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地域経済報告 ―さくらレポート― (2011年10月) *

* 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2011年10月20日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢を前回(11年7月)と比較すると、5地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、九州・沖縄)からは供給制約の解消などから持ち直し方向の報告があった一方で、4地域(北陸、近畿、中国、四国)からは前回からの持ち直しの基調に大きな変化はないとの報告があった。なお、複数の地域からは、「海外経済減速などの影響が生産活動の一部にみられ始めている」という報告があった。

この間、震災で甚大な被害を受けた東北からは、「被災地以外の地域では震災前を上回る水準にまで復してきているほか、被災地の一部でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している」、関東甲信越からも、「着実に持ち直してきている」と、震災以降の経済活動の着実な立ち上がりを示す報告があった。

また、複数の地域から、「地域・業種・規模間で、持ち直しの動きにばらつきがみられている」との報告があった。

  11/7月判断 前回との比較 11/10月判断
北海道 震災に伴う下押し圧力が残存しているものの、一部に持ち直しの動きがみられている 上矢印 一部に厳しさがみられるものの、全体としては持ち直してきている
東北 震災により大幅に悪化したが、社会インフラや生産・営業用設備の復旧が進捗しており、地域差はあるものの、経済活動面の正常化に向けた動きが着実に広がっている 上矢印 震災関連特需による押し上げ効果もあって、被災地以外の地域では震災前を上回る水準にまで復してきているほか、被災地の一部でも経済活動再開の動きがみられるなど、全体として回復している
北陸 一部に厳しさもみられるが、全体としては持ち直してきている 横矢印 一部に厳しさもみられるが、全体としては持ち直しの動きが続いている
関東甲信越 厳しい状況が続いているが、供給面の制約が和らぎ、家計や企業のマインドも改善しつつあるもとで、地域間、業種間のばらつきを伴いつつも、持ち直しの動きがみられている 上矢印 地域間、業種間のばらつきを伴いつつも、着実に持ち直してきている
東海 なお厳しい状況にあるが、持ち直しつつあるとみられる 上矢印 持ち直している
近畿 緩やかな回復基調にあるが、震災の影響が生産面などにみられている 横矢印 緩やかな回復基調にあるが、海外経済減速などの影響が一部にみられ始めている
中国 震災による生産活動への下押し圧力が薄れてきていることなどから、持ち直してきている 横矢印 震災による供給面の制約が解消する中で、持ち直している
四国 持ち直し基調にある。この間、震災後にみられた下押し圧力は和らいでいる 横矢印 一部に弱めの動きがみられるものの、全体としては持ち直し基調にある
九州・沖縄 震災の影響による下押し圧力が弱まってきており、震災直後に比べ持ち直しつつある 上矢印 個人消費や生産の一部で弱めの動きがみられるものの、全体としては、持ち直しの動きを続けている
前回との比較矢印の説明

公共投資は、東北から、「持ち直している」、関東甲信越から、「下げ止まりつつある」との報告があった一方、他の7地域(北海道、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)からは、「減少している」等との報告があった。

設備投資は、震災後の復旧関連投資の増加や、新製品対応投資、新規出店にかかる投資増などを背景に、7地域(北海道、東北、北陸、関東甲信越、東海、中国、四国)から、「持ち直し」や「増加している」との報告があった。一方、近畿からは、「企業収益が頭打ちとなる中、やや弱めの動きがみられる」との報告があった。また、九州・沖縄からは、「弱めの動きとなっている」との報告があった。この間、多くの地域から企業の業況感について改善の報告があった一方、一部の地域から為替円高を懸念する報告もあった。

個人消費は、一部耐久消費財での駆け込み需要の反動がみられているものの、供給制約の解消や消費マインドの改善、被災地での震災関連需要などを背景に、6地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、近畿、中国)から、「持ち直し」や「増加を続けている」、九州・沖縄から、「底堅い動きとなっている」との報告があった。また、北陸からは、「下げ止まっている」との報告があった。一方、天候不順の影響などから、四国からは、「弱い動きとなっている」との報告があった。

品目別の動きをみると、大型小売店販売額では、消費マインドが改善しつつあることなどを背景に、ほとんどの地域から、「持ち直し」や「下げ止まり」の動きがみられているとの報告があったが、四国や九州・沖縄からは天候要因などを理由に、「弱い動き」との報告があった。乗用車販売については、供給制約の解消などを背景に、全地域から、「持ち直し」や「減少幅縮小」の動きがみられるとの報告があった。一方、家電販売は、アナログ放送終了前の薄型テレビなどへの駆け込み需要の反動などにより、全地域から、「減少」方向の報告があった。こうした中、旅行関連需要は、ほとんどの地域から、「持ち直し」や「減少幅縮小」の報告があった。

住宅投資は、7地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」との報告があったほか、北陸、近畿からも、「下げ止まっている」との報告があった。

生産については、供給制約の解消により、ほとんどの地域から、「増加している」または「持ち直している」等との報告があった。この間、複数の地域から、「海外経済減速などの影響が一部にみられ始めている」との報告があった。

