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金融システムレポート(2016年4月号)

2016年4月22日
日本銀行

目次

要旨:金融システムの総合評価

わが国の金融システムは、安定性を維持している。金融仲介活動は、引き続き円滑に行われている。昨夏以降の国際金融資本市場等における変動拡大は、わが国にも相応に影響を及ぼしているが、マイナス金利付き量的・質的金融緩和のもとで、金融システムの安定性・機能度への影響は限定的に止まっている。

わが国の金融システムを取り巻く外部環境と金融資本市場

グローバルな金融環境をみると、昨夏以降、資源価格の下落、新興国・資源国経済の減速、先進国の金融政策の方向性の違いを巡る思惑等を背景にリスク回避姿勢が強まり、本年入り後にかけて金融資本市場の変動が大幅に高まったほか、欧州等一部の地域では金融機関の財務、資産内容への懸念が強まった。わが国にも、大幅な株価下落と円高の進行、外貨調達コストの上昇等の形で影響が及んでいるが、マイナス金利付き量的・質的金融緩和のもとで金利が一段と低下したほか、クレジット市場も海外に比べ安定的に推移している。この間、わが国経済は、基調としては緩やかな景気回復を続けており、プライマリー・バランスが縮小傾向にあるなど、ファンダメンタルズはしっかりしている。

金融システムの機能度

金融機関の国内貸出は、大企業M&Aや不動産業など幅広い業種での資金需要を受けて、前年比2%台前半の伸びを続けている。金融機関は、リスクを取る方向での業務運営を継続しており、中小企業等に対しても、創業支援や企業再生、ビジネス・マッチング等の事業支援を継続しつつ、下位格付け先を含めて融資に積極的に取り組んでいる。海外貸出についても、本邦企業のグローバル展開を支え、海外の金融ニーズを取り込んでいく観点から、外貨調達力を踏まえつつ積極的に取り組んでおり、前年比1割程度の伸びとなっている。有価証券投資では、円債残高が高水準にあるもとで外債や投資信託等による運用を積み増している。もっとも、最近では、グローバル金融環境の動揺等を受けて、新興国向け等の海外与信や株式投信等の運用を慎重化する動きもみられている。

保険会社・年金などの機関投資家、ゆうちょ銀行・系統上部金融機関など市場運用を中心とする預金取扱機関は、金利の一段の低下を受けて国内債から外債等のリスク資産に投資先をシフトする動きを続けている。家計の資産運用は、NISA・ラップ口座の利用拡大も含め、投資信託等を増やす傾向が基調としては継続しているとみられる。もっとも、最近では、グローバル金融環境の動揺等を受けて、家計のリスク資産の増勢が弱まっている。金融資本市場を通じる金融仲介について、エクイティ・ファイナンスは、企業の積極的な調達スタンスに大きな変化はないとみられるが、足もとの調達額が株価下落等を受けて減少している。もっとも、CP・社債の発行環境は金利が一段低下するなど良好な状態が続いている。企業・家計の資金調達環境は、より緩和的となっている。

金融システムの安定性

以上の金融仲介活動において、行き過ぎたリスクテイクや信用量の増加、金融活動の過熱といった金融面の不均衡はみられていない。

金融機関の財務基盤は、全体として充実した状況にある。自己資本比率は規制水準を十分に上回っている。金融機関のリスクは国際金融資本市場における変動拡大等を受けて増加したが、こうした変化を踏まえても、金融機関のマクロ的なリスクと資本基盤のバランスは適切な範囲に維持されている。ストレステストによる検証からも、金融システムは相応に強いストレス耐性を備えている。また、金融機関は十分な円資金流動性を有している。外貨資金に関しては、一定期間調達が困難化しても資金不足をカバーできる流動性を確保しているほか、調達基盤の拡充に向けた取り組みが着実に進捗している。ただし、市場性調達の比重はなお高く、今後も幅広い主体が外貨需要を高めていく方向にあるもとで、外貨調達コストが上昇傾向にあることから、国際金融規制の影響も含め外貨資金市場の流動性の状況を注視していく必要がある。

マクロ的な信用量は、経済規模との対比でみて横ばいとなっており、この指標も含め、幅広い金融活動において趨勢からの大きな乖離はみられない。不動産市場は、地域差を伴いつつ活発になっているほか、金融機関の不動産関連貸出の伸び率が上昇している。もっとも、全国の地価動向などからみると、全体としては過熱の状況にないと考えられる。

この間、金融機関収益は、与信費用の減少や有価証券の運用益等から増益基調を維持しており、金融機関の財務基盤等にプラスの影響を及ぼしてきた。もっとも、金利水準の低下が続くもとで、収益力の基礎となる利鞘や国内預貸収益はなお減少傾向が続いている。この傾向が長引くと、金融機関の損失吸収力やリスクテイク力を制約する可能性があることから、基礎的収益力の動向は、注視していく必要がある。

