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金融システムレポート(2008年3月号)

2008年3月
日本銀行

金融システムの現状と評価:概観

金融システムの現状評価

1.米国サブプライム住宅ローン問題を契機とした国際金融市場の動揺が広がる中にあって、わが国の金融システムは、全体として安定した状態を維持している。銀行セクターの各種リスク量は全体としてみて、自己資本との対比で抑制された水準にあり、金利リスク、信用リスクのストレスシナリオに対する銀行システムの頑健性も総じて高い水準にある。

2.他方、わが国銀行の収益は、資金利益、非資金利益ともに伸び悩んでおり、基礎的な収益の改善は足踏みしている。地域銀行では、収益力や経営体力面での銀行間の格差が拡がっている。金融システムの持続的な安定を維持していく観点からも、銀行の長期的な収益基盤を強化していく必要がある。

3.わが国銀行の米国サブプライム住宅ローンに関連するエクスポージャーは、証券化商品への投資家としてのものが大半であり、証券化商品の組成・転売段階への関与は、米欧金融機関に比べ小さい。こうしたもとで、わが国金融機関の同問題に関連する損失は、海外市場における問題の深刻化につれて拡大してきたが、各金融グループ、各金融機関の期間収益や経営体力の範囲内で吸収可能とみられる。このため、現時点において、この問題がわが国金融システムの安定性に深刻な影響を及ぼすとはみられない

銀行経営の現状

4.銀行経営の現状をみると、収益面では、銀行の2007年度上期の当期純利益は、大手行、地域銀行とも前年同期対比減益となった。資金利益はようやく底を打ったものの、非資金利益が伸び悩んだほか、信用コスト、経費が増加し、当期純利益を押下げた。特に、ここ数年極めて低い水準にあった信用コストは、貸倒引当金からの戻入れが剥落し、現状程度の経済成長率のもとにおける平均的な水準に収斂してきている。また、米国サブプライム住宅ローン問題関連および消費者金融会社等貸金業向けの投融資関連で損失が生じている。信用コスト等の振れの大きい要因を取り除いた基礎的な収益性の指標をみても、その改善テンポは足踏み状態にあり、収益性向上が引き続き重要な経営課題となっている。

5.銀行経営の健全性の面では、大手行、地域銀行とも、各種リスク量は全体としてみて、自己資本との対比で抑制された水準にある。ただし、リスク量の中では、信用リスクが大手行、地域銀行ともに幾分増加した。また、大手行では、引き続き株式リスクが最大のシェアを占めているほか、地域銀行では、金利リスクが大手行に比べ高めの水準にある。この間、自己資本比率は、大手行、地域銀行とも、ここ数年の改善傾向が鈍化した。

6.米国サブプライム住宅ローン関連の証券化商品を含むオルタナティブ投資の動向をみると、残高や有価証券投資に占める割合は増加傾向にあるが、足許増勢は鈍化している。ただし、米国サブプライム住宅ローン問題を通じて再確認されたとおり、オルタナティブ投資には、リスク特性が複雑なものが数多く存在しており、リスク・リターンの変化について的確に把握・管理していくことが重要である。

金融仲介機能の動向とその抱えるリスクの変化

7.金融システムを巡るリスクについて、マクロ的な視点からみると、信用量の膨張、過度なリスクテイクなど、潜在的に金融システムの安定を脅かしかねない要因は、全体として抑制されているとみられる。すなわち、金融部門を通じた信用量の増加は、緩和的な金融環境が維持されるもとでも、これまでのところ緩やかなものにとどまっている。これには、企業セクターが潤沢なキャッシュフローを背景に引き続き資金余剰状態にあり、金融負債の拡大に慎重であることが背景にある。

