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金融システムレポート(2019年4月号)

2019年4月17日
日本銀行

2019年4月号の特徴と問題意識

今回のレポートでは、次の4つに力点を置いて分析を行った。

第一に、今回ヒートマップにおいて、不動産業向け貸出の対GDP比率が「赤」(過熱方向でトレンドからの乖離が大きい状態)に転じたことを踏まえて、不動産市場について、バブル期との比較を念頭に置きつつ、幅広い視点からその金融安定上のリスクを分析・評価した。

第二に、地域金融機関の収益力低下の背景を理解するため、わが国同様に低金利環境下にある欧州系金融機関との収益構造の比較を行った。また、将来の収益力に対する市場参加者の見方が集約された株式市場の情報を利用して、わが国金融機関の潜在的な脆弱性を定量的に評価した。

第三に、地域金融機関の収益力と自己資本比率の低下が継続していることを踏まえ、それが長引いた場合の金融安定への影響を定量的に把握する観点から、マクロ・ストレステストにおいて、目先のストレス発生を想定した定例のテストに加え、5年後のストレス発生を想定したテストを実施した。

第四に、金融安定への影響が大きいと考えられる大手金融機関のシステミックな重要性とデジタライゼーションについて、BOXで分析した。前者については、システミックな重要性の1つの表れである海外との連関性・共振性の実情を取り上げた。後者については、金融機関の取り組み状況と、足もと幅広い取り組みが加速しているキャッシュレス決済の動きを整理した。

要旨

金融仲介活動の動向

日本銀行の金融緩和を背景に、金融仲介活動は銀行貸出を中心に引き続き積極的な状況にある。国内貸出市場では、貸出金利が既往ボトム圏で推移し、残高は前年比2%台半ばのペースで増加している。大企業向けM&A関連貸出が増加しているほか、中小企業向けの設備関連貸出が幅広い業種で増加している。CP・社債市場でも、発行レートがきわめて低い水準で推移するもとで、大企業による資金調達が増加基調にある。この間、国際金融市場では、世界経済の不透明感の高まりなどを背景に、株価やクレジット市場のスプレッドが不安定な動きを示す場面もみられたが、足もとは落ち着きを取り戻しつつある。そうしたもとで、わが国金融機関の海外エクスポージャーは、貸出やクレジット商品(高格付けのCLOや投資適格の社債等)を中心に増勢を維持している。

金融循環と潜在的な脆弱性

以上のような金融仲介活動を受けて、企業・家計の資金調達環境はきわめて緩和した状態にある。こうしたもとで、総与信の対GDP比率がトレンドから上方に乖離して推移するなど、金融循環の拡張的な動きが継続しているが、全体としてみると1980年代後半のバブル期のような過熱感は窺われていない。ただし、銀行の不動産業向け貸出はなお高めの伸びを示しており、その対GDP比率は、トレンドからの乖離幅がバブル期以来の水準となっている。地価動向など幅広い情報を総合すると不動産市場に過熱感は窺われないが、(1)貸出の伸びの中心が中小企業・個人による不動産賃貸業向けであること、(2)そうした貸出に積極的な金融機関に自己資本比率が低めの先が多いこと、(3)貸出とは別に、金融機関のREIT・不動産ファンド向け出資も増加していることから、不動産市場を巡る脆弱性を注視していく必要がある。また、地域金融機関は、相対的に信用力の低いミドルリスク企業向け貸出に積極的に取り組みつつ地域の企業・経済を支援しているが、リスクに見合った利鞘を確保しにくい状況が続いている。先行きの信用コスト上昇に対する脆弱性にも留意が必要である。金融循環の拡張的な動きは、足もとの景気拡大に寄与しているが、やや長い目でみて、わが国経済の成長力が高まらない場合には、むしろバランスシート調整圧力を蓄積することで、経済に負のショックが発生した際の下押し圧力を強める方向に作用する可能性がある。

国際金融面では、海外貸出は全体として質の高いポートフォリオが維持されているが、海外金融機関との競争激化や外貨調達コストの高止まりを背景に、リスクがやや高い先への与信を増やす動きもみられている。有価証券投資でも、金融機関は海外クレジット商品や投資信託を積み増すかたちでリスクテイクを積極化しており、多様で複雑な市場リスクを抱えるようになっている。このため、世界経済の下振れ等を契機とするリスク性資産の幅広いリプライシングの影響を受けやすくなっている点には留意が必要である。

金融システムの安定性

わが国の金融システムは全体として安定性を維持している。金融機関は、上記のような脆弱性を考慮しても、リーマンショックのようなテールイベントの発生に対して資本と流動性の両面で相応の耐性を備えている。

もっとも、金融仲介活動の中核となる国内預貸業務の収益性が低下を続けている。これには低金利環境の長期化に加えて、人口減少に伴う成長期待の低下と借入需要の趨勢的な低下という構造要因による面が大きいと考えられる。こうした国内収益環境のもとで、大手金融機関はグローバル展開とグループベースの総合金融戦略を推進しており、システミックな重要性、海外との連関性を高めている。地域金融機関は、ミドルリスク企業向けや不動産業向けなど国内貸出や有価証券投資を積極化しているが、総じてリスクアセット拡大に見合った収益を確保できておらず、自己資本比率、ストレス耐性は緩やかに低下している。こうした状況が長引くと、ストレス時の信用コストや有価証券関連損失に伴う自己資本の下振れが大きくなる結果、金融面から実体経済への下押し圧力が強まる可能性がある。

マクロプルーデンスの視点からみた金融機関の課題

金融システムが将来にわたって安定性を維持していく観点から、金融機関に求められる経営課題は、次の4点である。第一は、収益力向上に向けた取り組みの強化である。(1)リスクに応じた貸出金利の設定、(2)企業の課題解決や家計の資産形成支援を通じた役務収益力強化、(3)経営効率の抜本的改善が課題となる。また、これらを効果的に推進する観点から、経営統合やアライアンスも有効な選択肢となり得る。第二は、積極的にリスクテイクを進めている分野におけるリスク対応力の強化である。地域金融機関では、ミドルリスク企業向けや不動産業向け貸出、投資信託を通じる投資拡大等に対応した管理強化が挙げられる。大手金融機関には、システミックな重要性を踏まえた強固な財務基盤の確保、グローバルかつグループベースの経営管理等が求められる。第三は、デジタライゼーションへの対応である。わが国でも、幅広いキャッシュレス決済への取り組みや、金融機関によるオープンAPI、AIやクラウドの活用等が進みつつある。金融機関はデジタル技術の活用方針を明確化し、それに応じたサイバーセキュリティ・情報管理体制を整備する必要がある。第四は、自己資本の適正水準や配当、有価証券評価益の活用方針等を含めた適切な資本政策の実施である。日本銀行は、考査・モニタリング等を通じて金融機関の取り組みを後押しするとともに、マクロプルーデンスの視点から、金融機関による多様なリスクテイクが金融システムに及ぼす影響について引き続き注視していく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2019年3月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
なお、マクロ・ストレステストのためのストレス・シナリオについては、シナリオ別データ [XLSX 18KB]をご覧ください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail:post.bsd1@boj.or.jp