マイナス金利付き量的・質的金融緩和と金融システム

以上の評価において、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の影響という観点から改めて整理すると、市場金利は長期ゾーンまでマイナス化するなど一段と低下し、預金・貸出金利も幅広く低下している。こうしたもとで、金融機関等に対して、貸出に対するより前向きな取り組みを含め、もう一段のポートフォリオ・リバランスを促す力が作用している。これらは、金融システムの機能度をより円滑化する方向での変化である。

もっとも、効果の浸透を制約している要因も存在する。たとえば、幅広い主体が運用方針の見直しやシステムを含む実務対応を進めていく途上にあるなかで、取引見合わせの動きが幅広くみられるほか、投資家や法人がマイナス金利での取引を回避し、多額の資金が信託銀行や大手銀行等に滞留するなど、資金の流れの停滞を示す動きもみられる。また、本年入り後、国際金融資本市場の不安定な動きが続いたことが、株安・円高や外貨調達コストの上昇等に繋がっているほか、金融機関等のリスクテイクを一部抑制する方向に働いている。これらの要因が解消されていけば、政策効果がより浸透していくとみられる。

金融機関収益に対しては、当面、一段の下押し圧力が働くが、金融機関は総じて充実した資本基盤を有するもとで前向きの信用仲介を継続していくとみられる。金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけば、基礎的収益力の回復にもつながっていくと考えられる。もっとも、足もとの収益力の減少傾向が長引く場合には、いずれ信用仲介機能の制約に繋がっていく可能性がある。金融安定面への影響としては、マクロ的なリスク蓄積や資産価格等への影響が行き過ぎる過熱方向のリスク、収益減少に歯止めがかからず金融仲介が停滞方向に向かうリスクの両面をみていく必要がある。

マクロプルーデンスの視点からみたリスクと課題

金融システムが、将来にわたって安定性を維持しつつ、円滑な金融仲介活動を通じて経済成長に貢献していくには、潜在的な脆弱性に繋がり得るマクロ的なリスクの蓄積構造的な変化に着実に対応していく必要がある。

マクロ的なリスク蓄積の観点からは、(1)金融システム全体としてみた海外経済および内外金融資本市場の変動に対するエクスポージャーの拡大が挙げられる。金融機関の海外貸出や機関投資家等を含めた外国有価証券投資の増加傾向を踏まえると、海外や市場発のリスク波及に対する頑健性の向上と安定的な外貨調達基盤の確保・拡充が引き続き重要である。構造的な変化としては、(2)大規模金融機関のシステミックな重要性の高まりと、(3)国内預貸業務の収益性の低下が挙げられる。とくに地域金融は、低金利環境に加えて、地域の人口・営業基盤の縮小が低収益性の問題をより厳しいものにしている。上述のとおり、マイナス金利付き量的・質的金融緩和の効果が浸透していく過程では、これら3つの何れに対しても強く影響していくと考えられる。

このほか、やや長い目でみて金融安定に影響し得る要素としては、(4)家計部門における「貯蓄から投資へ」の持続性、(5)FinTechを含む金融分野でのIT活用の広がりとサイバー・セキュリティの重要性の高まりが挙げられる。

日本銀行の取り組み

日本銀行は、マイナス金利という新たな環境への金融機関等の対応を支援していくとともに、金融安定の確保に向けて、以下のとおり取り組んでいく。

モニタリング・考査では、個別金融機関の健全性確保を図っていくなかで、上述のマクロ的課題への対応を促していく。その際、金融機関の資本基盤は充実していることを踏まえ、前向きなリスクテイクやグローバルな業務展開を可能とする管理力の充実を促すことに力点を置いていく。大手金融機関に関しては、システミックな重要性に鑑み、リスク顕現化を防止する強い財務基盤・経営管理の確保と、ストレス時の秩序ある対応に向けた態勢整備を促していく。地域金融機関に関しては、収益力の安定・向上が重要課題であることに鑑み、中長期の収益力の評価、これに基づく経営方針に関する議論に注力するとともに、地域・企業に対する金融機関の支援力強化、金融手法や管理の充実をサポートしていく。セミナー等でも、金融仲介機能や経営管理の強化に資するテーマを取り上げていく。また、金融のグローバル化に対応して、海外金融システム・市場の動向把握を強化するとともに、海外中央銀行等との協力も拡充していく。国際金融規制面では、金融システムの頑健性と円滑な機能の適切なバランスを確保していく観点から、基準設定やその実施に向けた作業に貢献していく。取引施策の面でも、最後の貸し手機能の適切な発揮も含め、金融安定の確保に向けた対応を講じていく。以上の取り組みにおいては、金融庁を始めとする関係当局との適切な連携を図っていく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2016年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
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照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail:post.bsd1@boj.or.jp