金融政策

ホーム > 金融政策 > 経済・物価情勢の展望(展望レポート) > 経済・物価情勢の展望(2006年4月)

経済・物価情勢の展望(2006年4月)

2006年4月28日
日本銀行

【基本的見解】1

(経済・物価情勢の見通し)

 わが国経済は、着実に回復を続けている。輸出や生産は増加を続けており、企業収益が高水準で推移するもとで、設備投資も引き続き増加している。雇用者所得も、雇用と賃金の改善を反映して、緩やかな増加を続けており、個人消費は増加基調にある。このように内外需がともに着実な増加を続ける中で、2005年度の経済は、昨年10月の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した見通しに比べて、上振れて推移した見込みである。この結果、マクロ的な需給ギャップは、長く続いた供給超過状態が解消し、現在はゼロ近傍にあるとみられる 2

 2006年度から2007年度にかけてのわが国経済を展望すると、内需と外需、企業部門と家計部門のバランスがとれた形で息の長い拡大を続けると予想される。成長率の水準は、景気回復局面に入って既に4年以上経過する中で、今後景気は成熟段階に入っていくと考えられるため、2006年度は2%台半ば、2007年度は2%程度と、潜在成長率近傍の水準に向けて徐々に減速する可能性が高い。

 こうした先行きの経済の姿は、以下のような前提やメカニズムに基づいている。第1に、海外経済の拡大が続くことを背景に、輸出は増加を続けると予想される。第2に、企業部門の好調が続くとみられる。企業収益は、2002年度から4年連続の増益となり、2006年度も売上高経常利益率はバブル期のピークを上回る水準を続けるとみられる。資源の稼働状況をみても、設備の稼働率は高まり、企業内の労働力不足も強まっている。こうしたもとで、3月短観によれば、2006年度の設備投資計画は、多くの業種でこの時期としては高めのスタートとなっており、今後上方修正が見込まれる。企業は、グローバルな競争環境も意識した上で、基本的には、慎重な姿勢を続けてきており、設備のストックを大幅に積み上げてはいないが、先行き2年間を展望すると、景気回復の長期化に伴い、資本ストック循環の観点からみて、いずれかの時点で設備投資の伸び率は低下していくと想定される。第3に、企業部門から家計部門への波及がより明確になってくるとみられる。企業部門の好調の影響は、雇用や賃金の増加に加え、配当の増加や株価の上昇を通じて、家計部門にも波及している。そうしたもとで、個人消費は、着実な増加を続けると予想される。住宅投資も、都心部などで地価が上昇に転じる中で、金利の底値感が台頭していることもあって、緩やかな増加基調を辿る可能性が高い。この結果、家計支出は、国内民間需要の主たる牽引役になっていくとともに、その堅調が企業部門にフィードバックして、前向きの循環メカニズムが維持されていくと考えられる。第4に、極めて緩和的な金融環境が引き続き民間需要を後押しするとみられる。金融機関の貸出態度は積極化しており、民間の資金需要の下げ止まりとも相まって、民間銀行貸出は前年比プラス幅を拡大している。実質短期金利も低下している。中小企業設備投資や住宅投資の増加には、そうした金融環境も影響しているとみられる。

 こうした経済の見通しのもとで、物価を巡る環境も徐々に変化していくと考えられる。第1に、資源の稼働状況は高まっている。短観によると、企業の設備や雇用人員に関する判断は、過去十数年の中で最も不足方向に変化してきている。また、マクロ的な需給ギャップは、先述した通り、既にゼロ近傍にあり、今後は緩やかに需要超過方向に向かっていくとみられる。第2に、ユニット・レーバー・コスト(生産1単位当たりの人件費)は、生産性上昇に伴い低下を続けているものの、賃金が上昇に転じていることから、マイナス幅は縮小基調にある。労働需給の引き締まりは比較的幅広い分野でみられており、先行きは、景気の成熟化に伴って、生産性の上昇率も減速すると考えられることから、ユニット・レーバー・コストは下げ止まりから若干の上昇に転じていく可能性が高い。第3に、各種サーベイ調査に示されるように、企業や家計などの物価上昇率の見通しは、短期、中長期とも、徐々に上方修正されている。

 物価指数に即してみると、2005年度の国内企業物価は、国際商品市況高や昨年後半の円安を背景に、前回の見通し対比上振れており、前年比上昇率は1990年初以来の水準となっている。先行きは、原油価格をはじめとする商品市況や為替相場にも左右されるが、2007年度にかけても上昇を続けるとみられる。

