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地域経済報告 —さくらレポート— (2011年7月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2011年7月4日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(11年4月)と比較すると、東日本大震災(以下、「震災」)に伴い景気判断を慎重化させた7地域からは、供給面の制約の和らぎ、家計や企業のマインドの改善等を背景に、持ち直し方向の動きがでているとの報告があった。この間、近畿、四国からは、前回からの持ち直しの基調に大きな変化はないとの報告があった。

ただし、震災に伴う下押し圧力が続いている中、持ち直しの動きには差異がみられている。また、東北や関東甲信越からは、震災被害が甚大だった地域は引き続き厳しい状況に置かれているとの報告があった。

表 地域からみた景気情勢
  11/4月判断 前回との比較 11/7月判断
北海道 足もと、震災に伴う一連の影響から下押し圧力がみられる 下矢印 震災に伴う下押し圧力が残存しているものの、一部に持ち直しの動きがみられている
東北 これまで持ち直しの動きを続けてきたが、震災により、太平洋側を中心としたきわめて広範な地域が被災し、社会インフラ、生産・営業用設備の棄損が生じたことから、経済的にも甚大な被害が生じている 下矢印 震災により大幅に悪化したが、社会インフラや生産・営業用設備の復旧が進捗しており、地域差はあるものの、経済活動面の正常化に向けた動きが着実に広がっている
北陸 震災の影響の広がりから、このところ停滞感がみられており、企業の業況感や家計のマインドが慎重化している 下矢印 一部に厳しさもみられるが、全体としては持ち直してきている
関東甲信越 震災の影響に伴う生産活動の大幅な低下等から厳しい状況にある 下矢印 厳しい状況が続いているが、供給面の制約が和らぎ、家計や企業のマインドも改善しつつあるもとで、地域間、業種間のばらつきを伴いつつも、持ち直しの動きがみられている
東海 持ち直しつつあったが、足もとでは悪化しているとみられる 下矢印 なお厳しい状況にあるが、持ち直しつつあるとみられる
近畿 緩やかな回復基調にあり、昨秋からの足踏み状態を脱しつつあったが、足もとでは震災の影響が生産面などにみられ始めている 横矢印 緩やかな回復基調にあるが、震災の影響が生産面などにみられている
中国 震災の影響を受けて、生産活動の制約や個人消費関連での自粛ムードの広がりなどから、停滞色がみられ始めている 下矢印 震災による生産活動への下押し圧力が薄れてきていることなどから、持ち直してきている
四国 持ち直し基調にある。なお、先行きにかけては、今回の震災によって、生産活動のほか企業や家計のマインド等が短期的には下押しされる可能性が高い 上矢印 持ち直し基調にある。この間、震災後にみられた下押し圧力は和らいでいる
九州・沖縄 緩やかに回復してきたものの、足もとでは震災による供給面の制約等の影響がみられている 下矢印 震災の影響による下押し圧力が弱まってきており、震災直後に比べ持ち直しつつある
  • 前回との比較矢印の説明

公共投資は、東北からは「前年を上回った」、関東甲信越からは「減少ペースが縮小している」との報告があった一方、他の7地域(北海道、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)からは「減少している」等との報告があった。

設備投資は、震災後の復旧需要の増加や、新製品対応投資等を積み増す動きがみられていることなどを背景に、7地域(北海道、東北、北陸、東海、近畿、中国、四国)からは「持ち直し」等との報告があった。また、関東甲信越からも「弱めの動きが続いているが、震災で被害を受けた地域を中心に毀損設備を復旧させる動きがみられているほか、震災直後に一旦先送りした投資案件を当初計画通りに実施する動きもみられ始めている」との報告があった。この間、九州・沖縄からは、「前年の大型投資の反動等もあって、弱めの動きとなっている」との報告があった。

個人消費は、供給制約が緩和しているほか、消費マインドも改善しているもとで、全ての地域から「持ち直しの動きがみられている」等との報告があった。

品目別の動きをみると、大型小売店販売額では、消費マインドが改善しつつあることなどを背景に、全地域から持ち直しの動きや下げ止まりの動きがみられているとの報告があった。家電販売でも、九州・沖縄からは弱い動きとの報告があったが、他の地域からは節電意識の高まりによる省エネ型家電の販売増加等の動きが報告された。乗用車販売については、ほとんどの地域から大幅に減少しているとの報告があったが、北海道、東北、関東甲信越、東海、四国、九州・沖縄からは供給制約の和らぎ等を背景に、減少幅縮小等の動きがみられるとの報告があった。一方、旅行関連需要は、九州・沖縄からは国内観光客数が持ち直しているとの報告があったが、北海道、東北、北陸、関東甲信越を中心に、多くの地域から、国内外からの観光客数が減少しているとの報告があった。

住宅投資は、4地域(北海道、東海、四国、九州・沖縄)からは「持ち直している」または「一部に持ち直しの動きがみられる」等との報告があったほか、北陸、中国からも「下げ止まっている」との報告があった。一方、震災被害が大きかった東北からは「低調に推移している」、関東甲信越からも「総じて弱い動きが続いている」との報告があった。また、近畿からも「震災の影響などもあって、弱めの動きとなっている」との報告があった。

