このページの本文へ移動

金融機関のリスク情報に関するディスクロージャーについて

(Box3)

ストレス・テスト

 VaRでは、リスク・ファクターの変動が日々独立した正規分布に従って生じると仮定していることが多い(Box3の図表(1))。また、推計の過程で複数のリスク・ファクターの間に一定の相関関係があることも仮定されている。しかしながら、各種のリスク・ファクターの変動はここで挙げた仮定に従うとは限らない。例えば、その変動の分布が必ずしも正規分布に従う訳ではないほか、実際、1987年のブラック・マンデーにおける株価暴落にみられるような、VaRで前提とする信頼区間を超えた変動も何年かに数度は生じている。こうした市場環境の激変(「異常時」または「ストレスの発生時」)を想定して、保有するポートフォリオに予想される価値の変動を予測しようとすることが「ストレス・テスト」であり、分析の結果に応じて対応策を予め講じておくということがストレス・テストの意義である。

 ストレス・テストについては、一部の金融機関ではすでに自行のリスク管理手法に取り入れ始めているが、定型的または標準的な手法が確立しているわけではなく、現在も民間金融機関や学界、金融当局において盛んに研究が行われている1分野である。民間金融機関で実際に利用されていたり、金融当局等で研究されている方法としては、(1)リスク・ファクターの保有期間・信頼区間を拡大(前掲Box3の図表(1))、(2)リスク・ファクターの変動幅を過去の最大値等に設定、(3)リスク・ファクター間の相関関係が崩壊すると仮定、(4)リスク・ファクターの分布を、正規分布ではなく例えば(Box3の図表(2))のように、より裾野の厚い(fat-tailの)分布であると仮定、あるいはこれらを組み合わせるなどして「異常時」のシナリオを設定し、それぞれのリスク量を算出する方法が挙げられる。

  1. ストレス・テストは、システミック・リスクの回避という観点から中央銀行にとって極めて関心の強い分野である。こうした中、1995年11月、日・米・英の中央銀行およびBISは、米国において「リスク計測とシステミック・リスク(Risk Measurement and Systemic Risk)」と題するリサーチ・コンファレンスを共同で開催した。このコンファレンスでは、主催3国のほか、G10の中央銀行や市中金融機関の実務者、学界関連者等も招待し、技術的・理論的な議論が行われた。
  • (BOX3の図表)ストレス・テスト (1)正規分布の仮定 (2)「 fat-tail」な分布の仮定。詳細は本文のとおり。