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地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* 高水準の収益対比で控えめな企業の支出スタンスの背景 ──中小企業を中心に──

  • 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2018年6月4日
日本銀行

【要旨】

企業収益は、内外経済の成長が続く中で改善傾向にあり、その水準は、企業間のばらつきを残しつつも、中小企業も含めて既往最高圏内にある。この間、設備投資も増加傾向を続けているが、企業収益と比べると、なお控えめなものにとどまっている。こうした中で、中堅・中小企業、中でも特に非製造業を中心に、内部留保が増加するとともに、資産サイドでは現預金が積み上がっている。こうした状況が今後も続くのか、それとも近いうちに企業の支出スタンスがより前傾化してくるのかは、今後のわが国経済を見通すうえで重要である。

こうした問題意識のもと、日本銀行では、本支店・事務所でのヒアリング調査等をもとに、企業が高水準の収益対比でみて設備投資など(研究開発投資、M&Aも含む)の前向きな支出に慎重な背景のほか、今後の見通しと課題について、中小企業を中心に取りまとめた。ポイントは以下のとおりである。

  • 企業が高水準の収益対比でみて設備投資などに慎重な背景としては、(1)リーマン・ショック等のトラウマ、(2)人口減少による中長期的な内需の先細り懸念、(3)中小企業経営者の高齢化と事業承継問題、を指摘する声が特に多かった。また、(4)人手不足によるボトルネック、(5)機動的なM&A等に備えた手元資金の積み上げ、(6)技術革新の方向性やタイミングを巡る不透明感、(7)タイムラグ(収益改善に設備投資などが追い付いていない)、を指摘する声も少なからず聞かれた。このうち(2)、(3)は、中堅・中小企業、(2)はその中でも内需依存度の高い非製造業を中心に聞かれている。
  • 先行きを展望すると、上記の要因のうち、(1)の影響は、新たな経済ショック等がない限り、ごく緩慢ながらも和らいでいくと期待される。また、近年、緩和的な金融環境のもとで、トラウマ経験のない新興企業が台頭してきている点も見逃せない。(3)も、政府による時限的な事業承継支援策を含めた官民の支援強化により、状況改善が期待される。このほか、(7)などの影響も、時間の経過に伴い、和らいでいくとみられる。一方で、(2)については、今後、人口減少が進む中で、下押し圧力として働き続ける可能性が高い。
  • 今後、全体として、企業の設備投資などのスタンスがどうなるかは、各要因の影響の持続性や度合いにより、変わってくると考えられる。その際、留意すべきは、(2)によるマイナスの影響をどうやって抑えるかである。この点、政府による成長戦略の着実な実行や企業による新たな需要の創出・開拓の取り組み、こうした取り組みに対する金融機関や経済団体等によるサポートの一段の充実などが重要と考えられる。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局地域経済調査課

森本
Tel:03-3277-1357