調査・研究

ホーム > 調査・研究 > 日本銀行レポート・調査論文 > 調査論文 2001年 > 全国銀行の平成12年度決算と経営上の課題

全国銀行の平成12年度決算と経営上の課題

2001年 8月
日本銀行考査局

日本銀行から

 「全国銀行の平成12年度決算と経営上の課題」(日本銀行調査月報13年8月号掲載論文)を取り纏めました。全文は、こちら (ron0108a.pdf 304KB) から入手できます。なお、本論文に関する問い合わせは、日本銀行考査局金融課(tel:03-3277-2597)までお願い致します。

要旨

I.全国銀行の12年度決算

(図表)12年度決算の概要

(1) 概観

 全国銀行の12年度決算を概観すると、不良債権処理額がコア業務純益を上回る実勢収益の赤字が継続しており、当期利益は小幅ながら2年振りに赤字となった。この間、経営体力面では、有価証券含み益の減少がみられたほか、自己資本比率も、当期利益の赤字等に伴って低下した。

(2) 損益

 銀行の基本的な収益力に相当するコア業務純益は、役務取引等利益(手数料収入)が増加したほか、経費の削減も続いているものの、ウェイトの大きい国内資金利益が減益となったことから、全体では4.7兆円と、11年度(5.0兆円)を小幅ながら下回った。

 国内資金利益の減益(前年度比▲4.7%)は、貸出ボリュームの減少や有価証券利回りの低下によるものである。この間、役務取引等利益は、為替関連業務、投信販売、シンジケートローン取り纏め等における手数料収入の増加から前年比+5%程度の増加となった。また、経費は、人件費の抑制を中心に、全体では引き続き前年比マイナス(▲1.1%)を維持している。

 一方、不良債権処理額は、景気下振れに伴う企業の業況不振長期化等を背景に、昨年秋時点の予想を大きく上回って11年度と同規模の6.1兆円となり、6年度以降7年連続でコア業務純益を上回った。

(3) 経営体力

 有価証券含み益は株価下落等による株式含み益の減少から大きく減少した(12/3月末10.8兆円から13/3月末2.6兆円に減少)。また、自己資本比率も、当期赤字により剰余金が減少したことや、為替円安等に伴いリスクアセットが増加(国際統一基準行)したことから、11年度に比べ低下した。

 なお、12年度より、地銀・地銀IIを中心に全国銀行の約7割の先が時価会計を早期適用した。

II.銀行経営上の課題

(1) 12年度決算からみた経営課題

 現状、銀行の自己資本比率は一頃に比べ大きく改善しているものの、12年度決算を踏まえると、実勢収益の赤字が続く下で、これを補ってきた株式含み益も減少しており、銀行の経営体力はその分低下している。この間、景気調整局面と低金利環境の長期化で収益の大幅増加は見込み難い状況にある。こうした状況下、銀行にとっては、資産内容の改善や株式保有リスクへの対応、及び高収益体質の早期構築の3点が、当面の大きな経営課題であると考えられる。とりわけ、収益性の高い新たなビジネスモデルの構築は、前二者のバランスシート問題を克服し、競争力のある金融機関として再生するためにも強く求められるところである。

(2) 資産内容の改善

 不良債権残高は、これまでの多額の処理にも拘わらず、新規発生が少なからず続いているため、必ずしも減少していない。銀行が不良債権問題を克服し、資産内容の改善を図るためには、既存の不良債権への対応と並行して、不良債権に転化する可能性のある債権についても、企業の業況や再建可能性の見極めと適切な対応により、その劣化を防止するとともに、健全債権化を図っていくことが重要である。

(3) 株式保有リスクへの対応

 実勢収益の赤字が継続する中で、株式含み益は、これまで大手行を中心に銀行収益の緩衝材として機能してきた。しかしながら、株価下落等からそうした含み益が減少しているほか、13年度から時価会計が全面適用されることを展望すると、価格変動リスクが極めて大きい株式の保有残高を早期に圧縮することは、銀行経営の安定にとって重要な課題である。

(4) 高収益体質の構築

 採算不芳業務の維持・拡大は、中・長期的にはバランスシートの悪化に繋がる可能性が高いため、収益力の向上は、バランスシート問題の解決とも密接不可分の経営課題である。具体策としては、短期的には経費削減の徹底が、また、中期的には適正な貸出利鞘の確保と手数料収入の拡充が挙げられる。

 このうち、貸出利鞘については、90年代入り後、経費及び不良債権処理コスト勘案後でみると採算割れとなっている。信用リスクに見合った適正な貸出利鞘を確保することが課題であり、そのためには、銀行における信用コスト計量手法の精緻化、及び企業の将来性とリスクに対する審査機能の強化、さらにはこれらを前提としてプロジェクト・ファイナンス等の新たな形態での融資の推進が図られることも必要と思われる。また、近年、人件費中心に経費の削減が相応の進展をみており、経営の効率性が高まってきているが、多額の不良債権処理コストを勘案すると、一層の経営効率化が必要である。

(5) 対応の方向感と環境整備

(A) 対応の方向感

 上記の課題は、各行にある程度共通するものであるが、特に、グローバルな金融機関として幅広い国際業務展開を指向する大手行においては、内外市場における信認を高め、競争力の強化を図るためにも、極力早期に高収益体質構築への道筋を確固たるものとしていくことが期待されている。

 銀行が収益性を高めるためには、利鞘の改善や経費削減、不稼働資産の圧縮等様々な選択肢が考えられる。銀行経営を取り巻く厳しい環境を前提にすると、いずれか単独の施策で対応するには限界があり、自らのビジネスモデルと経営戦略を踏まえつつ、採り得る施策を取捨選択しながら総合的に対応していくことが必要である。

(B) 環境整備

 上記の経営課題については、銀行自身が主体的に対応すべきものであるが、いずれの問題もわが国経済全体の構造と密接な関連を有しているため、そうした銀行の対応がより有効性を持つためには、それらと密接な関連を有する分野において、諸施策が整合的に実施される等の環境整備が同時に図られることが期待される。

 例えば、資産内容の改善については、問題の最終的な克服のためには、企業の再生が同時になされる必要がある。

 株式保有リスクへの対応については、相手先企業の理解と売却株の最終的な受皿としての個人株主等の育成が必要である。

 また、市場メカニズムと市場規律が発揮される金融システムの下で、銀行が金融仲介機能を通じて適正な収益を挙げていく姿を展望するためには、公的金融のプレゼンスと業務のあり方の見直しが不可欠であろう。

 以上の観点は、政府の「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」にも既に盛り込まれており、今後、速やかに具体化されていくことが期待される。

以上