このページの本文へ移動

金融システムレポート(2010年9月号)

国際金融システムを巡る先行き不透明感の高まり
与信市場における銀行の役割の変化
自己資本基盤の増強とリスクの蓄積
わが国金融機関の経営課題と日本銀行の取組み

2010年9月
日本銀行

金融システムの現状と課題:概観

わが国金融システムの現状評価

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持してきている。金融仲介の面では、銀行が貸出や債券投資を通じて与信シェアを拡大させた状態が続いており、貸出金利も明確に低下している。企業等に対する与信は総じて円滑に行われている。また、金融システムの頑健性も向上している。銀行は、普通株式増資を相次いで実施するなど、自己資本基盤の強化に努めており、自己資本対比でみたリスク量は減少している。

もっとも、国際金融システムにおいては、欧州ソブリン問題の表面化や米国景気の減速懸念の台頭などにより、先行き不透明感が高まった状態にあり、海外発のショックがわが国に及ぶリスクに引き続き注意する必要がある。また、国内においては、企業の資金需要が伸び悩む中で、貸出利鞘の縮小から銀行の基礎的な収益力は低下している。大企業に比べ中小企業の財務改善が遅れる中で、銀行貸出債権の質の低下が続いていることにも注意する必要がある。

わが国の金融機関は、内外の金融経済環境を念頭に置き、以下の経営課題に取り組むことが重要である。第一は、貸出債権の質の低下が続くもとで、将来ストレスが顕在化した場合でも損失をカバーし得るだけの自己資本を確保する必要がある。銀行は、自己資本を巡る国際的な新規制導入の動きも踏まえつつ、自己資本基盤を強化していくことが重要である。第二は、リスク特性を踏まえた、株式リスクの計画的な削減である。株価の大幅な下落が自己資本を減少させるリスクはなお残存している。第三は、安定的な収益の確保である。基礎的な収益力の改善は、今後の内部留保の蓄積ペースを引き上げるのみならず、追加的な増資の可能性を高め得る。金融機関には、成長力の高い企業や事業分野を発掘することを通じて、収益機会を確保していくことが望まれる。これは、将来にわたる金融仲介機能の円滑な発揮にも資する。また、信用リスクや市場リスクなどの管理の実効性を向上させることで、リスク控除後の収益力を強化することも重要である。

金融仲介機能

わが国企業向けの与信は、2009年度以降減少している。企業金融面では、大企業を中心に資金繰りが安定したことで、企業の外部資金需要は減少している。中小企業でも、公的保証への依存度が徐々に低下するなど、資金繰りは改善の動きが続いている。もっとも、中小企業の中には、依然として資金繰りの厳しさを訴える先も多い。

わが国のマクロの与信量は、長期的な趨勢に照らしてみる限り、実体経済との対比でほぼバランスのとれた状態にある。与信主体別にみると、銀行が、機関投資家など銀行以外の金融機関の与信を一部補完した状態が続いている。この間、銀行の貸出金利や社債の発行金利は、長期の与信や低格付け先向けの与信を含め広範囲に低下を続けており、緩和的な資金調達環境が維持されている。以上を踏まえると、わが国の金融システムは、全体として概ね円滑な金融仲介機能を果たしていると考えられる。

もっとも、将来にわたる金融仲介機能の円滑な発揮という観点からは、以下の点で留意が必要である。まず、先行きにおける貸出金利の低下余地が限定的となりつつあるように窺われる。また、貸出市場以外でも銀行の与信シェアが拡大しているため、銀行部門にショックが加わった場合、クレジット市場全体にその影響が幾分拡がりやすくなっている可能性がある。

金融システムの頑健性

わが国の銀行が抱えるリスク量は、2009年度中、自己資本基盤の強化などを背景に、自己資本対比で減少した。また、2010年入り後、欧州ソブリン問題の表面化を契機に海外の金融資本市場で緊張が高まった中でも、銀行の資金流動性リスクは円貨・外貨ともに抑制されてきた。

もっとも、銀行の基礎的な収益力が改善しない中で、貸出債権の質の低下と貸出金利の低下が同時に生じている。企業業績は全般に改善しているとはいえ、一部の非製造業や中小企業などには、企業財務の改善が遅れている先も多い。このため、収益対比で大きな信用コストが発生しやすく、先行き銀行収益の圧迫要因となりかねない。また、国債投資に対する選好が強まる中、地域銀行を中心に、金利リスクが一段と蓄積される方向にある。株式リスクは、削減が進められているものの、特に大手行にとっては、なお大きなリスク要素である。

先行きについて、景気減速と株価下落が同時に発生するというストレスが銀行の自己資本へ与える影響を点検すると、最近の増資の奏功や、大企業製造業を中心とした財務の改善もあって、銀行全体として自己資本基盤が著しく損なわれる事態は回避されるとみられる。わが国金融システムの頑健性は向上している。

しかし、相対的に収益力や自己資本基盤の弱い先では、自己資本比率が先行きも低水準に止まる可能性があるなど、金融システムにはなお注意を要する点が残されている。さらに、ストレス・シナリオのもとで低下した自己資本比率の回復過程では、貸出残高の削減など金融仲介機能の低下を通じて、実体経済活動に制約が及ぶ可能性があることにも、引き続き留意する必要がある。

照会先

金融機構局金融モニタリング課経営分析グループ

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp

日本銀行から

本レポートは、原則として2010年8月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。