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金融システムレポート(2008年9月号)

2008年9月
日本銀行

金融システムの現状と評価:概観

金融システムの現状評価

1.米国サブプライム住宅ローン問題を契機としたグローバルな金融市場の動揺が続くなかにあって、わが国の金融システムは、全体として安定した状態にあるが、基礎的な収益力の改善は足踏みしているほか、金融機関の収益力、経営体力のばらつきも拡大してきている。
 すなわち、銀行セクターの各種リスク量は全体としてみて、現状、自己資本との対比で抑制された水準にある。ただし、リスク量のなかでは、景気が停滞するもと、信用リスクが増加に転じ始めており、今後の動向に注視が必要である。また、大手行では、株式リスクが一段とウエイトを高めているほか、地域銀行では、金利リスクが大手行に比べ高めの水準にある。自己資本比率は、有価証券評価差益の減少、差損の拡大などから、大手行、地域銀行とも、ここ数年の改善傾向が鈍化した。

2.この間、わが国銀行のサブプライム関連損失は、海外市場における問題の深刻化に連れて拡大してきたが、証券化商品への投資家としてのエクスポージャーが大半であったこともあり、各金融機関の期間収益や経営体力の範囲内で吸収可能な規模にとどまっている。このため、現時点において、この問題がわが国金融システムの安定性に深刻な影響を及ぼすとはみられない。ただし、米国において金融システムの金融仲介機能の低下と実体経済への下押し圧力という負の相互作用が懸念される状況となっており、世界経済への影響やそれを通じたわが国経済への影響に留意していく必要がある。

3.わが国銀行の収益をみると、信用コストが過去の平均的な水準に回帰するなか、基礎的な収益力の弱さが決算上も鮮明となった。大手行、地域銀行とも、2005年度に過去最高益を記録した後、2年連続で減益となり、特に、大手行では、2005年度対比でみて半減となった。また、地域銀行についても、米国サブプライム住宅ローン問題の影響が限定的であるにもかかわらず、赤字先が増加した。ここ数年における銀行の高収益は、過去に積み立てた貸倒引当金が戻し入れられた結果として、信用コストが大幅かつ一時的に減少したことが大きく寄与していた。大手行、地域銀行ともに、各行の経営資源・地盤など比較優位を踏まえたビジネスモデルを確立させ、基礎的な収益力向上を図っていくことが求められる。

金融システムが直面するリスクの変化

4.わが国景気が停滞するもとで、信用リスクが増加に転じ始めており、金融機関では、リスクに見合った金利設定という点を含めて、よりきめ細かな信用リスクの管理が求められる。しかしながら、貸出総利鞘は、信用リスクとの対比でみて小さいほか、信用リスクの上昇を織り込んだ貸出スプレッドの拡大もみられていないように窺われる。金融機関が金融仲介機能を持続可能な形で円滑に発揮していくうえでは、与信管理上、信用リスクの変化を勘案した調整を必要に応じて行っていくことが求められる。そうした金融機関行動が金融機関の収益や企業の資金繰りにどのような影響を及ぼすか、今後とも注意深く点検していく必要がある。なお、不動産ファイナンスを巡る資金フローが幾分停滞し、都市部における地価上昇テンポの鈍化やマンション需給の引緩み、オフィスビルの空室率上昇といった環境変化のなかで、金融機関の融資姿勢は、外資系をはじめとして慎重化の方向にあり、不動産セクターを取り巻く金融環境は厳しさを増している。

5.金融環境面では、金利水準は実体経済活動の水準との対比でみて低い水準にあり、緩和的な金融環境が維持されている。急激な信用量の膨張、過度なリスクテイクなど、金融システムの安定を脅かしかねない要因は、全体として抑制されているとみられる。また、企業セクターが潤沢なキャッシュフローを背景に引き続き資金余剰状態にあり、金融部門を通じた信用量の増加は、なお緩やかなものにとどまっている。ただし、銀行の個人向けローンの中心となっている住宅ローンでは、金利優遇幅の拡大等から採算性が大きく悪化しており、金利リスク量も増加している点に注意が必要である。

