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経済・物価情勢の展望(2006年10月)

2006年10月31日
日本銀行

【基本的見解】1

(経済・物価情勢の見通し)

 わが国経済は、緩やかに拡大している。前回(2006年4月)の「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で示した「経済・物価情勢の見通し」と比べると、これまでのところ、企業部門は幾分強め、家計部門は幾分弱めとなっているが、全体として概ね見通しに沿って推移している。

 先行き2006年度後半から2007年度を展望しても、内需と外需がともに増加し、企業部門から家計部門への波及が進むもとで、息の長い拡大を続けると予想される。景気拡大が長期化し、成熟段階に入っていくにつれて、成長率の水準は、2006年度は2%台半ば、2007年度は2%程度と、潜在成長率近傍に向けて徐々に減速する可能性が高い。

 こうした先行きの経済の姿は、以下のような前提やメカニズムに基づいている。第1に、海外経済の拡大が続くことを背景に、輸出は増加を続けると予想される。米国経済は足もと減速しているが、海外経済全体としては、地域的な拡がりを伴って拡大を続けると想定される。第2に、企業部門の好調が続くとみられる。高水準の企業収益が続き、売上高利益率も高水準を維持すると予想される。経済のグローバル化が進む中で、企業が海外市場での需要増大も意識した投資行動を採っていることもあって、設備投資は増加を続けるとみられる。もっとも、企業が投資採算を厳しく見定める姿勢を堅持している点を踏まえると、資本ストック循環の観点からみて、2007年度にかけて、設備投資の伸び率は低下していくと想定される。第3に、雇用者所得や配当の増加などを通じて、好調な企業部門から家計部門への波及が進んでいくとみられる。雇用者数は着実な増加を続けるとみられる。賃金の上昇は、これまでのところ、企業の根強い人件費抑制姿勢などから緩やかであるが、労働市場の需給が着実に引き締まってきていることを踏まえると、いずれは上昇が明確になる可能性が高い。こうしたもとで、個人消費は、着実な増加を続けるとみられる。第4に、極めて緩和的な金融環境が引き続き民間需要を後押しするとみられる。民間銀行貸出は増加しており、短期金利は、経済や物価との関係からみて、極めて低い水準で推移している。

 こうした経済の見通しのもとで、物価を巡る環境も徐々に変化していくと考えられる。第1に、設備や労働といった資源の稼働状況は高まっている。マクロ的な需給ギャップは、需要超過となっており、先行き超過幅を緩やかに拡大していくとみられる。第2に、ユニット・レーバー・コスト(生産1単位当たりの人件費)は、なお低下を続けているものの、先行きは、景気拡大の長期化に伴って生産性の伸びが鈍化し、賃金の上昇も明確になる中で、下げ止まりから若干の上昇に転じていく可能性が高い。第3に、各種サーベイ調査に示されるように、企業や家計の物価上昇率の見通しは、短期、中長期とも、上方修正されている。

 物価指数に即してみると、2006年度前半の国内企業物価指数は、国際商品市況高などを背景に、前回の見通し対比上振れて推移している。先行きについては、原油価格をはじめとする商品市況や為替相場にも左右されるが、上昇基調を続けるとみられる。

 消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)は、概ね前回の見通しに沿って、プラス基調で推移している。先行き、前年比のプラス幅は次第に拡大し、2006年度は0%台前半、2007年度は0%台半ばの伸び率となると予想される 2

(上振れ・下振れ要因)

 以上述べた見通しは、前述の前提やメカニズムに依拠した上で、最も蓋然性が高いと判断される見通しについて述べたものである。したがって、先行きの経済情勢については、以下のような上振れまたは下振れの要因があることに留意する必要がある。

 第1に、海外経済の動向である。米国経済は、安定成長に軟着陸していく可能性が高いが、住宅価格の調整が予想以上に急激なものとなった場合、個人消費の伸び率低下などを通じて、一段と減速する可能性がある。また、設備や労働といった資源の稼働状況が高いもとで、既往の原油高等と相まってインフレ予想が高まる可能性もある。この場合、金融市場の反応等を通じて、米国経済や世界経済全体に悪影響が及ぶリスクがある。中国では、力強い拡大が続いてきているが、固定資産投資や輸出の動向次第では、見通し期間中の成長率が上振れる可能性がある。また、原油価格をはじめとする国際商品市況も、その状況如何では、世界経済の先行きに影響を与える可能性がある。こうした海外経済の動向次第では、わが国の輸出や生産は上振れ・下振れいずれの可能性もあるほか、海外需要の増大を意識している設備投資行動にも影響を及ぼし得ると考えられる。

