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金融システムレポート(2017年4月号)

2017年4月19日
日本銀行

目次

要旨:金融システムの総合評価

金融市場の動向

国際金融市場では、昨年11月の米国大統領選後、世界的に株高・金利高の動きが強まった。わが国では、円安・株高となり、日本銀行が進める「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のもとで、きわめて緩和的な金融環境が維持されている。こうしたなか、本邦金融機関によるドル調達環境については、一時的な外債投資抑制によるドル需要の低下から、短期のタームを中心に調達プレミアムがやや低下する動きもみられるが、総じて調達コストの高い状況が続いている。

金融仲介活動の点検

金融機関の国内貸出は、積極的な融資姿勢のもと、幅広い業種での資金需要を受けて、前年比3%程度の伸び率で増加している。海外貸出は、ドル調達コストが高止まるなかでも、なお高めの伸びを維持している。有価証券投資では、昨秋以降の米国金利の上昇を受けて外債投資を一時的に手控える動きもみられるが、金融機関は、投資信託をさらに積み増すなど、リスクテイクを強めていく姿勢を維持している。保険会社・年金などの機関投資家も、低金利環境が続くなか、外債等を中心にリスク性資産を引き続き積み増している。こうしたなか、金融資本市場では、CP・社債の発行レートはきわめて低い水準で推移しており、企業のデット・ファイナンスは増加している。

民間非金融部門の資金調達環境はきわめて緩和した状態にあるが、多くの金融経済活動において、過熱感は総じて窺われない。ただし、低金利環境が継続するもとで、銀行の貸出姿勢はバブル期以来の積極性を示している。また、不動産市場は、全体として過熱の状況にはないと考えられるが、J-REIT等の物件取得が都市圏から地方圏に拡がっているほか、金融機関の不動産業向け投融資も増加している。今後、リスクプレミアムの過度な縮小や過度に強気な賃料見通しが生じることがないか、注意深く点検していく必要がある。

金融システムの安定性

わが国の金融システムは、安定性を維持している。すなわち、金融機関の自己資本比率は規制水準を十分に上回っており、リスク量との対比でも総じて充実した自己資本水準が維持されている。マクロ・ストレステストの結果も、金融機関は全体として相応に強いストレス耐性を備えていることを示している。ただし、ストレス付与後の当期利益や自己資本については金融機関の間でばらつきがあり、ストレス耐性にもばらつきが確認される。この間、金融機関の資金流動性をみると、外貨建て投融資の増加が続いているが、一定期間外貨の市場調達が困難化しても資金不足をカバーできるだけの流動性を確保している。また、大手行を中心に顧客性預金の増強など安定調達基盤の拡充に努めている。

金融機関の収益力低下に伴う潜在的な脆弱性

現状では、金融機関は充実した資本基盤を備えており、当面収益力が下押しされるもとでも、リスクテイクを継続していく力を有している。今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけば、収益力の回復につながっていくと考えられる。

もっとも、金融システムの構造的側面に焦点を当てると、わが国の金融機関が提供する金融仲介サービスは比較的均質で代替性が高く、競合する金融機関数も多い。このため、人口減少などを背景に伝統的な金融仲介サービスに対する需要が減少すると、金融機関間の競争が激化しやすいと考えられる。金融機関間の過度な競争は、金融機関の収益力を弱め、経営を不安定化させる要因となり得る。すなわち、預貸利鞘の低下傾向が続くなかで、金融機関が収益維持の観点から、過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融面での不均衡が蓄積し、金融システムの安定性が損なわれる可能性がある。一方、収益力の低迷が続き損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融機関全体でみた金融仲介機能が低下し、実体経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられる。

以上のように、金融機関の収益力の低下に伴う潜在的な脆弱性としては、マクロ的なリスク蓄積や資産価格等への影響が行き過ぎる過熱方向のリスク、収益の減少に歯止めがかからず金融仲介が停滞方向に向かうリスクの両面があり、これらについて注視していく必要がある。

金融機関の課題と日本銀行の取り組み

金融システムが将来にわたって安定性を維持していくために、金融機関が対応すべき課題は以下の3点である。第一に、地域経済・企業への支援強化やFinTechの活用、経営効率を高めるための業務改革などにおいて、個々の金融機関が自らの強みを活かした取り組みを進め、収益力の改善を図っていくことである。第二に、国際業務や市場運用など、わが国金融機関が積極的にリスクテイクを進めている分野におけるリスク対応力を強化していくことである。第三に、大規模金融機関では、自らが金融システムに及ぼし得る影響度が高まっていることを十分に認識し、リスク蓄積に応じた財務基盤の充実と経営管理体制の強化、ストレス発生時の秩序ある対応に向けた準備などを一段と進めていくことである。

日本銀行も、金融システムの安定確保に向けて、モニタリング・考査等を通じてこれらの課題解決に引き続き対応していく。特に、収益力の向上は重要かつ喫緊の課題であり、収益力に関するターゲット考査の実施などモニタリング・考査一体で金融機関との対話を強化していく。また、ストレステストの高度化・活用については、金融機関との対話や共同研究を一段と進めていく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2017年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
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金融機構局金融システム調査課

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