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新国際収支統計方式による地域別国際収支状況の公表について

1997年 4月30日
日本銀行国際局

ご利用上の注意

本稿は、日本銀行月報4月号掲載文の転載であり、本文中の「図表」は省略しています。図表を含む全文は、こちらから入手できます (ron9704b.lzh 42KB[MS-Word, MS-Excel])。

はじめに

大蔵省及び日本銀行では、去る1月13日「平成8年上半期中地域別国際収支状況」を公表した。国際収支地域別分類はかねてより年に2回公表してきているが、今回の公表はIMF国際収支マニュアルが第4版から第5版に改訂されたことを受け、わが国の国際収支統計を全面改訂した後、初めての地域別国際収支となる。

従来との対比で見た新地域別国際収支の特徴点ないし留意点は以下のとおりである。

(1)各国・各地域分類の拡充(具体的には図表1参照)

新地域別国際収支では、各国別分類を大幅に拡充(9か国→30か国)させたほか、地域別分類についても充実を図った(6地域→11地域)。加えて、従来分類されていなかった「ASEAN諸国」という分類についても新たに掲載した。

(2)公表項目の拡充

新地域別国際収支は、その他サービスの内訳を新たに公表したほか、資本収支の内訳項目についても充実をはかった。

(3)証券投資の国別分類方法の見直し

IMF国際収支マニュアルでは、金融取引の地域別分類について、「債権者・債務者原則」(統計作成国の金融債権の増減は非居住者債務者の居住国に、同債務の増減は非居住者債権者の居住国に分類)と、「取引者原則」(金融債権債務の取引相手である非居住者の居住国に分類)の二つの考え方を提示している。大部分の直接投資や、貸付・借入、預金等その他投資は、どちらの計上原則によっても地域分類は同じになるが、証券取引のように権利の移転が頻繁に行なわれるような取引では、計上原則によって地域分類が異なってくる。
わが国では、これまで証券投資の地域別分類について資産・負債とも「取引者原則」により計上していたが、新統計では、資産(非居住者発行証券)は発行者の国籍別に分類し、負債(居住者発行証券)は、債権者を特定することが実務上困難であることから、取引相手の居住国に分類することとした。従って、新統計では、いわば「債務者・取引者原則」により計上することとなっている。

なお、今回公表した計数の詳細は、日本銀行国際局「国際収支統計月報(平成8年11月)」に掲載されている。また、平成8年中の地域別国際収支状況については、同「国際収支統計月報(平成9年4月)」に掲載する予定である。

因みに、今回公表した昨年上期(1~6月)中の地域別国際収支の概要を経常収支、資本収支にわけて概観すれば、以下のとおり(図表2「地域別国際収支」参照)。

1.経常収支

96年上期の経常収支のポイントは、以下のとおり。

  1. (1)対アジアでは所得収支は黒字幅が拡大(95/上期3,235億円→96/上期5,921億円)したものの、サービス収支の赤字幅拡大(95/上期△2,863億円→96/上期△4,110億円)や経常移転収支の赤字幅拡大(95/上期△876億円→96/上期△1,546億円)に加え、輸入増に伴う貿易収支の黒字幅減少(95/上期36,085億円→96/上期30,702億円)がみられたことから、経常収支は黒字幅が大幅に減少(95/上期35,581億円→96/上期30,967億円)した。
  2. (2)対米国では所得収支の黒字が大幅に拡大(95/上期7,313億円→96/上期13,558億円)したものの、輸入の増加に伴い貿易収支の黒字幅が大幅に減少(95/上期25,850億円→96/上期17,835億円)した上、サービス収支も赤字幅が拡大(95/上期△11,503億円→96/上期△12,166億円)したことから、経常収支の黒字幅は大幅に減少(95/上期20,966億円→96/上期17,840億円)。
  3. (3)対西欧では所得収支がほぼ横這い(95/上期3,047億円→96/上期3,031億円)となる中、貿易・サービス収支の赤字転化(95/上期4,775億円→96/上期△993億円)が大きく寄与し、経常収支の黒字幅は大幅に減少(95/上期7,715億円→96/上期1,721億円)。

2.資本収支(△は資金の流出を表す。証券投資については証券貸借取引を除くベース*

96年上期の地域別資本収支のポイントは以下のとおり。

  1. (1)対アジアの資本収支は△5,591億円の流出超となり、前年同期比流出超幅を大きく拡大(95/上期△385億円→96/上期△5,591億円)。これは、対内証券投資(負債)については、香港(9,805億円)を経由した株式投資を中心に大幅流入超に転化(95/上期△1,242億円→96/上期9,546億円)したものの、対外直接投資(95/上期△3,219億円→96/上期△5,351億円)、対外証券投資(資産、95/上期△107億円→96/上期△3,690億円)ともに流出超幅を拡大したことによる。
  2. (2)対米資本収支は△7,367億円の流出超となり、前年同期比流出超幅が大きく縮小(95/上期△16,920億円→96/上期△7,367億円)。これは、対外証券投資(資産)の流出超幅が拡大(95/上期△12,151億円→96/上期△25,576億円)し、対内直接投資(負債)も流出(外国資本の引揚げ、95/上期151億円→96/上期△1,657億円)となった一方で、株式を中心にこれを上回る対内証券投資の大幅な流入(95/上期6,133億円→96/上期23,070億円)がみられたことによるもの。
  3. (3)対西欧の資本収支は28,396億円の流入超となり、前年同期比流入超幅を大きく拡大(95/上期3,783億円→96/上期28,396億円)。これは、直接投資(95/上期△785億円→96/上期△927億円)、その他投資(95/上期△13,085億円→96/上期△20,263億円)が流出超幅を拡大したものの、これを打ち消す形で英国を経由した対内証券投資(特に株式、短期債)の流入が著増(95/上期33,808億円→96/上期60,180億円)したことによるもの。
  • 証券投資、その他投資に含まれる証券貸借取引は、当該証券の所有権が移転したと擬制して計上される(新統計により新規計上)。具体的には、「証券投資」(株式、中長期債)と「その他投資」(貸付、借入)に跨って資産・負債の両側に計上される(例えば、居住者による外貨証券の借入を例にとると、「証券投資」資産の増加<流出>に計上すると同時に、非居住者からの借入の増加として「その他投資」負債<流入>に計上)。従って、原則として投資収支の収支尻に影響しないが、「証券投資」、「その他投資」は同取引を除く実態から大きく乖離することになるため、両項目の動きは証券貸借を除いたベースで説明。

以上