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サブプライム問題に端を発した短期金融市場の動揺と中央銀行の対応

2008年7月
日本銀行金融市場局

はじめに

 中央銀行の金融市場調節(以下「金融調節」)手段は、各国の調節目標、金融市場の状況、歴史的な経緯などによって詳細が異なるが、大括りに整理すると、準備預金の積立制度、オペレーション(公開市場操作。以下「オペ」)、スタンディング・ファシリティ(「常設ファシリティ」とも呼ばれる)、の3つから構成されている。まず、準備預金の積立制度のもと、金融機関は、一定の期間に一定の残高を中央銀行に準備預金として積み立てる必要がある。金融機関の決済資金需要は日々変動するが、この仕組みによって、比較的安定した準備需要が創出される。そのうえで、中央銀行は、オペを通じて準備需要に対するマクロ的な資金過不足(財政および銀行券要因による中央銀行当座預金の変動)の調整を行い、政策金利と整合的な水準に市場金利(一般には翌日物金利)を誘導する。スタンディング・ファシリティは、金融機関からの申込みに応じて、予め定めた金利で短期の資金貸出や預金受入を受動的に行うものである。これにより、金利変動の大きい時にはその上限や下限を画し、また、そうしたファシリティが普段から利用可能であることを市場参加者に認識させることを通じて、オペによる金利誘導を補う役割を担っている。

 オペの基本的な枠組みや運営も、各国中央銀行に概ね共通している。しかし、銀行券需要の動向や財政資金を管理する仕組みの違いなどを反映して、前提となるマクロ的な資金過不足の大きさ・変動幅や予測可能性が国により異なることなどから、オペ運営は国・地域によって区々である。例えば、資金過不足の変動が平均的に大きいわが国の場合、日本銀行は、多様なオペ手段を有しており、各オペを様々なタイミング、期間で頻繁に実施しているが、資金過不足の変動があまり大きくない米欧では、中央銀行は規則的なオペ運営を基本としてきた。

 こうしたオペを始めとする金融調節運営は、サブプライム問題の影響を受けて短期金融市場が動揺した2007年8月以降、一層の工夫を求められることとなった。特に米欧の中央銀行は、従来の運営の枠組みの中で、より機動的かつ柔軟な金融調節運営を行うことに加えて、新たな金融調節手段を導入することによって資金供給力の強化を図り、市場の安定に努めた。また、2007年12月と2008年3月には、米国FRB(連邦準備制度理事会)を中心とする米欧の中央銀行5行が金融調節面で協調行動をとるという、かつてない対応も講じられた。さらに、2008年5月には、米・欧・スイスの中央銀行3行が追加の協調行動をとった。

 本稿では、2007年8月以降、米国FRB、ユーロ圏ECB(欧州中央銀行)、英国BOE(イングランド銀行)がとった金融調節面での対応や運営上の工夫について解説する。

 また、こうした海外中央銀行の対応と比較しつつ、この間の日本銀行の対応についても簡単に言及していくこととする。

日本銀行から

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