業種別の主な動きをみると、7地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、中国、四国、九州・沖縄)からは、輸送機械について、「増加している」や「生産水準を引き上げている」等の報告があった。また、4地域(北海道、東海、中国、九州・沖縄)からは、鉄鋼について、「輸送機械の生産増加から持ち直している」といった報告があった。一方、複数の地域からは、海外経済の減速や在庫調整圧力などを背景に、電子部品・デバイスや化学、一般機械で、「弱めの動き」等の報告があった。この間、東北からは、「鉄鋼や紙・パルプ、食料品は、太平洋沿岸部の生産設備が甚大な被害を受けたことから、依然として低水準となっているものの、生産設備復旧に伴い操業を再開する先も徐々にみられている」といった報告があった。

雇用・所得環境については、多くの地域から、「引き続き厳しい状況にあるが、改善の動きがみられる」との報告があった。

雇用情勢については、ほとんどの地域から生産活動の持ち直しなどを背景に、「改善傾向」との報告があった。また、雇用者所得についても、多くの地域から、「下げ止まっている」等との報告があった。

需要項目等

  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 減少傾向にある 全体として持ち直している 持ち直しの動きがみられる 持ち直している 供給面の制約が解消する中で、持ち直しの動きがみられている 雇用情勢は、厳しい状況にある中で、緩やかに持ち直している。雇用者所得は、前年を上回って推移している
東北 震災復旧関連工事の発注に加え、震災後停止していた工事の再開もあって、持ち直している 増加している 震災関連特需もあって増加を続けている 持家を中心に持ち直しの動きがみられている 依然として震災前の水準を下回っているものの、増加を続けている 雇用情勢をみると、震災による影響から悪化した後、改善している。雇用者所得は、前年を下回った
北陸 北陸新幹線関連の大口工事の発注が一巡したことから、減少している 製造業を中心に緩やかに持ち直している 消費マインドが改善するもとで、全体としては下げ止まっている 下げ止まっており、足もとの新設住宅着工戸数は前年を上回っている 海外経済が新興国を中心に底堅く推移している中、全体としては生産水準が回復している 雇用情勢をみると、緩やかに持ち直している。雇用者所得も、前年を上回って推移している
関東甲信越 下げ止まりつつある 震災で被害を受けた地域を中心に毀損設備を復旧させる動きが続いているほか、震災直後に一旦先送りした投資案件を当初計画通りに実施する動きがみられていることから、増加している 一部に弱さが残っているものの、全体としては持ち直している 震災の影響に伴う供給制約の解消などから、持ち直しに転じている 持ち直している 雇用・所得情勢は、厳しい状況が続いている
東海 減少基調にある 製造業を中心に持ち直している 一部に弱い動きが残っているが、総じてみれば持ち直している 各種住宅購入促進策もあって、持ち直している 供給面での制約が解消し、概ね震災前の水準まで持ち直している 雇用・所得情勢は、生産の持ち直しを受けて、改善の動きがみられる
近畿 減少している 企業収益が頭打ちとなる中、やや弱めの動きがみられる 全体として緩やかに持ち直している 全体として下げ止まりの動きがみられている 増加に復している。もっとも、このところ海外経済の減速などの影響が一部にみられ始めている。この間、在庫はこのところ高めの水準となっている 雇用情勢はなお厳しさを残しながらも徐々に改善しつつあり、賃金も下げ止まってきている。こうしたもとで、雇用者所得は、前年比マイナス幅が縮小してきている
中国 減少している 製造業を中心に持ち直している 全体としては持ち直している 持ち直している 供給面の制約が解消する中で、概ね震災前の水準に復してきている 雇用情勢は、厳しい状況が続く中、新規求人等に持ち直しの動きがみられる。
雇用者所得は、全体として企業の人件費抑制等を背景に弱い動きが続いているが、幾分改善傾向にある
四国 減少基調にある 増加している 乗用車販売が持ち直しているものの、天候要因もあって、足もとでは全体として弱い動きとなっている 持ち直しの動きが続いている 一部に弱めの動きがみられるものの、全体としては持ち直し基調にある 雇用情勢は、改善している。雇用者所得は、概ね下げ止まっている
九州・沖縄 減少している 弱めの動きとなっている テレビ等の駆け込み需要の反動や天候不順の影響により、一部に弱めの動きがみられるが、全体としては底堅い動きとなっている 緩やかに持ち直している 海外経済の減速や為替円高を背景に、一部に操業度を引き下げる動きがみられるものの、全体としては自動車を中心になお増加している 雇用・所得情勢は、全体としてはなお厳しい状態にあるが、労働需給は幾分改善している

