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地域経済報告―さくらレポート―(別冊シリーズ)* 地域の企業における労働生産性向上に向けた取り組みと課題

  • 本報告は、上記のテーマに関する支店等地域経済担当部署からの報告を集約したものである。

2022年12月9日
日本銀行

【要旨】

地域の企業における労働生産性向上への取り組みスタンスは、企業規模や業種等により温度差はあるが、最近の様々な環境変化に対応するかたちで積極化する先が広がりつつある。こうした動きの背景としては、(1)少子高齢化や新型コロナ禍からの経済の持ち直しを背景に人手不足感が高まっていること、(2)新型コロナ禍、デジタル化、脱炭素化といった環境変化に伴う需要の変容が、収益獲得のプレッシャーあるいはチャンスとして意識されていること、(3)原材料価格上昇等によるコスト増大は、企業に経営効率化を促す一方で、値上げの広がりが、自社製品・サービスの高付加価値化を進めている面もあること、が指摘できる。さらに、(4)デジタル技術の発達・普及に加え、副業・兼業など企業の枠を越えた経営資源の活用促進もあり、企業の対応手段の広がりも後押しとなっている。ただし、中小企業を中心に、新型コロナ禍による財務状況の悪化などから消極的なスタンスの先も少なくない。

実際の取り組みは、付加価値額の増大に向けたものと労働投入量の節約に向けたものに大別できる。このうち、前者(付加価値額の増大)については、高成長が期待できる事業分野を開拓・強化する動きが目立つ。具体的には、(1)デジタル化、(2)脱炭素化、(3)新型コロナ禍を契機とする個人・企業の行動変化に関連した事業が目立ち、設備投資や研究開発投資、M&Aのほか、リスキリングなどの人材投資を積極化する動きがある。後者(労働投入量の節約)については、定型的な業務の省力化など従来型の取り組みが進められているほか、新たな取り組みとして、これまで人手に頼っていた対人業務や、従業員の経験・勘に支えられていた技能業務でも、AIやIoTなどを活用した省力化投資等が進められている。また、Web会議ツールや、スマホ・アプリの活用によって業務効率化を図る動きも広がっている。

労働生産性向上に取り組む際の課題として、専門性の高い人材の不足や、情報不足等による経営戦略の策定・実践の難しさなどを指摘する声は多い。こうした課題に関して、地域の行政機関、経済団体、金融機関、教育・研究機関などでは支援・連携に取り組む動きがある。

新型コロナ禍、デジタル化、脱炭素化といった環境変化の中で労働生産性の向上を図るには、企業や個人が経済構造の変化に上手く適応することも必要である。そのためには、リスキリング等の人材投資や、必要な人材や資金が成長分野・企業に円滑にシフトしていくことが重要と考えられる。

日本銀行から

本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行調査統計局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

照会先

調査統計局地域経済調査課

足立
Tel:03-3277-1357