調査・研究

ホーム > 調査・研究 > 日本銀行レポート・調査論文 > 金融システムレポート > 金融システムレポート(2009年9月号)

金融システムレポート(2009年9月号)

2009年9月
日本銀行

金融システムの現状と評価:概観

金融システムの現状評価

1.わが国の金融システムは、2008年来の世界的な金融危機の影響を残しつつも、総じて安定性を維持し得ている。企業金融を巡る環境は、2008年末から2009年初にかけて、厳しい状態に陥った後、このところ改善の動きが続いている。また、金融機関の自己資本基盤も大きくは損なわれていない。もっとも、わが国の金融機関が抱えるリスク量は、株式リスク、信用リスクを中心に、自己資本対比でみて増加している。わが国の金融機関は、金融仲介機能の適切な発揮を図っていくためにも、経営体力の強化とリスク管理の充実を図ることが重要である。

金融仲介機能の動向

2.金融資本市場を通じた企業の資金調達環境は、2008年秋以降、急激に悪化した後、日本銀行の潤沢な流動性供給や企業金融円滑化の支援策の効果もあって、このところ改善の動きが続いている。大企業向け貸出は製造業向けを中心に顕著に増加してきたほか、中小企業向け貸出は公的支援に支えられ、過去の景気後退局面と比べても減少幅が抑えられてきた。この間、金利面では、景気悪化に伴って企業の信用リスクが高まっているにもかかわらず、貸出利鞘の拡大は抑えられている。わが国の金融システムは、金融と実体経済の負の相乗作用を抑制する方向で金融仲介機能を維持してきたとみられる。

3.この間のわが国企業の財務動向をみると、急激な収益の悪化を背景に、債務の返済力を表す財務指標が急速に悪化している。景気は、このところ下げ止まり、2009年度後半以降は緩やかに回復していくとみられる。こうした状況のもとで、企業も2009年度後半以降、収益を回復させる計画を立てている。もっとも、景気の下振れリスクは依然として高い状況が続いており、わが国企業の収益環境が一段と厳しさを増していく可能性もある。こうした場合にも、企業の資金需要の変化に対し、金融機関が適切に金融仲介機能を発揮していけるかどうか、注意深くみていく必要がある。

金融システムの頑健性

4.先行きについて、厳しいマクロ経済環境のもとで生じ得る信用コストの増加や株価の低迷を想定した場合でも、わが国金融機関の自己資本基盤が著しく低下する事態は避けられ、わが国金融システムの頑健性は全体として損なわれていないと評価できる。もっとも、銀行の先行き数年間の損失見込み額が基礎的な収益力を上回る可能性があるほか、経営体力が相対的に弱い先で自己資本比率が低水準に止まる惧れもあることから、金融システムの頑健性の先行きには不確実性があるとみられる。

5.わが国金融機関の資金流動性リスクは、円貨の面では、全体として引き続き抑制されている。外貨についても、運用・調達構造からみて大きなギャップを抱えている状況にはないが、市場機能の低下といった事態の発生も念頭に置きつつ、引き続き、適切なリスク管理が求められる。また、金利リスクについては、地域銀行を中心に、住宅ローンや普通預金調達の増加により、運用と調達の残存年数ギャップが趨勢的に拡大している点も踏まえ、適切に管理する必要がある。

金融機関経営の課題

6.上記の評価を踏まえると、わが国の金融機関は、これまで長期に亘って蓄積されてきた問題を重要な経営課題として受け止め、その解決に向けて適切に取り組んでいく必要がある。
 第1に、信用リスクを適切に管理するとともに、その評価を貸出金利に反映させることによって、安定的な収益性を確保し、経営基盤の強化を図ることが重要である。わが国の金融機関には、これらを通じて、適切な金融仲介機能を果たしていくことが求められる。
 第2に、株式リスクへの対応が挙げられる。これまでの実績を踏まえると、株式保有が銀行の基礎的な収益性の向上に必ずしも結びついておらず、また、過去2年間については、株式保有に伴う銀行の損失は基礎的な収益力を大幅に上回っている。株式保有リスクの大きさを踏まえ、銀行はそのリスクの削減に向けた取り組みを強化していく必要がある。
 第3に、自己資本基盤の強化である。わが国の金融機関は、金融経済環境の変化がもたらすリスクに対応し得るよう、市場からの資本調達や内部留保の蓄積を通じ、自己資本基盤を強化していくことが重要である。
 第4に、企業金融を巡る公的支援の措置が、いずれ徐々に見直されていくことを展望すると、金融機関にとっては、これに依存しない自律的な金融仲介機能発揮のための体制整備が重要である。金融機関には、企業の成長性と安定性の的確な評価と、それを踏まえた金融サービスの供給が求められており、そのことによって、価格メカニズムを通じたわが国経済の効率的な資源配分の実現に一層貢献していくことが期待される。

わが国における政策対応

7.わが国では、2008年秋以降、世界的な金融危機の一段の深刻化に対応し、様々な施策が講じられてきた。
 日本銀行は、金融政策面において、(1)政策金利の引き下げ、(2)金融市場の安定確保のための措置、(3)企業金融円滑化の支援のための措置を実施している。また、金融システム面では、考査・モニタリングを通じて金融機関の経営実態やリスク管理の動向を把握するとともに、金融市場動向の情報等も活用しながら、金融システム全体の安定性に関して分析・評価を行っている。これらを踏まえ、今回の金融危機の局面では、金融機関からの株式の買入れ再開や金融機関向け劣後特約付貸付の供与等の施策を講じている。
 日本銀行としては、今後とも、個別金融機関に対し、必要に応じてリスク管理等に関する助言・指導を行うとともに、マクロ・プルーデンスの視点に立って、金融システムの現状と課題を的確に評価し、政策運営に活かしていくことによって、わが国金融システムの安定確保に努めていく考えである。

本件に関する照会先

日本銀行金融機構局経営分析担当

E-mail: post.bsd1@boj.or.jp

日本銀行から

金融システムレポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

特に断りがない限り、本レポートは2009年8月31日時点までの情報に基づき作成されています。