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リーマン・ブラザーズ証券の破綻がわが国決済システムにもたらした教訓

証券取引、上場デリバティブ取引の決済に関して

2009年3月11日
日本銀行決済機構局

はじめに

 昨年9月に生じたリーマン・ブラザーズ証券(日本法人、以下「リーマン証券」という。)の破綻は、三洋証券の破綻(97年)以来、わが国金融資本市場が約10年ぶりに経験する「全債務が保護されない主要金融機関の破綻」であった。リーマン証券は、国債、株式、上場デリバティブの各市場で相応のプレゼンスを有していたことから、わが国決済システムの安定性といった側面からみた場合、その破綻によって、近年、整備の進められてきた決済リスク削減策の実効性が検証され、また、今後の課題が浮き彫りにされたといえる。

 本稿は、証券取引と上場デリバティブ取引を対象に、リーマン証券の破綻後における決済面での対応を整理し、そこから導かれる今後の課題を取りまとめたものである。以下では、まず、同社の破綻後における各市場の決済動向と清算機関をはじめとする決済の担い手の対応をレビューする。次いで、レビューを通じて浮かび上がってきた決済システム面でのインプリケーションを整理する。ポイントは次のとおりである。

  1. わが国においては、リーマン証券の破綻後、直ちに、同社を当事者とする証券取引と上場デリバティブ取引の決済について、不履行または履行遅延が生じた。
  2. これを受けて、リーマン証券の決済相手方であった清算機関や一部の市場参加者(相対決済の相手方)では、業務方法書や契約の定め等に基づいて、同社に対するポジションを解消した。併せて、これらの先では、同社から支払を受けられなくなった資金を迅速に手当てしたほか、同社から引渡を受けられなくなった証券についても、9月末までに調達を概ね完了した。
  3. この結果、金融システム全体では、資金決済のデフォルトが連鎖的に発生する事態は生じなかった。他方、証券の受渡に関しては、リーマン証券による証券の引渡不履行に起因してフェイルが連鎖的に発生したものの、こうしたフェイルは9月末には概ね解消された。
  4. 上記の処理過程で発生した損失についてみると、まず、証券取引の決済では、DVP決済が広く普及してきたことを背景に、元本取りはぐれリスクが広範に顕現する事態は回避された。また、上場デリバティブ取引の決済では、先物建玉ポジションの値洗いが日々行われる仕組みとなっている。この結果、発生した主な損失の範囲は、破綻後におけるポジション解消や再構築の過程で生じた価格変動見合い分に限定され、全体としてみれば、こうした損失負担が金融システムの安定性を損なう事態は生じていない。また、損失を被った全ての清算機関では、リーマン証券から予め差入れられていた担保で損失を全額カバーでき、他の清算参加者に負担を波及させることはなかった。
  5. 以上のように、リーマン証券の破綻直後に生じた決済プロセスの混乱が長期に亘ることはなく、また、同社の決済不履行に伴う損失が金融システム全体に広く波及することもなかった。その背景としては、近年、わが国において整備されてきた決済リスク削減策(清算機関の設立、DVPスキームの導入等)がその機能を発揮したことが指摘できる。
  6. 一方で、今回の破綻を通じて、より強固な決済システムを構築する観点からは、以下の課題が確認された。
    1. (1) 清算機関におけるCCP(Central Counterparty)機能の向上
      • ・フェイル解消対応の更なる迅速化
      • ・資金調達対応の安定性向上
      • ・所要担保額計算に関するモデルの精緻化
    2. (2) 清算機関のカバレッジ拡充
      • ・参加者、対象取引の拡大
    3. (3) その他市場全体として取り組むべき課題
      • ・国債決済サイクルの短縮(T+1化)
  7. 今後、市場関係者の間でこれらの課題を共有し、その重要性やフィージビリティに応じて順次改善に取り組んでいくことが期待される。日本銀行としても、こうした取り組みを積極的に支援していく考えである。

本件に関する照会先

日本銀行決済機構局

中山 電話:03-3277-2644

日本銀行から

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