II. 地域の視点

最近の地場企業の経営戦略について

わが国企業は、人口減少や少子高齢化の進行、新興国経済の台頭など、厳しい構造調整圧力に晒されている。こうした中、本年3月の東日本大震災(以下、「震災」)によって甚大な被害を被ったほか、その後のサプライチェーンの障害や電力供給制約問題、さらには、最近の為替レートの円高化など、企業を取り巻く経営環境が大きく変化してきている。こうした環境変化に対する企業行動について、多くの地域からは、(1)基本的には、震災前からの「経営戦略」を引き続き中核に据え、達成に向けて努力していること、ただし、(2)震災を踏まえた対応も一部にみられていること、が挙げられた。やや仔細にみると、(1)については、「新興国を中心とした海外需要の取り込み」や「国内拠点の競争力強化」、「今後の国内需要の拡大が期待できる事業の育成」の3点を経営戦略の中核に据えて企業努力を続けている。また、(2)については、「事業継続体制の強化」や「復旧・復興需要の取り込みに向けた動き」、「震災後の落ち込みが大きい観光産業の振興」が一部でみられはじめている。

まず、企業の経営戦略をみると、大企業では、製造業・非製造業とも「新興国を中心とした海外需要の取り込み」に向けて、海外拠点の拡充を進める動きが続いている。また、中堅・中小企業でも製造業を中心に海外進出に踏み切るなど、海外需要の取り込みに向けた動きに広がりがみられている。これに伴い、企業からは海外向け投資を積極的に実施していくという声が多く聞かれる。
なお、最近の為替レートの円高化に対して、輸送用機械や電気機械などの輸出関連企業からは、強い懸念の声も少なくない。こうした先では、海外生産比率や現地調達比率の計画達成時期を前倒しする、あるいは、目標値を引き上げる動きや、基幹部品の生産の海外移管について検討を開始するなど、採算改善に向けた対応に着手する動きがみられている。
また、今後、企業が海外生産を加速させる動きが広がることで、海外需要の取り込みが進む反面、国内生産が減少することを懸念する声も聞かれている。

これに対し、国内拠点については、国内雇用の維持や技術のブラックボックス化のためにも重要とする先が引き続き多くみられている。こうした先では、「国内拠点の競争力強化」を進めるため、技術力の向上による高付加価値品の生産開発拠点としての位置付けを強める先や、生産性のさらなる向上を図る先がみられる。なお、中小企業からは、技術力の維持や海外事業を進めていくためのノウハウ不足などから、国内で生産していくしかないといった声も聞かれている。この間、国内投資については、製造業で、合理化投資や競争力を有する事業分野への投資を実施するという声が多く聞かれるほか、非製造業でも、事業拡大に向けた投資を積極化させるとの声が聞かれている。一方で、中小企業では、「先行き不透明な中、投資は極力抑制していく」といった声が少なくない。

また、各地域とも、国内市場が成熟化する中、エネルギーや高齢者サービスなど「今後の国内需要の拡大が期待できる新たな事業」に経営資源を投入する動きなどがみられており、事業として徐々に立ち上がりつつある。実際、新規分野への設備投資に踏み切る動きもみられはじめている。

震災後の経営環境の変化に対しては、多くの先が、費用対効果の関係から従来の事業体制を変更しないとしている。ただし、今回の震災を機に、限定的ながらも、震災等のリスクが顕現化した際の「事業継続体制を強化」する動きがみられているほか、中には、設備集約など生産拠点のさらなる効率化を進める動きもみられている。具体的には、被災地や防災意識の高い地域で工場などの移転・再配置を検討する動きや、生産拠点の集中リスクを軽減するため、複数拠点で生産する体制に変更する動きがみられている。また、サプライチェーンの障害による経験を踏まえて、部材調達の複線化、在庫の積み増しに踏み切る動きもみられている。この間、震災以降の復旧の過程で複数地域間の設備を集約することなどによる効率化を進める先もみられる。なお、ここにきて企業からは電力供給制約を理由の一つに、生産拠点の海外移転を示唆する声が限定的ながらも聞かれている。

また、今後の被災地における「復旧・復興需要の増加」を見込んで、出店等を強化する動きがみられているほか、「震災後の落ち込みが大きい観光産業」では、震災以降、これまで弱かった観光地間の連携や従来とは異なるコンセプトでの集客努力に着手するなど、前向きな取り組みがみられはじめている。

これまで述べてきた地場企業の取り組みは、厳しい構造調整圧力に晒されている中で企業としての成長を実現していくための行動と言える。例えば、海外需要の取り込みをみても、現地ニーズを汲んだ商品を提供するために研究開発拠点を設ける動きや、現地での裁量を増やす動きなどがみられている。また、観光業でもこれまで競合関係にあった観光地同士が、今回の震災を機に連携して観光客の増加を企図する動きなど、新しい取り組みがみられはじめている。今後も、構造変化が進む中では、こうした「イノベーション」が重要な役割を果たすと考えられ、そのための企業行動の継続や、広がりが期待される。一方で、こうした構造変化の過程で生じるマイナスの影響にも、十分な目配りが必要と考えられる。

日本銀行から

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調査統計局経済調査課地域経済グループ

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