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地域経済報告 —さくらレポート— (2014年4月) *

  • 本報告は、本日開催の支店長会議に向けて収集された情報をもとに、支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2014年4月17日
日本銀行

目次

  • III. 地域別金融経済概況
  • 参考計表

I. 地域からみた景気情勢

各地の景気情勢をみると、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には、「回復を続けている」、「緩やかに回復している」等の報告があった。この背景としては、国内需要が堅調に推移し、生産が緩やかな増加基調をたどる中で、雇用・所得環境も改善していることが挙げられている。

前回(14年1月)と比較すると、8地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄)は、景気の改善度合いに関する基調的な判断に変化はないとしている。北陸は、設備投資の持ち直しの明確化等を背景に判断を引き上げている。

表 地域からみた景気情勢
  14/1月判断 前回との比較 14/4月判断
北海道 緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかに回復している
東北 回復している 不変 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には回復を続けている
北陸 緩やかに回復しつつある 右上がり 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している
関東甲信越 緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けている
東海 回復している 不変 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているが、基調としては回復を続けている
近畿 緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては緩やかに回復している
中国 緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調としては緩やかに回復している
四国 緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けている
九州・沖縄 緩やかに回復している 不変 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には緩やかに回復している
  • (注)前回との比較の「右上がり」、「右下がり」は、前回判断に比較して景気の改善度合いまたは悪化度合いが変化したことを示す(例えば、右上がりまたは悪化度合いの弱まりは、「右上がり」)。なお、前回に比較し景気の改善・悪化度合いが変化しなかった場合は、「不変」となる。

公共投資は、東北から、「大幅に増加している」、5地域(北海道、北陸、関東甲信越、中国、四国)から、「増加している」、「増加傾向を維持している」等の報告があった。また、3地域(東海、近畿、九州・沖縄)からは、「高水準で推移している」等の報告があった。

設備投資は、5地域(北海道、東北、関東甲信越、東海、近畿)から、「増加している」等、4地域(北陸、中国、四国、九州・沖縄)から、「持ち直している」、「持ち直しが明確になっている」との報告があった。この間、企業の業況感については、「引き続き改善している」等の報告があった。

個人消費は、雇用・所得環境が改善していること等を背景に、北海道から、「緩やかに回復している」、4地域(北陸、東海、四国、九州・沖縄)から、「緩やかに持ち直している」、「持ち直している」等の報告があったほか、4地域(東北、関東甲信越、近畿、中国)から、「底堅く推移している」等の報告があった。この間、多くの地域から、耐久消費財(乗用車、家電等)や一部の高額品を中心に、「消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動がみられている」等の報告があった。

大型小売店販売額をみると、百貨店は、多くの地域から、高額品の販売が堅調となっているなど、「持ち直しの動きが続いている」、「底堅く推移している」等の報告があった。スーパーは、複数の地域から、「横ばい圏内で推移している」等の報告があった。

乗用車販売は、新型車投入効果等もあって、「増加している」、「底堅く推移している」等の報告があった。

家電販売は、節電機能に優れた白物家電等を中心に、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。

旅行関連需要は、多くの地域から、「持ち直している」、「堅調に推移している」等の報告があった。この間、北海道、九州・沖縄から、外国人観光客が増加しているとの報告があった。

住宅投資は、消費税率引き上げ前の駆け込み需要に伴う既往の受注増等もあって、5地域(東北、関東甲信越、中国、四国、九州・沖縄)から、「増加している」、「高水準で推移している」等の報告があった。また、東海、近畿からは、「駆け込み需要の反動もみられているものの、基調としては底堅く推移している」等の報告があった。一方、北海道からは、「持ち直しの動きが一服している」との報告があった。

生産(鉱工業生産)は、国内需要が消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも堅調に推移し、海外需要も緩やかに持ち直していることを背景に、4地域(北海道、東北、関東甲信越、中国)から、「緩やかな増加を続けている」等の報告があったほか、3地域(北陸、東海、近畿)からは、「高水準で推移している」、「堅調に推移しているとみられる」等の報告があった。また、四国から、「緩やかに持ち直している」との報告があったほか、九州・沖縄からは、「全体としては横ばい圏内で推移している。この間、一部では増加に向けた動きもみられている」との報告があった。

主な業種別の基調的な動きをみると、輸送機械電気機械は、「増加している」、「高めの水準で横ばい圏内の動きが続いている」等の報告があった。はん用・生産用・業務用機械についても、「増加している」、「持ち直している」等の報告があったほか、金属製品窯業・土石でも、「増加基調にある」等の報告があった。電子部品・デバイスは、「持ち直している」、「持ち直しに転じつつある」等の報告があった。鉄鋼化学は、「高操業を続けている」、「横ばい圏内の動きとなっている」等の報告があった。