生産については、震災後は大きく減少したが、供給制約が和らぐ中でほとんどの地域からは「増加している」または「持ち直している」等との報告があった。この間、近畿からは「増加基調にあったが、震災の影響がみられている」との報告があった。

なお、東北からは「着実に増加しているが、太平洋沿岸部については、生産設備に甚大な被害を受けたこと等から、引き続き、生産活動の停止や減産を余儀なくされている先が多い」との報告があった。

業種別の主な動きをみると、ほとんどの地域が、供給面の制約の和らぎを指摘しており、こうした中で、自動車・同部品、電気機械、一般機械など多くの業種で生産水準を引き上げる動きが報告された。

雇用・所得環境については、多くの地域からは引き続き厳しい状況にあるとの報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 減少傾向にある 全体として持ち直している 乗用車販売が前年を大きく下回っているものの、消費者マインドが震災直後に比べて改善しつつある中で、家電販売や高額品など一部に持ち直しの動きがみられている 緩やかに持ち直している 下げ止まっている 雇用情勢は、厳しさを残しながらも緩やかに持ち直している。雇用者所得は、常用労働者数、一人当たり名目賃金ともに前年を上回っている
東北 前年を上回った 前年を上回る計画となっている 震災により大幅に落ち込んだものの、足もと持ち直しの動きが広がっている 低調に推移している 依然として震災前の水準を下回っているものの、着実に増加している 雇用情勢をみると、震災による影響から悪化しているものの、新規求人が増加する等、悪化ペースは鈍化している
北陸 北陸新幹線関連の大口工事の発注が一巡したことから、減少している 製造業を中心に緩やかに持ち直している 観光関連で厳しさが残るものの、震災による消費自粛ムードが弱まってきていることから、全体としては震災前の状況に戻りつつある 下げ止まっている 新興国経済が力強い成長を続けている中、自動車メーカーの減産や部材調達難を背景とした供給面の制約が和らいでいることから、全体としては生産水準が回復している 雇用情勢をみると、有効求人倍率の改善基調が続くなど厳しさが和らいでいる。
雇用者所得も、前年を上回って推移している
関東甲信越 減少ペースが縮小している 弱めの動きが続いているが、震災で被害を受けた地域を中心に毀損設備を復旧させる動きがみられているほか、震災直後に一旦先送りした投資案件を当初計画通りに実施する動きもみられ始めている 消費マインドが改善しつつあるもとで、耐久財や一部のサービス消費等で持ち直しの動きがみられている。もっとも、ホテルや観光地等の旅行関連サービスは、国内外からの観光客の落ち込みが続いていることから、大幅に減少している 震災の影響に伴う供給制約等により、新築着工の遅れが一部にみられていることなどから、総じて弱い動きが続いている 供給面の制約が和らいでいるもとで、多くの業種で生産水準を引き上げている 雇用・所得動向は、引き続き厳しい状況にある
東海 減少基調にある 製造業を中心に持ち直している 持ち直しつつある 低水準ながら一部に持ち直しの動きがみられる 大幅に減少しているものの、供給面での制約が徐々に和らいでいることから、足もとでは持ち直しつつあるとみられる 雇用・所得情勢は、震災以降の生産の減少等を受けて、弱めの動きとなっている
近畿 減少している 企業収益の改善が続く中で、緩やかに持ち直している 震災の影響から乗用車販売などに弱めの動きがみられているが、家電販売が堅調であるほか、百貨店の増床効果などもあって、全体としては、緩やかに持ち直している 震災の影響などもあって、弱めの動きとなっている アジア向け輸出の持ち直しなどから、増加基調にあったが、震災の影響がみられている。この間、在庫は低水準で推移している 雇用情勢をみると、雇用面にはなお厳しさを残しながらも、労働需給は徐々に改善しつつあり、賃金も下げ止まってきている。こうしたもとで、雇用者所得は、前年比マイナス幅が縮小してきている
中国 減少している 一部に計画の遅延や見直しの動きがみられていたが、製造業を中心に持ち直している 乗用車販売が新車供給不足などから大幅に減少しているものの、消費マインド悪化の影響が払拭されてきていることなどから、持ち直しの動きがみられている 一部に計画が遅延する動きがみられていたが、足もとは下げ止まっている 震災の影響を受けた資材や部品の調達難の状態が解消されてきていることなどから、回復してきている 雇用情勢は、依然厳しい状況にあり、一部にみられた持ち直しの動きも震災後弱まっている。雇用者所得は、全体として企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いている
四国 減少基調にある 持ち直している 震災後は乗用車販売を中心に弱い動きとなっているものの、一部に持ち直しの動きがみられる 低水準ながら、一部で持ち直しの動きが続いている 持ち直し基調にある。この間、震災後にみられた下押し圧力は和らいでいる 雇用情勢は、改善している。雇用者所得は、概ね下げ止まっている
九州・沖縄 減少している 弱めの動きとなっている 一部に弱い動きがみられるものの、供給制約や自粛ムードの影響が弱まっており、震災直後に比べ持ち直しつつある 資材の供給制約による影響が薄らぎつつあり、緩やかに持ち直している 部材調達が正常化しつつあることから自動車で操業度を引き上げており、震災直後に比べ増加している 雇用・所得情勢は、全体としてはなお厳しい状態にあるが、労働需給は幾分改善している

