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上場企業のキャッシュフロー動向と支出行動 —慎重な中にみられる積極化へ向けた動き—

2005年12月21日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら(ron0512a.pdf 257KB)から入手できます。

要旨

  1.  持続的な企業収益の改善を背景に、企業のキャッシュフローは高水準を維持している。2004年度におけるキャッシュフロー動向の特徴としては、(1)利益収入が増加を続けた一方で、運転資金等の支出も増加に転じたことから、営業キャッシュフローは横ばい圏内となったこと、(2)そうした中で、設備投資の増加等から投資キャッシュフローは明確に上向いたため、営業キャッシュフローとの差は縮小したこと、(3)有利子負債の削減は続いたが、そのペースは鈍化したこと、(4)2003年度のような、余剰資金の新たな積み上がりはみられなかったこと、を挙げることができる。
  2.  これを大まかな業種別にみると、製造業・素材業種では、投資キャッシュフローは増加したものの、営業キャッシュフローも順調に伸びたため、両者の差はほとんど縮まらず、有利子負債の大幅な削減が続いた。一方、製造業・加工業種では、投資キャッシュフローの増加幅が大きかったため、営業キャッシュフローとの差が目立って縮小し、有利子負債の削減ペースも明確に鈍化した。この間、非製造業は、有利子負債の削減ペースは幾分鈍化したものの、営業・投資キャッシュフローともに目立った変化はみられなかった。
  3.  潤沢なキャッシュフローを背景に、企業は、守りから攻めへと経営の舵を切り始めている。中期経営計画をみると、有利子負債の削減については、経営上の優先度が後退している。また、経営資源を投下する事業の「選択と集中」を実行したうえで、減価償却費を超えた設備投資を行う企業が、はっきりと増えてきている。そうした中で、海外事業展開やM&Aも加速している。
  4.  一方で、企業の行動には、様々な面で慎重さも色濃く残っている。有利子負債の削減は、全体として完了するには至っていないほか、削減を終えた企業でも、負債の積み上げに動く先は限定されている。株主への利益還元は進行しつつあるが、今のところ、それほど広範囲の動きにはなっていない。土地投資は増加しているが、ノンアセット志向も根強い。2004年度は、設備投資の積極化と有利子負債削減の両方を進める企業の割合が、全体の中で最も多かった。これは、現在の企業行動における、慎重性と積極性の並存を象徴している。
  • ※1本稿は、主に、景気動向担当(ミクロ調査班)の以下のスタッフが作成した。執筆者:繁本知宏。主たる分析:繁本知宏、山田哲也、島田康隆、阪田雅行(現金融機構局)、塚本孝道、平澤徹、中原伸、上山聡子、松島広志。アシスタント:湯山頼子(慶應義塾大学、短期リサーチスタッフ<当時>)。とりまとめ:亀田制作。