雇用・所得動向は、多くの地域から、「改善している」等の報告があった。

雇用情勢については、多くの地域から、「労働需給は改善している」等の報告があった。雇用者所得についても、多くの地域から、「持ち直している」、「改善の動きが明確化してきている」等の報告があった。

需要項目等

表 需要項目等
  公共投資 設備投資 個人消費 住宅投資 生産 雇用・所得
北海道 各種経済対策を受けて増加している 景気が緩やかに回復する中、売上や収益が改善するもとで、増加している 雇用・所得環境等の改善を背景に、緩やかに回復している 持ち直しの動きが一服している 国内外需要の増加を背景に、増加している 雇用・所得情勢をみると、労働需給は改善している。雇用者所得は回復している
東北 震災復旧関連工事を主体に、大幅に増加している 増加している 底堅く推移している 消費税率引き上げの影響もみられるが、災害公営住宅の建設等から、増加している 緩やかに増加している 雇用・所得環境は、改善している
北陸 増加傾向を維持している 製造業を中心に持ち直しが明確になっている 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、緩やかに持ち直している 駆け込み需要の反動減がみられている 高水準で推移している 雇用・所得環境は、持ち直している
関東甲信越 増加している 増加基調にある 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動による振れを伴いつつも、基調的には底堅く推移している 消費税率引き上げ前の駆け込み等に伴う既往の受注増を背景に、増加している 振れを伴いつつも、基調的には緩やかな増加を続けている 雇用・所得情勢は、労働需給が着実な改善を続けているもとで、雇用者所得も持ち直している
東海 高めの水準で推移している 一段と増加している 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているが、基調としては、雇用・所得環境が改善する中で、持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動もみられているものの、基調としては底堅く推移している 足もと消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動に対応した減産の動きもみられているが、基調としては高めの水準で横ばい圏内の動きが続いている 雇用・所得情勢は、改善している
近畿 高水準で推移している 緩やかに増加している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、雇用・所得環境などが改善するもとで、基調としては堅調に推移しているとみられる 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動がみられているが、基調としては堅調に推移しているとみられる 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動から減産の動きもみられるが、基調としては堅調に推移しているとみられる 雇用情勢をみると、労働需給は改善の動きが強まっている。こうしたもとで、雇用者所得も改善の動きが明確化してきている
中国 増加傾向にある 持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動減の影響を受けつつも、底堅く推移している 増加している 緩やかな増加基調にある 雇用情勢は、改善している。雇用者所得は、緩やかに持ち直している
四国 増加している 持ち直している 緩やかに持ち直している 高水準で推移している 緩やかに持ち直している 雇用・所得情勢については、労働需給は改善しており、雇用者所得にも持ち直しの動きがみられている
九州・沖縄 高水準で推移している 非製造業を中心に持ち直している 消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減がみられているものの、消費者マインドに加えて雇用・所得環境の改善もあって、持ち直しつつある 消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、増加傾向にある 全体としては横ばい圏内で推移している。この間、一部では増加に向けた動きもみられている 雇用・所得情勢は、労働需給は改善しており、雇用者所得にも持ち直しの動きがみられている

II.地域の視点

各地域の製造業の生産・輸出動向と事業戦略

各地域の製造業を取り巻く需要環境をみると、国内需要は、自動車等を中心に消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けつつも、設備投資の持ち直しや公共投資の下支えもあって、基調的には堅調に推移するとの見方が多い。また、先進国を中心とする海外経済の緩やかな回復を背景に、輸出も次第に増加していくものとみられている。こうしたもとで、先行きの生産は、一時的な減少を見込む先があるものの、基調としては緩やかな増加ないし高水準の持続を見込む先が多い。
こうした中、輸出数量に過去の円安時のような伸びがみられないとの声が少なくない。この背景として、ASEANをはじめとした新興国経済のもたつき、海外生産シフトの進展、海外企業の競争力向上や製品市場の構造変化に伴う影響等が指摘されている。
もっとも、先行きの輸出増加に繋がる動きも広がりつつある。生産用機械(半導体製造装置、工作機械等)、造船、電子部品等の業種では、海外市場で競合する韓国・中国や欧州企業に対する価格競争力の回復を受けて、新規受注を獲得する先が増えている。また、輸出品の価格設定に当たっては、採算重視の先がある一方、円安基調の定着等を受けて値下げによる販売攻勢をかける先もみられている。さらに、駆け込み需要への対応から国内出荷を優先してきた先において、反動減で生じた供給余力を輸出に振り向ける動きなどもみられている。