 海外経済が予想外に減速した場合などには、供給拡大のペースが速いIT関連財などで在庫調整が発生する可能性もある。もっとも、その場合でも、わが国企業が全体として過剰雇用・設備の調整を終え、収益力も高水準にあることは、景気全体への影響の緩衝材になると考えられる。

 第2に、企業の投資行動の一段の積極化である。これまでのところ、製造業を中心に設備投資が積極化しているが、全体として資本ストックが過剰に積み上がっている状況ではない。もっとも、極めて緩和的な金融環境のもとで、企業が、期待成長率や資金調達コスト・為替相場見通しなど、採算に関する楽観的な想定に基づいて投資を一段と積極化する場合には、成長率が一時的に大きく上振れる反面、その後は資本ストックの過剰な積み上がりの反動が生じ、調整を余儀なくされる可能性がある。また、大都市を中心に地価の上昇地点が広範化してきていることなど、資産価格の動きも、民間需要を押し上げる方向に作用することが考えられる。

 次に、物価上昇率の先行きについても、上振れ・下振れ両方向の要因に留意する必要がある。第1に、需給ギャップに対する物価の感応度に不確実性がある。需給ギャップの需要超過幅が緩やかに拡大していけば、インフレ予想の上昇とも相まって、賃金や物価に上振れ圧力が加わる可能性がある。一方、景気拡大の長期化にもかかわらず、生産性の上昇が継続し、賃金の上昇が遅れる場合には、物価が上昇しにくい状態が続くことも考えられる。第2に、原油をはじめとする商品市況の動向には上下両方向に不確実性が大きい。第3に、潜在成長率の影響である。わが国の潜在成長率は近年上昇しているとみられる。潜在成長率の上昇は、供給面からは、物価の押し下げ要因となる一方、需要面からは、所得見通しの改善や期待収益率の高まりによる支出の増大を通じて物価の押し上げ要因となり得る。

(金融政策運営)

 日本銀行は、本年3月に公表した「新たな金融政策運営の枠組み」に沿って、「中長期的な物価安定の理解」を念頭に置いた上で、経済・物価情勢について2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理することとしている。

 まず、先行き2007年度までの経済・物価情勢について最も蓋然性が高いと判断される見通しについて、政策金利に関して市場金利に織り込まれている金利観を参考にしつつ点検すると(第1の柱)、上述した通り、内需と外需がともに増加するもとで景気拡大が続くとみられる。また、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比は、需給ギャップが需要超過幅を緩やかに拡大し、ユニット・レーバー・コストからの下押し圧力が減じていくもとで、2007年度にかけて前年比プラス幅が次第に拡大していくと予想される。このように、わが国経済は、物価安定のもとでの持続的な成長を実現していく可能性が高いと判断される。

 この間、より長期的な視点を踏まえつつ、確率は高くなくても発生した場合に生じるコストも意識しながら、金融政策運営という観点から重視すべきリスクを点検すると(第2の柱)、企業の収益率が高水準となり、物価もプラス基調で推移している状況下、金融政策面からの刺激効果は一段と強まる可能性がある。例えば、仮に低金利が経済・物価情勢と離れて長く継続するという期待が定着するような場合には、金融行動・投資活動などを通じて、中長期的にみて、経済活動の振幅が大きくなり、ひいては物価上昇率も大きく変動するリスクは意識する必要がある。一方、下振れのケースとしては、景気拡大や物価の上昇が足踏みするような局面も考えられる。ただし、金融システムの安定が回復し、設備、雇用、債務の過剰が解消されてきていることから、それが物価下落と景気悪化の悪循環に転化するリスクは小さいと考えられる。

 先行きの金融政策の運営方針については、上述の2つの「柱」に基づく点検の結果、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境を当面維持しながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準の調整を行うことになると考えられる。

  1. 10月31日開催の政策委員会・金融政策決定会合で決定されたものである。
  2. 今回の消費者物価の見通しは2005年基準の指数を用いている。消費者物価指数は2006年8月に、従来の2000年基準から2005年基準に改定され、同時に前年比計数が2006年1月分に遡って改定された。基準改定により、同指数の伸び率は、2006年1〜7月の平均でみて0.5%ポイント程度低下した。もっとも、このうち、移動電話通信料などで指数計算方法が変更されたことの影響の多くは、当該品目の指数の変化後1年を経過した時点で剥落するため、新旧基準の乖離幅は今後縮小すると考えられる。以上を踏まえると、今回の見通しは、2000年基準で示した前回の見通しと比べ、基調的な判断としては変わりはない。

以上

(参考)

  • 図
  1. 3「大勢見通し」は、各政策委員が最も蓋然性の高いと考える見通しの数値について、最大値と最小値を1個ずつ除いて、幅で示したものであり、その幅は、予測誤差などを踏まえた見通しの上限・下限を意味しない。
  2. 4政策委員全員の見通しの幅は下表の通りである。
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