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金融システムレポート(2019年10月号)

2019年10月24日
日本銀行

2019年10月号の特徴と問題意識

今回のレポートでは、次の3つに力点を置いて分析を行った。

第一に、グローバルな金融危機以降、大手行等を中心に、レバレッジドローンやCLOを含めた海外貸出・海外クレジット投資が拡大し、それに伴い海外との連関性が高まっていることを踏まえ、邦銀の海外向けエクスポージャーについて、潜在的なリスクや脆弱性を分析・評価した。

第二に、地域金融機関について、近年収益力の低下が続くもとで、経費の節減や非資金利益の拡大といった経営効率の改善に向けた取り組みがみられていることを踏まえ、経営効率性の動向や同一業態内のばらつき、その要因の分析を行った。また、分析結果を踏まえて、マクロ・ストレステストにおいて、先行き一段の経営効率の改善が行われた場合の収益効果を織り込んで、中長期シミュレーションと将来のストレス発生を想定したテストを行った。

第三に、足もと地域金融機関を中心に国内の信用コスト率が低水準ながら上昇し始めていることを踏まえ、信用コスト増加の背景や先行きの見通しについて、整理した。

なお、レポートの構成として、今回から、国内外の金融脆弱性を総括的に点検する章(IV章)を設けた。また、各種リスクの評価に当たり、従来の信用・市場・流動性リスクに加え、近年重要性が増しているリスク(サイバーセキュリティ、反マネーローンダリング、デジタライゼーションへの対応等)について項目(V章6節)を設けた。

要旨

金融仲介活動の動向

日本銀行の金融緩和を背景に、金融仲介活動は貸出・証券市場の両面で積極的に行われている。国内貸出は、貸出金利が既往ボトム圏で推移するもとで、経済成長を上回る前年比2%程度のペースで増加している。CP・社債市場でも、きわめて低い発行レートのもとで、大企業の資金調達が増加している。国際金融市場では、世界経済の減速懸念や地政学的不確実性を背景に、株価はやや不安定な動きとなったが、米欧の金融緩和期待などから長期金利は大幅に低下し、利回り追求の動きからクレジット市場のスプレッドはタイトな状況が続いた。そうしたもとで、わが国金融機関の海外エクスポージャーが緩やかな増加基調を続けている。

金融循環と金融脆弱性の点検

以上の金融仲介活動を背景に、金融循環の拡張的な動きが継続しているが、全体としてみると、1980年代後半のバブル期のような過熱感は窺われていない。

ただし、金融循環の拡張的な動きが継続する下での脆弱性の蓄積には引き続き留意が必要である。国内では、「総与信の対GDP比率」が上昇を続けており、バブル期に比べ水準は低めであるが、トレンドからの上方乖離幅は当時に近づいている。そうした下で、利鞘の薄い低採算の貸出が増加しており、足もと、低水準ながらも信用コストが地域金融機関を中心に増加し始めている。背景には、(1)金融機関が長く支えてきた業況不芳企業の経営再建の遅れ、(2)近年の貸出増加過程における一部審査・管理の緩みなどがある。不動産業向けの貸出はバブル期を上回って増加しており、対GDP比率のトレンドからの乖離幅はバブル期以来の水準となっている。不動産市場全体に過熱感は窺われないが、人口や企業数減少の下で賃貸用物件投資向けの長期貸出が増加しているなど、バブル期とは異なるリスクが蓄積されている可能性がある。国内与信の増加は、足もとの景気拡大基調を下支えしている一方、やや長い目でみてわが国経済の成長が高まらない場合には、以上のような脆弱性がバランスシート調整圧力として働くことで、負のショック発生時の下押し圧力を強める可能性がある。

国際金融面では、邦銀の海外エクスポージャー拡大とともに、わが国金融システムが外貨調達面も含めて海外金融循環の影響を受けやすくなっている。とくに近年、大手行等を中心に、借り手の信用力が低いレバレッジドローンやこれを裏付けとする証券化商品(CLO)への投融資が増加している。邦銀の海外貸出は、全体として質の高いポートフォリオが維持されており、保有CLOのほとんどはAAA格である。ただし、レバレッジドローンの借り手は景気悪化に脆弱であるほか、近年、貸付条件の引き緩みが続いており、CLOについても、経済・市場急変時の格付け低下、市場価格下落等のリスクに留意が必要である。

金融システムの安定性

わが国の金融システムは全体として安定性を維持している。金融機関は、上記のような脆弱性を考慮しても、リーマンショックのようなテールイベントの発生に対して、資本と流動性の両面で相応の耐性を備えている。

もっとも、国内預貸業務を中心に、金融機関の収益性が低下を続けている。この背景には、低金利環境の長期化に加え、より長い期間でみれば、人口減少や成長期待低下に伴う借入需要の趨勢的な減少といった構造要因があると考えられる。そのもとで、大手金融機関はグローバル展開とグループベースの総合金融戦略を推進しており、システミックな重要性を高めている。地域金融機関は、国内貸出・有価証券投資面でリスクテイクを積極化しているが、それに見合ったリターンを確保できず、自己資本比率が緩やかな低下を続けている。先行きもこうした状況が長引くと、将来のストレス発生時の損失吸収力低下が想定され、金融仲介機能の低下を通じて実体経済への下押し圧力が強まる可能性がある。

金融機関の課題

以上を踏まえ、金融機関に求められる経営課題は、次の4点である。第一は、収益力向上に向けた取り組みの強化である。具体的には、(1)企業の課題解決や家計の資産形成支援等の金融サービス提供力の強化、(2)リスクに見合った貸出金利の確保や非資金利益の拡大、(3)経費構造の見直しなどが挙げられる。金融機関は、戦略的に必要な投資は行いつつ、近年取り組んでいるこれらの経営効率改善策を一段と積極化し、基礎的収益力の向上を通じて、将来にわたるストレス耐性を確保していく必要がある。その効果的な推進の観点から、経営統合やアライアンスも有効な選択肢となり得る。第二は、積極的にリスクテイクを進めている分野におけるリスク対応力の強化である。地域金融機関では、ミドルリスク企業・不動産業向け貸出や、投資信託など有価証券投資面のリスク管理強化である。大手金融機関では、海外投融資やこれに伴う外貨調達の拡大への対応のほか、グローバルかつグループベースの経営管理強化が求められる。第三は、デジタライゼーションへの対応である。金融機関は戦略リスクを意識しつつ、デジタル技術の活用方針を明確化するとともに、サイバーセキュリティや反マネーローンダリングの体制整備を進めていく必要がある。第四は、適切な資本政策の実施である。金融機関は自己資本の適正水準や、配当、有価証券評価益の活用などのあり方を含めた資本政策を明確に定め、株主など幅広いステークホルダーと対話を深めていく必要がある。日本銀行は、考査・モニタリング等を通じて上記の金融機関の対応を後押ししていくとともに、マクロプルーデンスの視点から、金融機関による多様なリスクテイクが金融システムに及ぼす影響について注視していく。また、金融機関が構造的な課題克服に取り組んでいくうえで重要な要素となる金融制度の整備などについても、関係者と議論を行っていく。

日本銀行から

本レポートは、原則として2019年9月末までに利用可能な情報に基づき作成されています。
本レポートの内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金融機構局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
なお、マクロ・ストレステストのためのストレス・シナリオについては、シナリオ別データ [XLSX 17KB]をご覧ください。

照会先

金融機構局金融システム調査課

E-mail:post.bsd1@boj.or.jp