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東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第5回共催コンファレンス

:「グローバル化と日本経済の対応力」の模様※1

2014年2月28日
日本銀行調査統計局

要約

東京大学金融教育研究センター(CARF)と日本銀行調査統計局は、2013年11月28日、日本銀行本店にて、「グローバル化と日本経済の対応力」と題するコンファレンスを共同開催した。本稿はその模様を取りまとめたものである(プログラム参照)。

コンファレンスは、日本経済を巡る諸問題について、学界および日本銀行、さらには実務家を含め幅広く討議を行うことを目的として、2005年より隔年で実施されている。過去のコンファレンスでは、資産バブル崩壊後のわが国経済の長期低迷の背景とその帰結、経済全体の生産性を中長期的に引き上げるための課題、1990年代以降の物価の弱さの背景について議論した。第5回である今回は、経済のグローバル化が進むなかでの日本企業や労働市場の課題などについて、多面的に議論を行った。

コンファレンスでは計5本の論文が報告され、それぞれ活発な議論や質疑応答が行われたほか、全体の総括討議も行われた。以下はその要旨である。

(1) グローバル化の進展とその影響

1990年代以降のグローバル化は、輸送コスト低下などを背景とする海外生産拠点の設置という単純な形態のものから、企業が世界各地で多数の生産・販売工程を複雑に絡み合わせたネットワーク — グローバル・バリュー・チェーン(GVC) — の構築へと変化していることが大きな特徴であると指摘された。

こうした中で、これまで日本企業が得意としてきた付加価値の高い製品・部品分野についても、近年、新興国の目覚ましいキャッチアップにより、日本企業における国際競争上の優位性が低下している可能性が示された。たとえば、熟練労働者を使った製品・部品を輸出し、非熟練労働者を使った製品を輸入するという日本の貿易構造が1990年代半ばをピークに弱まり始めているとの指摘がみられた。

日本の貿易構造の変化は、国内の労働市場の構造変化とも密接に関わっているとの意見が多かった。グローバル化と同時に観察された製造業の正規雇用抑制と非製造業の非正規雇用拡大は、不況下における厳しいリストラ圧力や雇用形態の多様化による面が大きく、それ自体が問題とは言い切れないとの見方も示された。もっとも、結果的には、日本全体で労働者、とくに若年層のスキル形成や人材育成の機会の喪失につながった可能性があるとの指摘も多数みられた。一方、賃金面では、熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差が拡大したか否かについて議論が行われ、労働者のスキルをいかに測定するかという点が重要な論点として認識された。

(2)グローバル化へ対応するうえでの課題

日本企業がグローバル化へ適切に対応するためには、企業経営やガバナンスのあり方を見直す必要があるとの指摘が多くみられた。具体的には、(1)日本企業が得意とする生産管理(モノづくりの方法)に加えて、経営戦略(何を作り・売るか)を重視する必要があること、(2)資本市場をはじめ外部からの監視の強化など、経営への規律付けの方法を工夫すること、(3)企業買収や事業再生に関する市場を整備し、産業の新陳代謝を図る必要があること、などが指摘された。これに関連して、企業の国際競争力を高めるためには、労働市場や企業再建などの面で、価格メカニズムをより働かせることも重要との指摘がみられた。サービス業については、地域間による生産性・収益性の格差が大きいため、規制改革や事業統合の活用を進めていく余地は大きいとの意見もあった。

また、高度なスキルを持った人材の育成が立ち遅れている点を改善するべきとの意見も相次ぎ、アジアの優秀な人材との格差が拡大することに懸念を示す向きもあった。雇用のマッチング、職業訓練だけでなく、教育制度を含めて、グローバル人材の育成をも念頭に置いた、多面的な見直しが必要との意見がみられた。

未来に向けた明るい兆しも指摘された。日本の企業の中には、売上も収益性も高い企業が幾つもあり、マインドセットの変化や規制緩和による価格メカニズムの徹底によって、成長できる余地は大きいとの見方があった。また、大学ベンチャーの成功など、一部には優秀な人材が育ちつつあるとの指摘もあった。さらに、IT革命も非連続型のイノベーションが生じる時期は過ぎ、今後は連続イノベーションという日本企業が得意な局面に再び差し掛かっていくとの見方も披露され、選択と集中さえ行っていけば、日本企業のモノづくりに対する優位性は維持されるという声もあった。

  • ※1本稿で示されたコンファレンス内での報告・発言内容は発言者個人に属しており、必ずしも日本銀行、あるいは調査統計局の見解を示すものではない。

日本銀行から

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照会先

調査統計局経済調査課経済分析グループ

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