8.次に、金融仲介チャネルを個別にみると、不動産ファイナンスを巡る環境は、J-REIT価格が下げ足を速めているほか、大都市圏の地価も上昇率に頭打ち傾向がみられる。こうしたなか、不動産業に対する銀行の融資姿勢が幾分慎重化しているようにうかがわれる。不動産業に対する銀行のエクスポージャーの大きさに鑑みると、不動産ファイナンスを巡るリスクについては、今後とも十分に注意してみていく必要がある。また、M&Aファイナンス、シンジケートローン、証券化市場等を活用した新たな金融仲介チャネルも徐々に広がりつつある。この間、国内でも、わが国固有の要因から証券化商品の格下げ等も発生しており、こうした新しい金融仲介チャネルを巡るリスク要因についても注視していくことが重要である。

銀行システムの頑健性

9.金利リスクや信用リスクの変化に対する銀行システムの頑健性は、引き続き全体として高い状態が維持されている。このうち金利リスクについてみると、金利上昇は、短期的には保有債券の時価評価額を毀損させるものの、中期的には資金利益の回復から収益全体を改善させると想定される。中期的な収益改善は、資産・負債の残存年数構成の違いを反映し、大手行でより顕著に観察される。一方、地域銀行のうち、貸出の平均残存年数が長い先では、貸出金利息の回復が大きく遅れるとみられる。このため、自行の金利観も踏まえつつ、金利スワップでのヘッジや資産のオフバランス化、定期性預金など長期負債の活用等を通じ、ポートフォリオ全体の金利リスクを適切に管理していくことが求められる

10.また、信用リスクについても、景気が大幅かつ継続的に後退すると想定したマクロ・ストレステストの結果を踏まえると、銀行システムの頑健性は、総じて高い状態を維持しているとみられる。貸出ポートフォリオの質は、大手行、地域銀行ともに総じて良好な状態にあるとみられるが、一部には悪化の兆しもみられ始めており、貸出ポートフォリオ全体のリスク・リターンのバランスの変化に目配りしていくことが重要と考えられる。

米国サブプライム住宅ローン問題を踏まえた金融システム面での教訓・課題

11.米国サブプライム住宅ローン問題の深刻化を発端とした国際金融市場の動揺はなお続いており、評価も暫定的なものとならざるを得ないが、金融システム面での教訓・課題について現段階で整理を試みると、以下のような点が指摘できる。まず、多段階にわたる証券化の過程で、レバレッジの拡大と同時に、リスクの過小評価が生じていたと考えられる。実際、金融機関は、証券化商品を組成・転売する過程で、市場流動性の低い証券化商品の在庫や投資ビークルに対する流動性供給のコミットメントなどのリスクを適切に評価・管理できていなかったと考えられる。また、投資家や金融機関の中には、複雑に加工された証券化商品のリスクを適正に評価できていなかった先が少なくなかったとみられる。こうした点を踏まえると、リスク配分の仲介者となる金融機関が、関与するリスクを的確に把握・管理すること、また、リスクの受け手となる広範な投資家がリスクに関する情報を的確に把握し、評価することを通じて、市場規律が有効に働くよう、情報開示等の市場インフラの整備を図っていくことが重要である。

12.この間、マクロ的な視点からみると、グローバルに物価安定のもとで持続的な成長が続き、緩和的な金融環境が維持されている中で、潜在的に金融システムの安定を脅かしかねない要因が拡大していたと考えられる。こうした可能性をリアルタイムで的確に捉え、対処していくことは容易ではないが、金融システムの安定について、その持続可能性という観点から常に点検していくことが重要である。日本銀行としては、こうした米国サブプライム住宅ローン問題の経験も踏まえつつ、金融システムの安定性について、包括的な分析・評価を行うとともに、市場関係者等とのコミュニケーションを深め、わが国金融システムの持続的な安定確保に貢献していきたいと考えている。

本件に関する照会先

日本銀行金融機構局経営分析担当

E-mail: post.bsd1@boj.or.jp

日本銀行から

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特に断りがない限り、本レポートは2008年2月26日時点までの情報に基づき作成されています。