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金融システムレポート(2012年4月号)

2012年4月19日
日本銀行

概観

わが国の金融システムを取り巻く環境

わが国の金融システムを取り巻く環境をみると、国際金融資本市場は幾分落ち着きを取り戻してきているものの、先行き不透明感は引き続き高い状態にある。欧州では、債務問題に対する懸念が銀行の資金調達環境に悪影響を及ぼしている。銀行は、資金調達環境の悪化を受けて貸出態度を慎重化させており、欧州経済の停滞感をもたらす一因となっている。米国では、家計のバランスシート調整が引き続き実体経済の重石となっている。新興国では、全体として経済成長の減速とインフレ圧力の低下が緩やかに進行しているが、一部の国では物価安定と経済成長を両立できるか不透明な状況にある。

わが国では、企業の利払い能力が高水準を維持するなど、企業の財務状況は総じて改善した状態にある。ただし、中小企業や、住宅ローンを抱える家計にとっては厳しい財務状況が続いている。

金融機関の金融仲介活動

わが国では、低金利環境が持続する中、企業・家計を取り巻く金融環境は緩和の動きが続いている。CP・社債市場では良好な発行環境が続いているほか、貸出市場でも銀行が貸出姿勢を積極化させている。銀行の貸出残高は、運転資金や企業買収関連を中心に増加に転じている。もっとも、設備投資を目的とした借入需要は依然として低迷している。

こうした中、銀行の貸出金利は低下を続けている。これには、金融緩和のもとで、銀行の資金調達コストが低下していることや、CP・社債市場で良好な発行環境が続いていることが影響している。また、業態を超えた金融機関の貸出競争が激化していることも、貸出金利低下の一因となっている。国内貸出の収益が減少する中、わが国の銀行は、大手行を中心に海外貸出にも注力しており、海外の貸出市場におけるシェアは緩やかながら高まる方向にある。

金融システムにおけるリスク

金融的な不均衡という観点から金融システムの状況を点検すると、期待の強気化に起因した不均衡の存在を示唆する指標は観察されない。金融機関が抱えるリスク量は、全体として自己資本対比でみて引き続き減少している。もっとも、わが国の政府債務残高が顕著に累増しているもとで、金融機関が多額の国債を保有していることには留意しておく必要がある。

また、国際金融資本市場では先行き不透明感が高い状態が続いている。こうした環境のもと、銀行や生命保険会社では、内外の有価証券投資が増加している。さらに、銀行の総貸出に占める海外貸出のウエイトは徐々に高まる傾向にある。このため、金融機関経営は、わが国の経済や金融資本市場のみならず、海外経済や国際金融資本市場の動向からも直接・間接に影響を受けやすくなっている点に注意を要する。また、銀行の国内貸出にかかる信用コストは足もと減少しているものの、貸出債権の質に目立った改善はみられていない。銀行の自己資本比率は内部留保の蓄積などから上昇しているが、収益力は低下している。

金融システムのリスク耐性

マクロ・ストレス・テストの結果からは、わが国金融システムのリスク耐性は全体として強まった状態にある。すなわち、一時的な景気後退とそれに伴う株価下落が生じるケースや国内金利が一律に1%上昇するケースなど、一定の規模のストレスが生じたとしても、銀行の自己資本基盤が全体として大きく損なわれる事態は回避されると試算される。ただし、相対的に収益力や自己資本基盤が弱い銀行では、自己資本比率が先行きも低い水準にとどまる可能性があることに留意を要する。

さらに、より厳しい前提でのストレス・テストの結果を踏まえると、金融システムの安定性を長期的に確保していく観点から、以下の点に留意が必要である。第一に、経済が長期間にわたって停滞する場合、銀行の期間収益を上回る信用コストの発生が続く可能性がある。第二に、株価の下落と金利の上昇が同時に発生するなど、内外の金融資本市場に大きなショックが生じると、銀行の有価証券関係損益が短期間のうちに大きく悪化する可能性がある。また、その影響は金融と実体経済の相乗作用の中で増幅され得る。最近の欧州でもみられたように、財政の先行きに対する信認が低下すると、市場金利が非連続的に大きく上昇し得る点には注意が必要である。第三に、銀行は概ね十分な外貨流動性を保有しているが、複数の外貨調達手段が同時に活用できなくなるような状況では、追加的な資金繰り対応が必要となる可能性もある。

金融システムの安定性確保に向けた課題

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。もっとも、わが国金融システムの安定性を長期的に確保し、円滑な金融仲介活動を維持していくためには、金融機関は以下の3つの経営課題に重点的に取り組む必要がある。

第一の課題は、金融機関におけるリスク管理の実効性向上である。金融機関は、信用リスクを抑制するため、国内貸出業務では、業況が悪化した企業に対して、経営改善を支援するための取り組みを強化するとともに、再生可能性に応じて信用リスク管理面での適切な対応を図ることが重要である。海外貸出業務では、海外拠点を含む審査・モニタリング体制の強化が求められる。また、市場リスクを抑制するためには、内外市場の連関を点検するなどリスクを多面的に把握したうえで、バランスのとれたポートフォリオの構築と自己資本に応じたリスク量の管理を行う必要がある。資金流動性リスクについては、外貨調達を含めた厳格な管理が引き続き求められる。

第二の課題は、金融機関における自己資本基盤の一層の強化である。金融機関にとって、海外貸出や成長分野向け投融資など、収益性の高い分野での金融仲介活動を続けていくためにも、自己資本の充実は不可欠である。また、国際統一基準行には、新しいバーゼル規制が2013年から順次適用される。金融機関は、自己資本基盤を着実に強化していく必要がある。

第三の課題は、社会構造の変化に応じた収益基盤の構築である。銀行の収益力は低下しており、特に地方圏の銀行は、人口の減少が進行する中、厳しい経営環境に直面している。金融機関は、成長力の高い企業や事業分野の発掘・支援などを通じて企業の新陳代謝を促し、主力である与信業務の収益基盤を拡充する必要がある。他の業務面でも、人口の減少や高齢化等、社会構造の変化にあわせて、新たな金融サービスを創出していくことが望まれる。また、戦略的な業務提携や統合などを通じて、経営の効率性を改善させることや顧客ネットワークの拡充を図ることも、収益基盤強化のひとつの選択肢となり得る。

日本銀行から

本レポートは、原則として2012年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp