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金融システムレポート(2011年10月号)

2011年10月18日
日本銀行

概観

先行き不透明感が高まる外部環境

わが国の金融システムを取り巻く環境をみると、先行き不透明感が高まっている。欧州では、2009年末以降、周縁国の政府債務問題が相次いで表面化しており、銀行の資金調達環境が悪化している。米国では、家計のバランスシート調整が続き、銀行の住宅ローンの不良債権比率も高止まりしている。一方、新興国では、緩和的な金融環境が続くもとで、不動産市場などの過熱感はなお強いとみられるが、最近では経済成長率が幾分鈍化している。こうした中、国際金融資本市場では神経質な展開が続いている。

わが国では、東日本大震災の発生以降も、企業の資金繰りは総じてみれば改善傾向が維持されている。ただし、一部の中小企業や家計は引き続き厳しい財務状況に直面している。

緩和の動きが続く金融環境

低金利環境が持続する中、企業・家計を取り巻く金融環境は総じて緩和の動きが続いている。震災後も、CP・社債市場では概ね良好な発行環境が続いているほか、貸出市場では銀行の貸出姿勢が引き続き積極的である。銀行全体で住宅ローン残高を増加させているほか、成長分野向け貸出への取り組みもみられている。被災地では、金融機関が震災関連の保証も活用しながら、現地の借入需要に応じている。

銀行のこのような積極的な貸出姿勢の背景としては、預金が安定的に流入する一方で、企業・家計の借入需要が低迷している点が挙げられる。新たな収益源を求めて、大手行は海外与信に注力する一方、地域銀行は本店所在地以外での貸出攻勢を強めている。こうした中で、大都市圏を中心に貸出競争が激化しており、貸出金利低下の一因となっている。

金融機関のリスクは抑制的

わが国では、総与信・GDP比率が長期的な趨勢の近傍で推移するなど、マクロ・リスク指標からは、金融不均衡の蓄積は確認されない。銀行やそれ以外の金融機関が抱えるリスクも、自己資本対比でみて概ね抑制された状態にある。米欧と比べても、わが国金融機関の信用コスト率や不良債権比率は低位にとどまり、外貨を含む資金流動性リスクも抑制されている。

ただし、内外の金融資本市場間の連関が高まっており、わが国の金融資本市場は、やや神経質な展開となっている。銀行や生命保険会社は、株式リスクが依然として大きいうえに、国債や外債などの市場性エクスポージャーを徐々に積み増している。このため、海外市場の動向から直接ないし間接的な影響を受けやすくなっている点に注意する必要がある。また、銀行の信用コストは足もと減少しているものの、貸出債権の質は改善していない。消費者金融会社の不良債権比率も上昇傾向にあり、今後の信用コストの推移に注意が必要である。

金融システムの頑健性は維持

わが国金融システムの頑健性は維持されている。仮に大幅な景気後退と株価下落が同時に発生するケースや国内金利が大幅に上昇するケースなど、厳しいマクロ・ストレス・テストのもとでも、銀行の自己資本基盤が全体として大きく損なわれる事態は回避されると試算される。ただし、相対的に収益力や自己資本基盤が弱い銀行では、自己資本比率が先行きも低い水準にとどまる可能性があることに留意を要する。

また、マクロ・ストレス・テストなどの結果を踏まえると、長期的に金融システムの安定性を確保する観点から、以下の点に留意が必要である。第一に、経済が長期間にわたって停滞する場合、銀行の信用リスクが顕在化しやすくなり、収益を上回る信用コストが複数年度にわたり発生する可能性がある。第二に、内外の金融資本市場間の連関が強まるもとで、例えば、海外の国債市場や株式市場が変調を来たす場合には、短期間のうちにわが国に波及し、銀行の国内証券関係損益が大幅に悪化する可能性がある。これらの可能性を踏まえれば、銀行は自己資本基盤の強化に努めていくことが一層重要となる。

金融システムの安定確保に向けた課題

わが国の金融システムは、震災以降も、全体として安定性を維持している。もっとも、わが国金融システムの安定性を長期的に確保し、円滑な金融仲介活動を維持していくためには、以下の3つの経営課題に重点的に取り組む必要がある。

第一の課題は、金融機関におけるリスク管理の実効性向上である。金融機関は、信用リスクを抑制するため、貸出債権の質の改善に向けて、業況が悪化した企業に対する経営改善支援を強化することが求められる。また、市場リスク抑制のため、内外の金融資本市場間の連関も勘案して有価証券投資に伴うリスクを多面的に把握し、バランスのとれたポートフォリオの構築と自己資本に応じた市場リスク量の管理が必要となる。資金流動性リスクに関しても、とりわけ外貨の資金流動性リスクについて厳格な管理が求められる。

第二の課題は、金融機関における自己資本基盤の一層の強化である。復興資金需要への対応や成長分野の発掘・支援など、円滑な金融仲介活動を続けていくためにも、自己資本の充実は不可欠である。また、国際統一基準行には、新しいバーゼル規制が2013年から順次適用されていく。金融機関は、自己資本基盤の着実な強化が求められている。

第三の課題は、安定的な収益基盤の構築である。安定的な収益の確保は、自己資本基盤の強化のために内部留保を蓄積する、あるいは増資を円滑に行ううえでも重要な課題である。成長力の高い企業や事業分野の発掘・支援などを通じて収益基盤を拡充するとともに、新たに展開するサービスの料金を採算に見合う水準に設定するなど、収益変動を抑制するための工夫が必要となる。

日本銀行から

本レポートは、原則として2011年9月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
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