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金融市場レポート

— 国際金融資本市場の動向
— わが国金融資本市場の動向
— 金融資本市場の今後の留意点
— 市場基盤整備の取組み(2010年中)

2011年2月4日
日本銀行

要旨

国際金融資本市場の動向

2010年春以降、ギリシャ・ショックなどを受けて、リスクに敏感となっていたグローバル投資家は、次第に米国経済の減速傾向に注目するようになり、景気悲観論が強まっていった。こうした流れのもとで、市場では、株価が軟調に推移するとともに、長期金利の低下傾向が明確化した。2010年下期に入ると、米国で金融緩和が強化されるとの観測が強まり、長期金利はさらに低下したが、他方で、株式をはじめとするリスク性資産の価格は回復に向かっていった。その後、年末にかけて、市場予想を上回る経済指標などを受けて、米国景気に対する悲観的な見方が後退したこともあって、異例の水準まで低下していた長期金利は大きく上昇に転じた。このように、米国経済、および、米国の金融政策を巡る見方の変化が、国際金融資本市場の大きな変動要因となった。

この間、欧州財政問題が再燃するなかで、国際金融資本市場では、改めてこの問題に対する懸念が強まった。また、活発な資金流入を背景に上昇を続ける新興国株価や商品市況について、その過熱感を警戒する動きもみられるようになった。

わが国金融資本市場の動向

米国における長期金利の大幅な振れは、国内長期金利に伝播したほか、為替相場への影響を通じて、間接的に株価を動かす場面もみられるなど、わが国の金融資本市場にも、大きな変動をもたらした。

市場ごとにみると、長期金利は、10月初にかけて、内外の追加的な金融緩和期待を背景に、急速な低下をみせたが、その後、米国の長期金利が上昇に転ずるなかで、投資家のポジション調整もあり、年末にかけては水準を切り上げた。株価は、米国における金融緩和期待の強まりを材料としたドル/円相場の下落に上値を抑えられ、米欧対比、弱めの動きを続けた。もっとも、為替が幾分ドル高方向に振れた11月以降は、海外勢による見直し買いが活発化し、上昇基調となった。この間、日本銀行は10月の金融政策決定会合において「包括的な金融緩和政策(包括緩和政策)」の実施を決定した。こうしたもとで、クレジット市場やREIT市場が堅調な地合いを強めるなど、金融環境が全体として緩和方向に進む動きが観察された。また、短期金利は、国内における金融緩和期待が強まった10月初にかけて、低下圧力がかかった後、幾分振れる場面もみられたものの、日本銀行による潤沢な資金供給が継続するもとで、概ね低水準横ばい圏内で推移した。

金融資本市場の今後の留意点

2010年末以降、内外の金融資本市場は、一頃に比べれば、落ち着いた状況となっているが、市場参加者の間では、主要先進国の景気減速懸念の後退に起因する安心感と、先行きのリスク要素に対する警戒感が交錯した状況が続いている。当面は、実体経済関連の指標や、各国のマクロ経済政策動向に市場参加者が敏感に反応する、幾分神経質な地合いが続くものと考えられる。

今後、国際金融資本市場に大きな影響を与え得るリスク要素としては、まず、新興国やコモディティ市場への資金流入の増加に伴う、潜在的な巻き戻しリスクの蓄積が挙げられる。国際金融資本市場の連動性の高さや各種コモディティの金融商品化を勘案すると、資金の流れが逆回転した場合のリスクには注意が必要である。第2のリスク要素としては、ソブリン・リスクの動向を挙げることができる。欧州では、2011年春以降、周縁国の大規模な国債償還といったイベントも控えており、市場の警戒感はなお高い。また、欧州の財政問題は、その帰趨次第では、先進国の財政状況に対する市場参加者の見方にも影響を与える可能性がある。最後に、バランスシート問題を抱えた米国経済に対する見方は、今後も楽観論と悲観論の間で大きく振れる可能性があり、これに伴う金融市場の変動も、潜在するリスクの一つと考えられる。

こうした国際金融資本市場のリスク要素は、海外市場との連動性を強めている、わが国の金融資本市場の先行きをみるうえでも、重要なポイントであると考えられる。

市場基盤整備の取組み(2010年中)

日本銀行は、金融市場の機能や効率性向上に貢献する観点から、市場関係者と連携しつつ、市場基盤整備のための取組みを行っている。国債市場およびレポ市場については、フェイル慣行の見直しが2010年11月に実施されたほか、12月には、国債決済期間の短縮について、2012年前半にまずは決済期間を1営業日短縮することが合意された。また、社債、証券化商品、店頭デリバティブの各市場についても、市場機能の向上に向けた取組みの検討が行われた。このほか、災害時の金融市場の安定を図る観点から進められている市場の業務継続体制の整備については、短期金融市場、外国為替市場および証券市場による3市場合同訓練が2010年2月と11月に実施され、市場間の連携強化の面で大きな進展がみられた。

日本銀行から

本レポートの内容について、転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融市場局までご相談ください。