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決済システムレポート2005

2006年3月
日本銀行

以下には、【はじめに】および【要旨】を掲載しています。全文は、こちら(psr2005.pdf)から入手できます。

本レポート中の統計データについては、2006年2月24日時点で最新のものを使用しています。この日以降に発生した統計データの訂正については、決済動向の「訂正のお知らせ」を参照して下さい。

はじめに

 決済システムは、一国の経済活動を支える重要な基盤の一つである。商取引や金融取引をはじめとする経済活動は、決済が確実に行われるとの信認の上に成り立っている。万一決済システムが円滑に機能しない場合には、経済活動全般に多大な影響が及ぶ。決済システムの運営主体や参加金融機関は、日々決済システムを円滑に運営するとともに、その安全性と効率性を向上させる責務を負っている。

 日本銀行も、支払・決済手段の提供者および決済システムの運営主体として、日本銀行券を発行するとともに、日本銀行当座預金を提供している。証券決済の分野でも、国債の振替制度、登録制度を運営している。また、わが国資金・証券決済システム全般の安全性、効率性向上に向けた働きかけを行うほか、各国にまたがる国際的な決済システム等に対しても、主要国中央銀行とともに国際協調オーバーサイトを実施している。2005年7月には、安全で効率的な決済システムの構築に積極的に貢献することを目的に、決済機構局を新設した。

 わが国決済システムの動向をみると、1980年代は金融取引の急増を受けて、決済処理のオンライン化が進められた。また、1990年代以降は、金融システム不安の高まりにも対応して決済リスク削減策の導入・強化が積極的に図られた。わが国資金・証券決済システムの改革はこれまで着実に進展してきたと評価できよう。

 しかし、決済システムを取り巻く環境の変化は著しい。情報通信技術が不断に進歩するもとで、情報セキュリティ面では新たな対応を要する事例が増加している。金融市場では、市場参加者や金融商品の多様化、金融取引の国際化が進み、決済システムの構造にも変化が生じている。自然災害や大規模テロなどの物理的脅威にも備えなければならない。より安全で効率的な決済システムの構築にあたっては、配慮すべき要素が一層多様かつ複雑なものとなっている。

 今回創刊する決済システムレポートは、こうした環境変化を踏まえながら、最近のわが国決済システムの動きを概括し、今後の課題を把握することを目的としている。対象期間は原則として2005年中とし、必要に応じて前後の期間の動きにも言及している。

 具体的な記述にあたっては、以下の3点を柱とした。

  1. (1)わが国決済システムにおける取扱高の推移や制度改革の動向を分析、紹介すること。
  2. (2)わが国決済システムの安全性、効率性面での課題を把握し、それへの対応状況と日本銀行の取組みを紹介すること。
  3. (3)決済システムにかかる研究成果を紹介し、国内外における決済問題への取組みに貢献すること。

 日本銀行は、今後とも、決済システムの運営主体や参加金融機関との緊密な連携のもとで、より安全で効率的なわが国決済システムの構築に引き続き注力していく考えである。

要旨

 わが国資金決済システムでは、1980年代以降決済処理のオンライン化が、また1990年代以降は決済リスク削減策の導入・強化が進められてきた。また、証券決済システムも、統一的な証券決済法制の整備等をきっかけに、近年、完全ペーパーレス化やDVP化(証券資金同時受渡)等の動きが進展している。こうした中で、決済システムが取り扱う決済件数・金額も増加を続けている。

(2005年中の決済システムにおける取扱高)

 2005年中における資金決済システムの取扱金額をみると、大口資金決済は、国債取引や外国為替取引にかかる資金決済の拡大に牽引されて、全体として増加傾向を維持した。小口資金決済の分野でも、内国為替決済制度の取扱金額が、景気の回復を背景に若干ながらも増加を続けた。

 証券決済システムの取扱高をみると、国債振替金額が、国債市場取引の増加を背景に拡大を続けた。株式の振替件数も、市場の活況を背景に年央以降大きく増加した。また電子CPは、手形CPにかかる印紙税軽減措置の終了をきっかけに手形CPからの移行が進み、発行額、振替額とも増加している。

(2005年中の決済制度改革と当面する課題)

(1)次世代RTGS構想

 日本銀行は、2005年11月、次世代RTGSの構想を公表し、市中協議を経て、2006年2月、同構想の具体化に着手した。

 次世代RTGSは、1)日本銀行当座預金決済に流動性節約機能を導入すること、2)現在、民間決済システムを通じて処理されている大口資金取引についても、流動性節約機能を備えた日本銀行当座預金上でRTGS処理できるようにすること、を内容としている(注)

