調査・研究

ホーム > 調査・研究 > 日本銀行レポート・調査論文 > 調査論文 2003年 > GDPギャップと潜在成長率――物価変動圧力を評価する指標としての有用性と論点――

GDPギャップと潜在成長率

物価変動圧力を評価する指標としての有用性と論点

2003年 1月30日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (ron0301a.pdf 279KB) から入手できます。

要旨

  1. 物価の変動には様々な要因が働いているが、基本的には、経済全体の供給力に対して実際にどれだけの総需要が存在するかが、重要な決定要因であると考えることができる。この「経済全体の供給力」と「総需要」の乖離のことを、一般にGDPギャップ(output gap)と呼んでおり、物価変動圧力を評価するための基本的な指標の一つとして、国際機関や海外中央銀行などの経済情勢分析でもよく用いられている。日本銀行が半年に1度公表している「経済・物価の将来展望とリスク評価」でも、物価の先行きに関する記述の背景には、GDPギャップの考え方がある。GDPギャップは、需給ギャップとも呼ばれる。
  2. GDPギャップの算出に必要な「経済全体の供給力」と「総需要」のうち、「総需要」は実際のGDPそのものとみなすことができる。一方、ここでいう「経済全体の供給力」とは、その時々に現存する経済構造を前提にした供給力であり、一般に潜在GDPと呼ばれている。問題は、この潜在GDPを具体的にどう定義し、どう推計するかである。日本銀行調査統計局では、潜在GDPを「現存する経済構造のもとで資本や労働が最大限に利用された場合に達成できると考えられる経済活動水準」と定義し、その推計には「生産関数アプローチ」と呼ばれる方法を用いている。この方法は、GDPが、(1)資本ストックの利用量、(2)労働の投入量、(3)それらの利用効率である全要素生産性、の3変数で決定されるというマクロ生産関数の考え方に基づくものである。なお、潜在GDPの変化率(年率)は潜在成長率と呼ばれている。
  3. 実際に日本の潜在成長率を推計すると、80年代は4%前後であったが、バブル崩壊後は低下傾向が続き、最近は1%程度まで低下している。しかし、その間における実際のGDP成長率は、そうした潜在成長率をさらに下回る傾向が続いた。実際のGDP成長率が潜在成長率を下回ればGDPギャップは拡大する、という関係にあるので、バブル崩壊以降のGDPギャップの推移をみると、循環変動を伴いつつも傾向的に拡大を続け、今日では非常に大きなものとなっている。
  4. こうして得られたGDPギャップを、例えば過去20年程度の期間をとってインフレ率と単純に比べてみると、GDPギャップの拡大とインフレ率の低下の間に、かなり緩やかにではあるが一定の対応関係が観察される。こうした関係からみれば、90年代初め頃をピークにインフレ率が次第に低下し、近年では小幅ながらマイナスとなっているのは、基本的にはその間におけるGDPギャップの拡大傾向を反映したものと考えることができる。ただし、これはあくまでも過去20年程度の期間でみた場合の大まかな関係であって、例えば70年代の高インフレ期を含めるとそうした関係が崩れることなどからみても、今後も長期的に安定的な関係であり続ける保証はない。また、逆に1〜2年程度の短期でみると、インフレ率はしばしばGDPギャップでは説明がつかない動きを示す。その理由としては、(1)物価にはGDPギャップ以外にも為替相場や輸入品との競合など様々な要因が影響すること、(2)GDPギャップの推計値自体にかなりの誤差がありうること、などが挙げられる。
  5. GDPギャップには様々な推計方法があるが、日本銀行調査統計局が主に利用しているGDPギャップには、(1)生産関数の各要素を単純に積み上げた推計であるため、GDPギャップの先行きを想定する場合にその根拠を示しやすいこと、(2)既述の通りインフレ率との間に緩やかながら経験的な関係が認められること、といった実用的な長所がある。反面、このGDPギャップには、(1)様々なデータの過去のトレンドや最大値に依存した推計であるため、経済構造の変化を反映するのが遅れがちになること、(2)潜在GDPの定義が国際機関等と異なるため、GDPギャップ水準の読み方には注意が必要であること、(3)インフレ率との関係が必ずしも経済理論どおりではないこと、といった短所もある。
  6. このため、日本銀行調査統計局では、他のアプローチを用いたGDPギャップも補完的に推計している。代表的なものとしては、(1)実際のGDPに滑らかな曲線トレンドを当てはめる「HPフィルター・アプローチ」、(2)国際標準とも言える考え方を取り入れてインフレ率を上昇も下落もさせないGDPを潜在GDPと定義し直した「可変NAIRUアプローチ」がある。そのほか、(3)短観DIを用いたGDPギャップ類似の指標も作成している。既述の通り、現行GDPギャップは経済構造の変化を反映するのが遅れがちになると考えられるため、今後、構造改革等により経済構造の変化が加速していくような場合、様々なGDPギャップないし類似指標を併せてみていくことの重要性が、増していく可能性がある。
  7. 物価の安定を目的とする金融政策の遂行には、先行きの物価情勢に関する的確な判断とそれに関する説明が求められ、GDPギャップはそのための有益な指標の一つである。しかし同時に、GDPギャップだけでインフレ率の変動を説明できない局面が少なくないことも事実である。このため、先行きの物価予測においては、GDPギャップの先行き見通しを基本としつつも、その有用性と限界をバランスよく認識し、幅広い需給関連指標の点検や他の物価変動要因の分析も踏まえた判断が必要とされる。また、経済構造の変化が加速していく場合にこれまでの推計方法によるGDPギャップの有用性が低下しないかどうかも含め、この分野での研究を不断に深めていくことが望ましいと考えられる。