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金融システムレポート(2014年4月号)

2014年4月23日
日本銀行

金融システムの総合評価

わが国の金融システムは、全体として安定性を維持している。

金融資本市場や金融機関行動において、過度な期待の強気化など、金融面の不均衡を示す動きは、現時点では観察されない。金融資本市場では、今年に入り、株式市場でボラティリティが高まる局面もみられたが、国債市場、外国為替市場のボラティリティは、総じて落ち着いている。

金融機関(銀行・信用金庫)は、全体としてみると、資本基盤が充実しており、十分な資金流動性も確保されている。このため、大幅な景気後退や金利上昇といったストレスのもとでも自己資本比率が規制水準を維持するなど、金融機関は経済・金融面のショックに対して、相応に強いリスク耐性を備えている。もっとも、景気後退や金利上昇の背景、程度、速さによっては、金融システムに対して影響が及ぶ可能性がある点には、留意が必要である。また、個別にみると、資本基盤が相対的に弱く、リーマン・ショック後の資産内容の回復が遅れている金融機関もみられる。こうした金融機関では、着実に自己資本の強化に取り組んでいく必要がある。

金融仲介活動は、前回レポート時と比べ、より円滑に行われるようになっている。

金融機関は、国内外での貸出を積極化しているほか、有価証券投資においても、小幅ながらリスク・テイクを強める動きがみられる。金融資本市場を通じた金融仲介も活発になっている。こうしたもとで、企業・家計を取り巻く金融環境は、より緩和的になっている。金融機関の貸出は、中小企業向けを中心に伸びを高めており、業種・地域にも広がりがみられる。

足もとの景気回復は、金融機関の収益にもプラスの影響を及ぼしている。株式投資に関連する収益や投資信託の販売増加、信用コストの減少などである。もっとも、国内預貸業務を通じる基礎的な収益力は、趨勢的な貸出利鞘の縮小などから、低下傾向に歯止めがかかっていない。特に、地域金融機関の収益環境には厳しいものがある。これらは、現下の金融システム全体の安定性や機能度に影響するものではないが、中長期的には損失吸収力やリスク・テイク余力を制約していく可能性があることから、克服していくべき課題である。

概観(II〜VI章要旨)

II.外部環境の点検

海外経済は、一部になお緩慢さを残しているが、先進国を中心に回復しつつある。こうしたもとで、国際金融資本市場では、欧州債務問題に対する懸念が一段と後退する一方、米国金融政策や新興国の動向に対して敏感な地合いが続いた。年明け後は、経常赤字など構造面で問題を抱える一部の新興国の先行きに対する懸念が高まり、投資家のリスク・テイク姿勢が後退するなどやや神経質な展開となる場面もみられた。

わが国の景気は、消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けており、企業の財務状況や家計の雇用・所得環境は総じて改善の方向にある。家計は投資信託などリスク性資産の保有を増加させている。この間、財政収支は赤字が続いているが、先行き、消費税率の引き上げなどによりプライマリー・バランスの改善が見込まれる。

III.金融仲介活動の点検

企業・家計を取り巻く金融環境は、量的・質的金融緩和のもとで、前回レポート時と比べ、より緩和的になっている。大企業・中堅企業だけでなく、中小企業についても調達環境が改善しているほか、家計についても住宅ローン金利が低下している。

金融資本市場を通じた金融仲介は、エクイティ・ファイナンスを中心に活発になっている。金融機関(銀行・信用金庫)は、量的・質的金融緩和のもとで日本銀行による国債買入れが増加するなか、貸出などのリスク性資産を増加させている。国内貸出については、中小企業向けを中心に伸びを高めており、業種・地域にも広がりがみられる。海外貸出についても、高めの伸びを続けている。有価証券投資では、外国証券や株式投信等への投資が小幅ながら増加した。この間、保険会社等、金融機関以外の投資家の運用動向には、大きな変化はみられていない。

IV.金融資本市場から観察されるリスク

わが国の金融資本市場では、今年に入り、株式市場でボラティリティが上昇する局面がみられた。これは、一部の新興国市場が神経質な動きとなったことや、グローバルな株価下落に伴い投資家のリスク回避姿勢が高まったことによるものである。この間、長期金利は、引き続き日本銀行の大量の国債買入れによる債券需給の引き締まりなどを背景に、安定的に推移している。為替市場でもボラティリティは低下傾向にある。

V.金融仲介機関に内在するリスク

金融機関(銀行・信用金庫)の自己資本比率は、全体としてみると、このところ上昇を続けており、規制水準を十分に上回っている。金融機関のリスク量は、金利リスク量と信用リスク量が減少した一方、株式リスク量が保有株式の時価上昇を受けて増加した。以上の結果、金融機関のリスク量は全体としてみると増加したが、そのペースは、概ね自己資本の増加に見合うものとなっており、金融機関の資本基盤は総じて充実していると考えられる。また、金融機関は、十分な資金流動性も確保している。ただし、個別にみると、リスク量対比でみて自己資本の充実度が低い先も引き続き相応に存在しており、こうした先は、着実に自己資本の充実に取り組んでいく必要がある。

この間、足もとの景気回復は、金融機関の収益にプラスの影響を及ぼしている。株式投資に関連する収益や投資信託の販売増加、信用コストの減少などである。もっとも、国内預貸業務を通じる基礎的な収益力は、趨勢的な貸出利鞘の縮小などから、低下傾向に歯止めがかかっていない。特に、地域金融機関の収益環境には厳しいものがある。これらは、現下の金融システムの安定性や機能度に影響するものではないが、中長期的には損失吸収力やリスク・テイク余力を制約していく可能性があることから、克服していくべき課題である。

VI.金融システムのマクロ的なリスク評価

各種リスク指標を点検すると、金融資本市場や金融機関行動において、過度の期待の強気化など、金融面の不均衡を示す動きは、現時点では観察されない。マクロ・ストレス・テストによれば、リーマン・ショック時なみの景気後退が生じるケースや、景気の悪化を伴って長期金利が2%pt程度上昇するケースを想定しても、金融機関の自己資本比率は全体として規制水準を上回って推移するとみられる。ただし、景気後退や金利上昇の背景、程度、速さ次第では、企業の利払い負担の上昇等を通じて実体経済と金融の相乗作用が強めに働き、金融機関の収益や自己資本、ひいては金融システムに影響が及ぶ可能性がある。さらに、個別にみて、リスク量対比で資本基盤が脆弱な金融機関では、経済・金融面に大きなショックが生じた場合、自己資本比率が大きく低下する可能性がある点にも、留意が必要である。この間、資金流動性の面では、一定期間の継続的な預金流出や金融資本市場の機能低下といったストレスにも対応し得る流動資産が確保されている。

日本銀行から

本レポートは、原則として2014年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail : post.bsd1@boj.or.jp