 次世代RTGSが実現すれば、日々の決済に必要となる資金や担保の量が節約されるとともに、大口資金決済全体の進捗ペースが速まるものと期待される。わが国大口資金決済システムの安全性、効率性の一層の向上に向けて、関連する市場慣行の整備を含め、次世代RTGSの構想を推進していくことが重要である。

  • 流動性節約機能の導入および外国為替円決済制度に基づき時点ネット決済されている取引のRTGS化については2008年度中を、また全国銀行内国為替制度に基づき時点ネット決済されている取引のうち大口分のRTGS化については2011年頃を、実現の目途としている

(2)民間時点ネット決済システムにおけるリスク管理

 民間資金決済システムでは、これまで、「ランファルシー・プラス」基準の達成など、決済リスク削減のための各種対策が講じられてきており、2005年度中もこれにほぼ沿った対応が進められた。

 決済システムが安定的に運営されるためには、参加者や運営主体自身が決済リスクを的確に認識し、リスク削減のための仕組みをシステム内部に組み入れることが不可欠である。この点、決済債務の全額保護といった預金保険制度の枠組みのもとにあっても、民間決済システムは、自主規律に基づくリスク管理策の維持・向上に努めることが重要である。また、最近では、決済量が少数の金融機関に集中する傾向がある。これに伴って金融機関によっては日中エクスポージャー(未決済残高)の限度額引上げや差入担保の積増しを必要とするケースが出てきている。こうした構造変化も踏まえつつ、安全性、効率性の向上に一層努めていくことが必要である。

(3)証券決済制度改革の推進

 証券決済システム面では、2005年5月、国債決済の安全性・効率性の向上を目的として日本国債清算機関が開業した。また、2006年1月には、一般債の完全ペーパーレス化とDVP決済が実現した。

 今後も投資信託受益権や株式の完全ペーパーレス化の実現、およびDVP、STP(約定から決済に至るプロセスの電子一貫処理)の対象範囲拡充に努めることが重要である。また、証券決済システムに関する国際的な基準にも照らし、証券決済サイクルの短縮など残された課題について具体的な検討を加えていくことが必要である。あわせて、清算・決済システムの円滑な運行等を確保する体制の整備が重要な課題となっている。

(4)外国為替決済リスクの削減

 外国為替取引にかかる決済については、決済リスク削減のために設立されたCLS(Continuous Linked Settlement)の利用が拡大している。

 CLS決済については、引き続き、厳格なリスク管理策のもと、安定的な運行が確保されることが重要である。また、CLS以外の制度を用いて決済を行う場合には、各金融機関において、時差に伴う元本取りはぐれのリスクを厳格に管理していくことが必要である

(5)国際的な決済システム等の安全性確保

 金融のグローバル化を反映して、CLSやSWIFTなど、複数の国にまたがる決済システムや決済関連サービス提供主体の業務規模が拡大している。これに対応して、主要国中央銀行は協調オーバーサイトを行っている。

 これら国際的な決済システム等において、引き続き適切な決済リスク管理や業務継続の体制が確保されていくことが重要である。

(6)情報セキュリティの向上

 偽造・盗難キャッシュカ−ド問題やフィッシング問題にみられるように、情報セキュリティ面で新たな対応を要する事例が増加している。

 情報システムへのセキュリティ侵害は、支払・決済手段や決済システムへの信認を脅かすものである。金融界全体として、セキュリティに関する情報を共有しながら、情報セキュリティ侵害の防止に注力していくことが重要である。

(7)業務継続体制の整備・強化

 金融機関や決済システムの運営主体は、業務の中断により決済不能が生じ、深刻なシステミック・リスクを惹き起こすことのないよう、業務継続体制を整備することが重要である。

 わが国金融界も、これまで業務継続体制の整備を進めてきた。今後もその一層の充実に努めるとともに、関係者の連絡体制や役割分担を明確化し、これを検証する共同訓練等を充実させていくことが必要である。

 日本銀行は、わが国中央銀行として、決済システムの運営主体や参加金融機関、海外中央銀行等との連携のもとで、上述の当面する課題に引き続き積極的に取り組み、わが国決済システムの安全性、効率性の一層の向上に貢献していく考えである。