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金融市場レポート

金融危機と世界的な景気後退圧力の高まり

2008年下期の本邦金融市場の動向:市場機能の低下と資産価格の大幅な変動

金融危機に対する中央銀行と政府の政策対応

市場機能面の課題と日本銀行の取組み(2008年中)

2009年1月30日
日本銀行

要旨

金融危機と世界的な景気後退圧力の高まり

米国のサブプライム住宅ローン問題を契機に始まった今回の金融混乱は、2008年秋口以降、世界的な金融危機へと発展していった。この金融危機は、02年頃から07年夏までにみられた世界的な信用拡張期において蓄積された「金融の不均衡」が巻き戻される過程で発生したものである。米欧の金融機関が、大きな流動性リスクを抱え込みながら国際資金取引の仲介において業容を拡大させてきたこと、そして、そうした金融取引の拡大が、実体経済の拡大に比べ行き過ぎていたことなどが、その後の調整を深くしている。

07年夏以降、先進各国の中央銀行は、流動性供給の拡大によって金融混乱の沈静化に努めてきたが、08年9月に、米国の主要投資銀行であったリーマン・ブラザーズが経営破綻したことなどをきっかけに、銀行間市場では、カウンターパーティ・リスクを意識した動きが急速に強まったほか、ターム物を中心に市場流動性が極端に収縮し、緊張感が高まった。銀行間市場の緊張の高まりは、企業や家計など非金融部門の資金調達環境の急激な悪化にもつながり、経済全体でリスク回避的な傾向が強まっていった。このため、銀行間市場のみならず、様々な経済主体が参加する金融資本市場の機能が全般に低下した。こうした中、景況感が急激に悪化し、先行きの経済見通しや金融資産評価に関する不確実性は一段と高まり、金融と実体経済間の負の相乗作用が強まっていくこととなった。

負の相乗作用による影響は、先進国経済のみならず、これまで比較的堅調に推移してきた途上国経済においても、明確になっていった。07年までの期間において、先進国と途上国間の国際資金取引の拡大を伴いながら、世界的な信用拡張が進んできたため、資金取引の流れが一旦逆回転し始めると、その影響は、世界各国に「同時」にかつ「急速」に広がる結果となった。

2008年下期の本邦金融市場の動向:市場機能の低下と資産価格の大幅な変動

本邦金融市場は、2008年上期までは、国際金融市場の混乱の影響を受けつつも、相対的に安定して推移してきたが、下期になると、米欧の金融混乱の影響をより強く受けるようになり、様々な市場で機能が低下した。

まず、短期金融市場においては、わが国でも、リーマン・ブラザーズの破綻を契機に、カウンターパーティ・リスクに対する市場参加者の警戒感が高まり、市場取引が細ったことから、金利に上昇圧力が加わった。国債市場では、08年上期中から既に流動性が低下していたが、9月以降、資金流動性制約に直面したヘッジファンドなど海外投資家のポジション巻き戻しの影響がより顕著に現われ、金利体系の歪みが拡大するなど、市場の価格発見機能が低下した。また、景況感の急激な悪化や海外投資家によるデレバレッジから株価は大幅に下落し、このことが、わが国の投資家のリスク許容度を低下させ、CP市場や社債市場などクレジット市場のスプレッド拡大の一因となった。そして、長短クレジット市場の機能低下を背景に、企業が銀行借入れに対する依存度を高めた結果、銀行は短期金融市場での資金調達を強めるとともに、資金放出に抑制的になり、銀行間取引金利の上昇圧力として跳ね返っていった。

外国為替市場においても、市場参加者のリスク回避的な動きが強まる中、市場流動性が低下し、変動の激しい相場展開となった。円は、内外の景況感や金利差を反映しつつも、ボラティリティの急上昇を契機にキャリートレードのポジションが巻き戻されたことなどから、大幅に増価した。急速な円高は、07年までのわが国の景気拡大の牽引役であった製造業を中心に、収益見通しの大幅な下方修正をもたらしたほか、金融面でも、株価下落を増幅し、国内投資家のリスク許容度を低下させるという影響を及ぼした。