大手製造業を中心とした国内外の生産体制やサプライチェーンに関する基本方針をみると、多くの先が、為替相場の動向にかかわらず、中長期的な新興国需要の拡大を展望した需要地生産の推進や一段のコスト削減を企図して、海外生産拠点の拡充を進めていく方針を維持している。もっとも、限界的な動きではあるものの、円安や海外での人件費上昇等のもとで、一部に今後の海外進出計画を見直す先がみられるほか、競合輸入品の流入減少、海外調達や逆輸入の採算悪化から、国内での生産・調達に切り替える動きも出てきている。
この間、国内拠点については、コアとなる技術や高度な生産管理体制をベースとしたマザー工場と位置付けたうえで、高付加価値品・新製品の製造拠点や研究開発拠点への転換・特化を進める動きが一段と進展しているほか、設備や事業の統廃合・再編、物流の効率化、外注工程の内製化等により、サプライチェーン全体のコスト競争力強化を追求する動きも広がっている。
また、国内の製造業の現場では、設備の老朽化・統廃合に伴う生産能力の低下や人手不足などによる供給制約が一部にみられ、商機を逃しているとの声も聞かれている。こうした中、投資減税や補助金等の後押しもあって、更新・省力化投資や能力増強投資に踏み切る動きが広がりつつあるほか、供給能力の拡大やサプライチェーン維持の観点から、後継者難の取引先や同業他社の事業承継等に取り組む動きもみられている。

国内製造業の中長期的な事業戦略をみると、グローバル市場での巻き返しや国内市場での生き残りを図るため、戦略分野の見極めや事業展開の見直しを図りつつ、競争力の強化に向けた取り組みを推進している。
国内においては、輸送機械(自動車、航空機、造船)、医療関連、環境・エネルギー関連等を成長分野に位置付け、研究開発や量産化に注力する動きが進展している。また、大学等との共同研究・開発や国内外での企業間連携・M&A等に取り組み、精密加工技術や熟練工の技能といった強みをベースに、蓄積してきた技術やライセンス等を有機的に組み合わせることで、次世代の競争優位を勝ち取ろうとする動きが広がっている。
海外事業においては、国・地域によって異なる顧客ニーズや、経済発展に伴って変化・多様化する消費行動等に対応するため、製品企画・設計・開発機能の現地移転や、販売・サービス拠点の拡充、現地パートナー企業の開拓・活用など、現地に密着した事業展開を指向する企業が増えている。
この間、地場製造業では、自動車部品や電子部品を中心に、大手日系企業に追随して海外進出する動きが進展しているほか、グローバル市場で優位に立つ海外有力企業との取引深耕を図る動きも広がっている。また、下請け企業からの脱却を企図して自社開発製品・ブランドを投入する動き、既存技術を応用して成長分野・ニッチ分野への事業シフトを進める動き、食料品等の海外販売を強化する動きなどがみられている。

最近の製造業を巡る環境変化や企業の事業戦略が地域経済に与える影響をみると、主要産業における海外生産シフトや国内生産拠点の再編等が経済を下押ししている地域がみられるほか、内需型産業中心の地域でも、円安に伴う電力料金・原材料価格の上昇が企業収益を圧迫しているとの声が少なくない。
こうした状況を踏まえ、量産工場による雇用創出等を重視してきた地方自治体の企業立地等の産業政策にも変化がみられている。たとえば、大手製造業の撤退が続いた地域では、優れた技術を有する地場企業の育成や既存技術の転用などにより成長分野への新規参入を促す動きがみられている。また、大都市近郊では食料品・物流等の内需型産業、災害が少ない地方ではBCP拠点、専門研究機関が集積している地域では研究開発拠点など、誘致企業のターゲットを明確化する動きがみられており、特定業種への補助金など、支援制度も多様化している。

この間、大手・地場企業を問わず、従業員の雇用確保や技術流出リスク回避の観点から、引き続き国内生産を重視する声が少なくない。こうした企業からは、研究開発・設備投資に係る支援、労働市場の柔軟性向上、金融サポートの充実等を求める声も多く、官民が連携し製造業の国際競争力の維持・向上に向けて取り組んでいくことが期待されている。

日本銀行から

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照会先

調査統計局地域経済調査課

Tel : 03-3277-1357