化に対する経済各部門の適合の遅れもあって、潜在成長率は徐々に低下した。特に1990年代後半以降においては、経済に加わった負のショックは金融システムへの不安を通じて経済への影響を増幅しがちであった。

 もっとも、この10年余という長い年月の間に、企業は、設備・雇用・債務の面での調整を進めるとともに、付加価値の高い製品・サービスを生み出す力を高めてきた。こうした取り組みの成果は、企業の収益力にはっきりと現れてきている。金融機関も、不良債権の処理を進め、健全性回復に向けた対応を進めてきている。このような状況のもとで、本年4月にはペイオフが全面解禁された。このように、金融システムの安定性は高まってきており、金融システム面での問題が実体経済に悪影響を及ぼす惧れはかなり小さくなっていると考えられる。

 金融政策面では、日本銀行が量的緩和政策を採用してから、4年以上が経過した。この政策の枠組みは、日本銀行が、金融機関が準備預金制度等により預け入れを求められている額を大幅に上回る日本銀行当座預金を供給することと、そうした潤沢な資金供給を消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで継続することを約束することから成り立っている。

 潤沢な資金供給は、金融システムに対する不安感が強かった時期において、金融機関の流動性需要に応えることによって、金融市場の安定や緩和的な金融環境を維持し、物価下落が企業収益の下落などを通じて経済活動の収縮を招くリスクを回避することに大きな効果を発揮した。さらに、こうした「約束」は、ゼロ金利の継続予想を通じて低利での資金調達を可能とし、企業収益を下支えるとともに、投資採算の改善をもたらした。

 前述のように、現在、金融システムに対する不安感は後退してきている。このため、日本銀行の資金供給オペレーションに対する応札額が資金供給予定額に満たない「札割れ」が頻繁に生じていることにも現れているように、金融機関の流動性に対する需要も減少している。金融機関には量的緩和政策の枠組みのもとで資金調達に対する安心感が定着しており、緩和的な企業金融の環境が維持されている。さらに、消費者物価に基づく量的緩和政策継続の「約束」は、景気回復が続くもとでも企業が低い金利で資金調達することを可能としており、先行き、企業の将来に対する自信が強まっていくにつれ、金利を通じてより強い緩和効果を発揮していくと考えられる。

 今回の展望レポートが対象とする期間において、上記の量的緩和政策の枠組みを変更する時期を迎えるか否かは明らかではないが、今回の経済・物価見通しが実現することを前提とすると、2006年度にかけてその可能性は徐々に高まっていくとみられる。枠組みの変更やその後の金融政策運営については、経済がバランスのとれた持続的な成長過程を辿る中にあって、物価が反応しにくい状況が続いていくのであれば、余裕をもって対応を進められる可能性が高いと考えられる。

  1. 4月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。
  2. 日本銀行は、4月に公表する「経済・物価情勢の展望」が対象とする期間について、今後、当該年度に加え、翌年度を含めることにした。これにより、「経済・物価情勢の展望」の対象期間は、4月公表分、10月公表分ともに、当該年度および翌年度となる。

以上

(参考)

▽2004年度の政策委員の大勢見通し 3と実績見込み

対前年度比、%。なお、< >内は政策委員見通しの中央値。

  • 図

▽2005〜2006年度の政策委員の大勢見通し 3,4

対前年度比、%。なお、< >内は政策委員見通しの中央値。

  • 図
  • (注1)10月時点の見通しは、昨年10月の「経済・物価情勢の展望」において示したものである。実質GDPの見通しについては、固定基準年方式に基づいており、現行の連鎖方式に比べ1%強高めになると想定していた。したがって、政策委員見通しの中央値を連鎖方式で読み替えるとすれば、2004年度は2%台半ば、2005年度は1%台半ばとなる。
  • (注2)2004年度の実質GDPの「実績」については、1〜3月期実質GDPを前期比横這いと仮定して計算した推定値。
  • (注3)政策委員の見通しを作成するに当たっては、先行きの金融政策運営について、不変を前提としている。
  1. 3「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。
  2. 4政策委員全員の見通しの幅は下表の通りである。

対前年度比、%。

  • 図