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わが国の国債先物の日中市場流動性土田直司、吉羽要直(日本銀行)、渡部敏明(一橋大学)

Research LAB No.16-J-8, 2016年10月28日

キーワード:
日本国債、市場流動性、流動性指標、日中取引データ

JEL分類番号:
C32、G12、G14

Contact
toshinao.yoshiba@boj.or.jp(吉羽要直)

要旨

本稿では、日中取引データを用いて日本国債先物市場の流動性を分析したTsuchida, Watanabe, and Yoshiba (2016) [PDF 1,103KB]の概要を紹介する。まず、市場流動性を(1)値幅の狭さ、(2)市場の厚み、(3)市場の弾力性、(4)取引数量といった複数の評価軸で捉え、経済指標や金融政策の公表が市場流動性を概ね引き下げることを示す。次に、市場流動性指標のショックに対する持続性は、量的・質的金融緩和が導入された2013年4月頃に一時的に高まり、その後低下したものの、値幅の狭さや市場の厚みなどでは2013年以前の水準までは戻り切っていないことを示す。

はじめに

国債市場の市場流動性は、中央銀行の市場モニタリングにおける重要な指標の1つであり、日本銀行でも長年にわたり分析されてきた。最近では、土川・西崎・八木(2013)や黒崎ほか(2015)が日本銀行による量的・質的金融緩和の導入以降のデータも用いて国債の市場流動性を分析している。こうした中、U.S. Department of the Treasury et al. (2015) は、2014年10月15日の約15分間に米国債価格が乱高下した現象について日中流動性の変化を詳細に分析している。Bank for International Settlements (2016) でも、先進各国の国債市場で値幅や厚みといった流動性指標が頻繁に急変動していることが報告されている。

Tsuchida, Watanabe, and Yoshiba (2016)(以下、TWY)では、長期国債先物中心限月のうち日中のザラバ取引(前場:8:45~11:00、後場:12:30~15:00)について日経NEEDSのデータベースを利用して分析を行っている。まず、2005年1月初~15年5月末の価格と実現ボラティリティについて、日次データをプロットすると、図1のようになる。ここで実現ボラティリティは前場と後場の5分ごとのリターンの2乗を合計して計算している。

図1. 国債先物価格と実現ボラティリティの推移(日次、2005年1月初~15年5月末)

  • 図1. 国債先物価格と実現ボラティリティの推移(日次、2005年1月初~15年5月末)

市場流動性が高い状況をどのように捉えるかは立場によってさまざまである。市場流動性に関する古典的な研究であるKyle (1985) などでは、(1)売値と買値の値幅の狭さ(tightness)、(2)市場の厚み(depth)、(3)市場の弾力性(resiliency)、(4)取引数量(volume)といった複数の評価軸を挙げている。土川・西崎・八木(2013)や黒崎ほか(2015)では、これらの4つの評価軸で市場流動性を計測している。TWYでもこうした評価軸に沿って、新たな指標も加えて日本国債先物市場の日中取引データを分析している。

市場流動性指標とその推移

市場流動性の第1の評価軸である値幅の狭さについては、買い手が提示している最良価格(ベスト・ビッド)と売り手が提示している最良価格(ベスト・アスク)の乖離幅として定義されるビッド・アスク・スプレッドのほか、実際の取引価格の仲値(ベスト・ビッドとベスト・アスクの平均値)からの絶対乖離率で定義される実効コストを計測する。第2の評価軸である市場の厚みについては、ベスト・アスクでの注文枚数である最良売気配枚数、ベスト・ビッドでの注文枚数である最良買気配枚数のほか、最良売気配枚数が10枚以下と注文が少なくなった期間(秒数)を低注文秒数として計測する。第3の評価軸である市場の弾力性については、絶対リターンを取引高で除したILLIQ指数とビッド・アスク・スプレッドを注文枚数で除した流動性指数を計測する。ILLIQ指数は Amihud (2002) で提案された非流動性(illiquidity)を表す指標であり、流動性指数は Bollen and Whaley (1998) で提案された指標である。第4の評価軸である取引数量については、取引高、取引回数、1回当りの取引枚数を計測する。