金融システムの頑健性

6.金利や景気の大幅な変動を想定したマクロ・ストレステストの結果を踏まえると、銀行システムの金利リスクや信用リスク、株式リスクに対する頑健性は、引き続き全体として高い状態が維持されている。もっとも、金融システム全体としての安定性を評価していくうえでは、金融機関によって、基礎的な収益力や自己資本の水準からみて、ストレスに対する耐性のばらつきが大きい点に留意が必要である。こうしたなか、有価証券評価差額をみると、株価の下落などから、差損を抱えている先が増加しており、株価動向によって、自己資本比率が変動しやすくなっている点に注意が必要である。

7.米国サブプライム住宅ローン問題をきっかけに、景気変動等によって金融機関行動が変化し、これがさらに景気変動を増幅させるメカニズム——いわゆる金融システムにおけるプロシクリカリティ——が注目されている。このメカニズムについては、(1)銀行の自己資本比率の変動、(2)銀行の与信行動の変化、(3)実体経済活動の振幅の増減という3つの段階に分けて考える必要がある。わが国についてみると、不良債権問題のなかで銀行の自己資本が大きく毀損された時期に、自己資本の不十分さがネックとなって銀行の与信行動が制約され、経済活動を下押しした可能性が考えられる。銀行の自己資本比率の変動がその与信行動に影響を及ぼし、ひいては実体経済活動の変動を増幅させることにつながるかは、銀行の自己資本バッファーの運営や、金融経済環境の情勢等により異なり得る。

銀行経営上の課題

8.銀行セクターの収益性向上は、従来からも繰り返し、重要な経営課題であると指摘してきた。しかしながら、わが国の金融システムをみると、多くの金融機関が同質的なサービスを低価格で供給する競争を展開しており、こうしたもとで、収益性を向上させていく具体的な処方箋を見出すことは難しい課題である。ただ、大きな道筋としては、これまでの『金融システムレポート』で強調してきたように、リスク・リターンのバランスを適切に評価し、顧客のニーズに応える形で、多様で差別化された金融サービスを提供していくことが求められていることに変わりはない。そのために、大手行、地域銀行ともに経営環境を踏まえて、各行の経営資源・地盤など比較優位を踏まえたビジネスモデルを確立していくことが期待される。

9.大手行については、米欧主要金融機関と比べ、相対的にみて、リテール部門、ホールセール部門からの収益がバランスしている一方で、資産管理部門への取組みが遅れているように見受けられる。国内・海外部門に分けてみると、国内業務の収益性が相対的に低い一方、国際業務では、相応の収益性を上げているが、その収益への貢献は小さい。国内業務の収益性を引き上げるために、付加価値の高い金融サービスを提供していくことに加え、資本の効率的な活用という観点から、比較優位を有する分野への選択と集中を進めていくことも求められよう。また、国際業務についても、長い目でみた収益基盤を確立していくための戦略的な取り組みが求められる。

10.地域金融機関については、収益性、経営体力の格差が一段と鮮明化している。地域金融機関が地域経済発展のため、金融仲介機能を安定的に発揮していくうえでは、経営基盤の強化を図っていく必要がある。この点、規模の小さい金融機関では、費用・利潤の両面において、規模の経済性を享受していく余地が大きい。高度な経営判断を伴う合併・経営統合も選択肢の1つとして視野に入れつつ、規模の経済性の追求によって、費用・利潤の効率性を高め、基礎的な収益力の向上と経営基盤の安定化を図っていくことが期待される。

本件に関する照会先

日本銀行金融機構局経営分析担

E-mail: post.bsd1@boj.or.jp

日本銀行から

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特に断りがない限り、本レポートは2008年9月16日時点までの情報に基づき作成されています。