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金融システムレポート(2007年9月号)

2007年9月
日本銀行

金融システムの現状と評価およびその課題:概観

金融システムの現状評価

1.わが国の金融システムは、全体として安定した状態を維持している。こうしたなか、金融システムは、金融仲介における機能度を向上させるとともに、各種のショックに対する頑健性を高めている。もっとも、銀行の長期的な収益基盤は、金融システムの持続的な安定を維持していくために必要な自己資本を確保する観点からは、なお脆弱である。銀行は、リスク・リターンの客観的な把握・評価を通じ、既往のビジネスラインの見直しを行うとともに、顧客の多様なニーズに応える形で、より付加価値の高いサービスを開発・提供することを通じ、長期的な視点から収益基盤の強化を図っていく必要がある。

銀行セクターの健全性

2.銀行経営の現状をみると、健全性の面では、自己資本の質・量両面での充実が進んでいる。こうしたもと、リスク量は2000年代初頭までに比べ抑制的に運営されているが、銀行セクター全体としてのリスク量の中で、株式リスクが最大となっている。また、収益面では、銀行の当期純利益は、歴史的にみて比較的高い水準を維持しているが、これは、ここ数年間における信用コストの大幅な低下に支えられている面がある。実際、先行きの信用コスト率は、潜在成長率をやや上回る経済成長が続いたとしても、大手行で20〜40bp程度を見込んでおく必要がある。さらに、信用コスト等の振れの大きい要因の影響を取り除いた基礎的な収益性指標をみると、その改善テンポは鈍く、銀行にとって収益力強化は引き続き重要な課題である(第1章)。

3.なお、わが国金融機関の一部でも、オルタナティブ投資の一環として、米国サブプライム関連商品を保有している先がみられる。もっとも、全体として、金融機関の総資産に占める同商品の投資規模は小さく、現時点において、米国サブプライム問題がわが国金融システムの安定性に大きな影響を及ぼすものとはみられない。ただし、オルタナティブ投資の多くは、そのリスク特性の複雑さに鑑み、リスク・リターンのプロファイルとその変化を的確に把握・管理していくことが重要である(第1章)。

金融システムの機能度、頑健性

4.銀行の金融仲介機能は、資本制約の緩和によるリスクテイク能力の拡大を背景に引き続き向上している。銀行貸出が緩やかな増加基調で推移しているほか、貸出先や貸出形態の多様化が進んでいる。この間、金融市場では、ファンド等を通じた資金流入の増加に伴い、M&Aや不動産取引の関連で新しい金融仲介チャネルが拡大している。そうしたもとで、わが国の銀行も、M&A取引への融資や不動産ファンド向けノンリコースローンの供与などを通じ、新しい金融仲介チャネルへの関与を強めている。わが国では、これまでのところ、コベナンツや不動産担保評価などの融資条件を大きく緩和する動きが広がっている訳ではないが、ノンリコースローン金利は低下を続けており、リスク対比でみた金利の動向を含め、不動産ファイナンスを巡るリスクについて注意してみていく必要がある(第2章)。

5.金融システムにおける金利リスクや信用リスクの変化への頑健性は、引き続き向上している。金利上昇は、短期的には保有債券の時価評価額を毀損させるものの、中期的には資金利益の回復から収益全体を改善させるとみられる。もっとも、中期的な収益改善は、資産・負債の残存年数構成の違いを反映し、大手行でより顕著に観察される。また、景気が大幅かつ継続的に後退するとのストレスシナリオのもとでも、貸出ポートフォリオの質の改善を反映して、信用リスク量は近年大きく低下している。ただし、景気後退期には、信用リスクだけでなく、株式リスクも同時に顕在化する可能性が高いことに十分な注意が必要である(第3章)。

銀行セクターの長期的な収益性

6.長期的な視点から、わが国銀行セクターの収益性をみると、経費率が低水準に抑制されているものの、利鞘が薄いため、平均的な信用コストを十分カバーできていない。銀行セクターの長期的にみた収益性は、金融システムの持続的な安定を維持していくために必要な自己資本を確保する観点からは、なお脆弱であると言える(第4章)。

7.銀行セクターの収益性を向上させていくためには、長期的な視点に立って、対応策を考えていく必要がある。すなわち、個別金融機関が利鞘を改善させていくためには、顧客の多様なニーズに応える形で、金融サービスの差別化を図り、提供するサービスの価格と品質の組み合わせを多様化していくことが重要である。また、その過程では、投資銀行業務やグローバルな決済業務など、付加価値の高い業務分野への資源投入も展望されよう。こうした新たなビジネス展開を可能とするためには、より客観的なリスク・リターン評価のもとで、既往のビジネスラインの見直しを進め、資本を効率的に活用する余地を一段と拡大させていく必要がある(第4章)。

8.客観的なリスク・リターンの評価に基づき、そのバランスを改善させるための方向性として、第1に、株式保有を前提とした大企業との金融取引は、株価変動リスク等のコストの大きさに見合ったリターンをもたらしておらず、採算性改善への取り組みが必要とみられる。第2に、与信ポートフォリオ管理(CPM)により、貸出ポートフォリオのリスク・リターンのバランスをより客観的に評価し、企業規模や業種、地域に応じた貸出の配分を改善していくことができるとみられる。第3に、中小企業金融でも、より小規模な貸出については、信用情報機関等のインフラを整備しつつ、クレジットスコアリングの拡充を図ること等を通じ、貸出のリスクをより客観的に評価し、リターンのさらなる向上につなげていくことが期待される(第4章)。

本件に関する照会先

日本銀行金融機構局経営分析担当

E-mail: post.bsd1@boj.or.jp

日本銀行から

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特に断りがない限り、本レポートは2007年8月24日時点までの情報に基づき作成されています。