金融危機に対する中央銀行と政府の政策対応

主要先進国の中央銀行は、金融危機による実体経済の悪化に対して大幅な利下げを行うとともに、銀行間市場の機能低下が金融緩和効果を減殺している状況を改善するために、様々な金融調節上の工夫を行いながら、流動性供給を拡大させた。また、米欧の各国政府は、金融機関の問題に対して、当初は個別にケースバイケースで救済策を講じてきたが、金融システム全体が不安定化したことから、銀行債務保証や公的資本注入など、より包括的な政策パッケージの導入に踏み切った。さらには、銀行間市場だけではなく、金融資本市場全般の機能が低下し、企業や家計も含む経済主体全体の資金調達環境が厳しさを増していく中、中央銀行や政府は、機能低下の目立つ特定市場に対して、流動性を回復させるために、資産買取りなどの手段も講じた。

公的当局による政策の総動員によって、国際金融システムの一段の不安定化は一応抑え込まれたが、国際金融資本市場は依然として高い緊張状態にあるほか、世界経済の成長見通しの下方修正が続き、景気後退の深さと期間に関する不確実性も大きいままである。経済活動が回復していくためには、過去の信用拡張期に蓄積された「金融の不均衡」の調整が不可欠となるが、その調整進捗は、経済活動に対して下押し圧力をもたらす。例えば、レバレッジを過度に高めていた金融機関のバランスシートには、必然的に縮小圧力がかかり、それに伴って、家計や企業などに対する与信スタンスは厳しさを増していく。しかし、実体経済の長期にわたる大幅な下振れを回避しながら、調整を円滑に進めるには、これら非金融部門の支出行動を支えるための資金調達環境の維持が必要と考えられる。したがって、公的当局は、金融システムの安定化に注力しながら、家計や企業など非金融部門の痛みを和らげるために適切な政策運営を行っていく必要がある。

多くの先進国経済は、実体経済と金融部門間の負の相乗作用による下振れリスクに直面している。同リスクの顕在化に対して、現在の政策枠組みや金融システムが十分なバッファーを用意できているかどうかについて不透明感が残っていることが、先行きの経済見通しから不確実性が払拭されない一つの原因になっていると考えられる。このため、先行きのマクロ経済動向に関する不確実性を抑制し、金融経済の立て直しを図っていくには、政府による一段の財政出動を期待する声も高まっているが、一方で、公的部門へのリスク移転を進める過程では財政悪化を懸念する向きもみられるなど、新たな不確実性が現れつつあることにも注意が必要である。

市場機能面の課題と日本銀行の取組み(2008年中)

日本銀行は、金融市場の機能や効率性向上に貢献する観点から、市場の基盤整備のための取組みを行っている。

2008年中の取組みとしては、取引先が日本銀行に対して行う国債担保の差入れ・払出し事務を外部委託することを可能とした。また、CP発行レート統計の見直しにも取組んだ。このほか、短期金融市場の諸課題への対応状況や、市場機能面での新たな動きをフォローアップする観点から包括的な調査(2008年8月)を実施するとともに、リーマン・ブラザーズの破綻について、短期金融市場への影響やレポ市場における今後の検討課題を取りまとめた。この間、証券化市場では、サブプライム住宅ローン問題を受けて、証券化商品取引の透明性向上を図るため、同商品の追跡可能性(トレーサビリティ)を確保する施策について日本証券業協会のワーキング・グループにおいて検討が行われた。また、店頭デリバティブ取引について、欧米の動向も眺めつつ、市場関係者においてセントラル・カウンターパーティを含むインフラ整備に関する研究・検討が行われている。

このほか、市場の業務継続体制として、地震やテロなどの災害時でも必要な取引・決済を行えるようにしておくことは、個々の市場参加者の利益に適うだけでなく、金融市場や経済全般の安定にも資するものである。08年中は、短期金融市場(コール市場)、外国為替市場および証券市場の各市場において共同訓練が行われるなど、市場レベルでのBCPの取組みが大きく進展した。

日本銀行としても、こうした金融市場における市場慣行の整備や市場インフラ強化に向けた市場参加者の取組みを引き続き積極的に支援していきたいと考えている。

日本銀行から

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