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正社員の企業間移動と賃金カーブに関する事実と考察

日本的雇用慣行は崩れたか?

2010年10月29日
日本銀行調査統計局

要旨

本稿では、正社員の企業間移動、およびその背後にある右上がりの賃金カーブを含めた日本的雇用慣行・雇用システムについて、現状・歴史的経緯の把握とその背景分析を行った。

まず、ファクト・ファインディングの結果、日本の正社員における長期雇用や右上がりの賃金カーブといった特徴については、近年その傾向が幾分弱まってはいるものの、諸外国と比べれば依然として顕著であることが確認された。その意味で、日本的雇用慣行は大枠として今も存続していると言える。

日本の正社員に特徴的である右上がりの賃金カーブは、年功賃金や企業特殊的な人的資本形成によって、一定の条件の下で、理論面からもその合理性を説明できる。こうした右上がりの賃金カーブ、長期雇用、企業特殊的な人的資本形成は、相互に関連、依存し合って成立していると考えられる。

こうした、特に大企業で顕著に見られる日本的雇用慣行は、とりわけ高度成長期の環境に適していたため発展、定着したものであるが、近年の低成長局面では、その経済的メリットが小さくなってきていると考えられる。にもかかわらず、正社員の雇用システム全体に根本的な変化が生まれていない要因としては、主に以下のものを挙げることができる。

(1)日本の解雇法制(現実の雇用慣行が制度として固定化したもの)における解雇ルールの不透明性が労働者の企業間移動を阻害している問題。

(2)過去に蓄積された企業特殊的な人的資本ストック(少なくとも一部は陳腐化している可能性)が、企業のビジネススタイル転換を妨げている可能性。

(3)(2)にも関連するが、長期にわたって右上がりの賃金カーブを労働者のインセンティブ付けに利用してきたため、それに頼らない経営管理を行うノウハウ(新たな環境に対応する経営資本)が不足していること。

(4)企業部門の新陳代謝、とりわけ、付加価値の高い財・サービスを供給する新規企業の参入が活発でないため、賃金カーブのフラット化が多少進む程度では労働者にとって転職する大きな誘因が発生しないこと。

日本銀行から

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