 消費者物価(全国、除く生鮮食品)についてみると、概ね前回の見通しに沿って推移しており、昨年末にかけてプラスに転じた後、本年入り後はプラス幅を拡大している。近年、需給ギャップに対する消費者物価上昇率の感応度は低下している可能性があるが、後述するように、その背後で起きているメカニズムをどのように理解するかによって、先行きの物価上昇率の見通しは変わってくる。その意味で、先行きの物価上昇率については不確実性があるが、前年比のプラス幅は次第に拡大し、2006年度は0%台半ば、2007年度は1%弱の伸び率となると予想される 3

(上振れ・下振れ要因)

 以上述べた見通しは、前述の前提やメカニズムに依拠した上で、最も蓋然性が高いと判断される見通しについて述べたものである。したがって、先行きの経済情勢については、以下のような上振れまたは下振れの要因があることに留意する必要がある。

 第1に、海外経済の動向である。見通しにおいては、わが国の主要貿易相手国が潜在成長率近傍の成長を続けることを前提にしており、それらの展開次第では、わが国の輸出や生産は上振れ・下振れいずれの可能性もある。世界経済をみると、適切な金融政策運営などを通じて、全体として物価上昇圧力が抑制されるもとで、金融環境の安定が維持されていることが、経済の持続的な拡大を支える要因の一つとして寄与してきた。それだけに、こうした構図に変化が生じる場合には、国際的な資金フローや金融市場における価格形成の変化を伴いながら、世界経済全体に悪影響が及ぶリスクがある。また、このところ地政学的リスクの高まりもあって高止まりを続けている原油価格をはじめとする国際商品市況の動向も、世界経済の先行きに影響を与える可能性がある。

 米国については、経済全体としての需給バランスが引き締まりの方向にあり、既往の原油高等と相まってインフレ予想が高まる場合には、金融市場の反応等を介し、成長率が減速する可能性がある。また、これまで住宅価格の上昇が個人消費の基調を押し上げてきた面もあるだけに、住宅価格の調整が急激なものとなれば、成長率の減速につながる可能性がある。一方、中国では、力強い拡大が続いてきている。先行き高成長の反動が生じる惧れはあるものの、固定資産投資や個人消費の動向次第では、見通し期間中の成長率が上振れる可能性がある。

 第2に、在庫調整の可能性である。景気回復局面は既に5年目を迎えているが、現状、在庫水準は抑制された水準にある。ただ、成長率が減速していくことを踏まえると、何らかのきっかけで見通し期間中に在庫調整局面入りすることは考えられる。例えば、IT関連財については、先行きも需要増加が続くとみられるが、わが国企業が得意とする高付加価値製品の分野を含めて、供給の増加ペースがかなり速いものとなっているだけに、需要動向次第では、この面からも在庫調整が生じる可能性もある。もっとも、その場合でも、わが国企業が全体としては過剰雇用・設備の調整を終えており、企業収益も高水準であることは、景気全体への影響を緩和する要因として働くと考えられる。

 第3に、企業の投資行動の一段の積極化である。見通しにおいては、設備投資が徐々に減速することを想定している。これは景気が次第に成熟化していくことに着目した想定であるが、企業の投資行動がより積極化する場合には、成長率が一時的に大きく上振れる反面、その後は資本ストックの過剰な積み上がりの反動が生じ、調整を余儀なくされる可能性もある。

 企業の財務面をみると、自己資本比率が高まっている中で、資産収益率はバブル期並みの高水準となっており、実質金利も極めて低い水準にあることから、投資行動が積極化しやすい局面にある。また、最近における地価、株価等の資産価格の動きも民間需要を押し上げる方向に作用している。他方、金融市場において、経済の実態と整合的な価格形成が行われる場合には、景気の大きな振幅を抑える方向に作用すると考えられる。

 次に、物価上昇率の先行きについても、上振れ・下振れ両方向の要因に留意する必要がある。第1に、需給ギャップのプラス転化(需要超過)の影響である。需給ギャップに対する消費者物価上昇率の感応度の低下傾向はわが国だけでなく、世界的にも観察されており、その背後には、規制緩和や情報通信技術の発達、経済のグローバル化の進展の影響などが考えられる。これらに加え、わが国の場合、これまでは資源稼働率に余裕のある中で、生産性上昇によるユニット・レーバー・コストの低下余地が大きかったことも寄与してきたと考えられる。もっとも、需給ギャップがゼロ近傍から徐々に需要超過に転化すると予想される中では、いずれかの時点で、予想インフレ率の切り上がりを伴いつつ、賃金・物価上昇率が上振れする可能性もある。第2に、原油をはじめとする商品市況の動向には上下両方向に不確実性が大きい。第3に、潜在成長率の上昇の影響である。潜在成長率の上昇は、供給面からは、物価の押し下げ要因となる一方、需要面からは、将来所得に対する見方の上振れを通じて物価の押し上げ要因となり得る。わが国の潜在成長率は、様々な構造調整を経て、足もと上昇方向にあると考えられるが、その変化をリアルタイムで認識することは難しいだけに、この面からも不確実性が存在する。