II. 地域の視点

東日本大震災後の地域経済における特徴的な動きについて

各地域では、東日本大震災(以下、「震災」)後の懸命な復旧・復興努力などが実を結んで、経済活動の正常化に向けた動きがみられ始めている。具体的には、(1)供給面の制約が和らぎ始めるもとで、製造業の生産活動に持ち直しの動きがみられていること、(2)消費マインドが改善しつつあるもとで、耐久財販売などに増加の動きがみられること、などが挙げられる。

東北地方を中心に震災で大きな被害を受けた地域(以下、「被災地」)では、地域差はあるものの、経済活動の正常化に向けた動きが着実に進展している。具体的には、被害を受けた生産・営業用設備が4月頃から順次復旧・再開し、最近では震災前に近い生産水準に回復している先がみられるほか、港湾・道路など社会インフラの復旧も着実に進んでいる。また、ガソリン供給の正常化や、震災以降実施されていた計画停電が4月入り後原則実施されなくなった点も、経済活動の正常化にプラスに働いた。

加えて、被災地以外で素材産業や食品などの工場を有する地域では、震災以降、グループ企業間・同業他社間で代替生産が行われている。これらや代替調達の進展もあって、多くの地域でサプライチェーンの修復が進み、これまで生産活動の下押し要因となっていた供給面での制約が緩和してきている。さらには、広い業種で復旧・復興関連需要が顕現化している。こうした動きを背景に、各地域の製造業の生産活動には持ち直しの動きがみられている。

もっとも、経済活動の正常化に向けた動きは、地域ごとにみるとばらつきもみられる。この背景は、(1)被災地や供給制約の厳しい輸送用機械のウェイトが高い地域ほど、震災後の落ち込みが大きかった分、最近の生産は他地域比はっきりと増加していること、(2)代替生産は震災前の生産水準が低い地域ほど生産面での押し上げ効果が大きいこと、などが挙げられる。

家計支出は、各地域から、消費マインドが改善しつつある中、財やサービス消費ごとにばらつきを伴いながらも持ち直しの動きがみられているとの報告が多い。なお、観光は、外国人観光客を中心に原子力発電所事故の悪影響などから全国的に減少しており、厳しいとの見方が多い。もっとも、一部の地域では国内観光客の震災に伴う振替需要などから持ち直しの動きがみられている。

この間、農水産業では被災地を中心に震災による直接的な被害や、原子力発電所事故による悪影響がみられている。

本年夏の電力供給制約に対する大口需要家(製造業)の対応をみると、東北電力・東京電力管内の企業は、昨夏の使用最大電力の▲15%節電に向けて様々な努力(勤務シフトや自家発電設備の設置など)を行っている。これにより、本夏の節電による生産活動への影響については、多くの企業が限定的としている。その他の地域では、最近表面化した電力供給制約に対して、「生産水準に影響しない範囲での節電対策を検討中」とする声が多い。こうした中、電子部品・デバイスメーカーなどの集積する地域からは、「大口需要家に電力使用制限が行われれば、制限緩和措置次第では生産面への影響が避けられない」といった不安の声も一部に聞かれる。また、東京電力管内の中小企業(小口需要家)では、「昨夏の使用最大電力の▲15%節電を目指していく」という先から、「可能な範囲の節電を行う」という先まで対応は区々の状況にある。なお、非製造業では大口需要家・小口需要家とも売上に影響が出ない範囲での細かな節電対策の積み上げで対応しようとする先が多い。この間、一部の企業からは各種節電対策に伴う追加コストが、収益に与える影響を懸念する声も聞かれる。

雇用面では、今後の生産の本格的な回復などを見据えた雇用増を示唆する声が聞かれている。例えば、輸送用機械では、「今後の増産対応は人員確保も大きな課題の一つ」とするなど、労働力の円滑な確保が今後の経営上の課題となっている。一方で、被災地では厳しい雇用情勢の継続が見込まれている。また、広い地域から一部の産業における震災による雇用面へのさらなる悪影響を懸念する声が聞かれている。

各地域の企業は、震災後、毀損した生産設備等の復旧やサプライチェーンの障害の解消に向けて注力しており、今回の震災を踏まえた中長期的な対応に着手しているという先は現段階では少ない。もっとも、今回の震災を踏まえて、企業では部品調達先の多様化や生産拠点のあり方などについて再考が必要という問題意識が高まっているほか、限定的ながらも一部の地域では、そうした企業ニーズを捉えることで地域活性化に繋げていこうという動きがみられ始めている。

日本銀行から

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