(金融政策運営)

 日本銀行は、3月8〜9日の政策委員会・金融政策決定会合において、量的緩和政策の解除を決定し、金融市場調節の操作目標を日本銀行当座預金残高から無担保コールレート(オーバーナイト物)に変更した上で、目標水準を概ねゼロ%とした。

 新たな金融市場調節方針のもとで、日本銀行による短期の資金供給オペレーションが減少し、日本銀行当座預金残高は徐々に減少している。これまでのところ、短期金融市場は落ち着いた動きを続け、金融機関間の資金取引は少しずつ活発化しているが、引き続き、短期金融市場の状況を十分に点検しながら、所要準備額に向けて当座預金残高の削減を進めていく方針である。

 日本銀行の金融政策の目的は、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することである。この目的を達成するため、日本銀行は、適切な金融政策運営に努めている。先般公表した「新たな金融政策運営の枠組み」においては、「中長期的な物価安定の理解」を念頭に置いた上で、経済・物価情勢については2つの「柱」による点検を行い、これに基づいて先行きの金融政策運営の考え方を明らかにすることにした。

 まず、先行き2年間の経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて点検すると(第1の柱)、上述した通り、内需と外需のバランスがとれた景気拡大が続くとみられる。また、消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比は、需給ギャップが緩やかに需要超過に転化し、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていくもとで、2007年度にかけて前年比プラス幅が次第に拡大していくと予想される。このように、わが国経済は、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していく可能性が高いと判断される。

 この間、より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくても発生した場合に生じるコストも意識しながら、金融政策運営という観点から重視すべきリスクを点検すると(第2の柱)、企業の収益率が改善し、物価情勢も一頃に比べ好転している状況下、金融政策面からの刺激効果は一段と強まる可能性がある。その場合には、現在、需給ギャップの水準がゼロ近傍にあることから、中長期的にみると、経済活動の振幅が大きくなり、ひいては物価上昇率も大きく変動するリスクは意識する必要がある。一方、経済活動や物価上昇率が下振れした場合でも、金融システムの安定が回復し、設備、雇用、債務の過剰が解消されてきていることから、物価下落と景気悪化の悪循環が発生するリスクは小さくなっていると考えられる。

 先行きの金融政策の運営方針については、上述の2つの「柱」に基づく点検の結果、現時点では、無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間の後も、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高いと判断している。そうしたプロセスを経ながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられる。

  1. 4月28日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。
  2. 日本銀行では、昨年末のGDP統計の基準改定を機に、新たな方法に基づいて潜在GDPを推計した。潜在GDPの変化率は潜在成長率であり、その水準は、一頃の1%程度から、最近では1%台後半まで回復している。また、実際のGDPと潜在GDPの乖離(GDPギャップ)は、現在ゼロ近傍にあるとみられる。潜在成長率やGDPギャップの推計値は、経済構造の変化や技術革新のスピードなどによって時間とともに変化するほか、データの追加などによって事後的に変わる可能性があるため、幅をもってみる必要がある。
  3. 今回の消費者物価の見通しは現行の2000年基準の指数をベースにしているが、同指数は2006年8月に2005年基準に改定され、同時に前年比計数が2006年1月分に遡って改訂される予定である。その際には、前年比上昇率が若干下方改訂される可能性が高い。

以上

(参考)

▽2005年度の政策委員の大勢見通し 4と実績見込み

対前年度比、%。なお、< >内は政策委員見通しの中央値。

  • 図

▽2006〜2007年度の政策委員の大勢見通し 4,5

対前年度比、%。なお、< >内は政策委員見通しの中央値。

  • 図
  • (注1)2005年度の実質GDPの「実績」については、1〜3月期の計数を前期比横這いと仮定して計算した推定値。
  • (注2)各政策委員は、政策金利について市場金利に織り込まれたとみられる市場参加者の予想を参考にしつつ、上記の見通しを作成している。なお、10月時点の見通しでは、政策委員の見通しを作成するに当たって、先行きの金融政策運営について、不変を前提としていた。
  1. 4「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。
  2. 5政策委員全員の見通しの幅は下表の通りである。

対前年度比、%。

  • 図