4つの評価軸での計10指標については、日中データとしては5分ごとに計測し、日次データに集約する際にはそれらを平均(取引高・取引回数については合計)する。図2はこれらの指標の日次データ(10営業日後方移動平均)について2005年1月初から2015年5月末までの推移を各評価軸でプロットしたものである。参考として、市場の弾力性については日中の最高値と最安値の幅を当該日の取引高で除した値幅出来高比率もプロットしている。これらをみると、市場流動性を測る指標は4つの評価軸ごとに概ね似た変動になっていることがわかる。

図2. 市場流動性指標と実現ボラティリティの推移(2005年1月初~15年5月末)

  • 図2. 市場流動性指標と実現ボラティリティの推移(2005年1月初~15年5月末)

経済指標・金融政策の公表やサプライズが市場流動性に与える影響

実現ボラティリティについて日中の動きを観察すると、朝の取引開始時間帯と夕方の取引終了時間帯の水準が高く、日中の自己相関が高いという特徴がある。Neely (2011) は、日中の1時間当たりの絶対リターンについてこうした特徴を捉えたうえで、経済指標の公表やサプライズが絶対リターンに及ぼす影響を考察している。具体的には、日中パターンや日中自己相関などについての説明変数を想定したうえで、経済指標については公表された時刻に1となるダミー変数を考え、サプライズについては公表値の事前予想値からのずれとして定義して、回帰分析を行っている。

TWYでは、前節で示した10の市場流動性指標について、現行の取引時間となった2011年11月21日から2015年5月29日までの5分刻みのデータを用いて、Neely (2011) と同様の分析を行っている。ただし、TWYでは経済指標の公表とサプライズだけでなく、金融政策公表の影響についても分析している。図3は、経済指標と金融政策の公表に関する影響を分析した結果である。経済指標のサプライズについてはGDP成長率を例に取り上げて示している。経済指標については、その公表は市場流動性を引き下げる傾向があり、そのサプライズは市場流動性の評価軸のうち(1)値幅の狭さ、(2)市場の厚み、(3)市場の弾力性に関しては流動性を引き下げるものの、(4)取引数量では流動性を引き上げることがわかる。金融政策の公表については、経済指標のサプライズと同様に、(1)から(3)までの評価軸については市場流動性を引き下げるものの、取引数量の評価軸では市場流動性を引き上げている。

事前予想からの乖離で定義されるサプライズは投資環境に関する新しい情報となり、これを受けたポートフォリオ・リバランスなどにより、取引が活発になるため、取引数量が上昇すると考えられる。金融政策の場合、政策手段が多様化していることなどに伴いサプライズを定量化することが難しいため、この分析では政策の公表とサプライズを分離していない。したがって、金融政策の公表が市場流動性に対して経済指標のサプライズと同様の効果を与えたものと考えられる。

図3. 経済指標・金融政策の公表、経済指標のサプライズが流動性指標に与える影響

  • 図3. 経済指標・金融政策の公表、経済指標のサプライズが流動性指標に与える影響

市場流動性におけるショックの持続性の構造変化

前節で考察したように、市場流動性指標の日中の動きは実現ボラティリティと同様に、自己相関を伴って変動している。この自己相関のパターンによってはショックが持続することもありうる。そこで、TWYでは市場流動性指標の日中自己相関係数がある時点で不連続に変化(構造変化)することを想定し、ショックの持続性について半減期を用いて分析を行っている。

具体的には、構造変化は毎月初に生じうると想定し、Bai and Perron (2003) の手法を用いて、回帰式の残差平方和を最小化するような構造変化点を検出し、ベイズ情報量規準で変化点の数を選択した。図4はこの結果である。取引数量については、ショックの持続性に大きな変化は観察されていない。(1)値幅の狭さ、(2)市場の厚みについては、2013年4月前後にショックの持続性が一時的に高まり、その後は低下しているものの、2013年以前の水準までは戻っていないことがわかる。2013年4月に実施された日本銀行による量的・質的緩和の導入により、国債先物市場は一時的にショックへの対応が鈍化したと考えられる。他方、値幅や市場の厚みでショックの持続性が完全には元の水準には戻っていないことは、市場参加者の変化や規制の導入といったより全般的な市場環境の変化を反映しているものと考えられる。

図4. 市場流動性指標におけるショックの半減期の構造変化

  • 図4. 市場流動性指標におけるショックの半減期の構造変化

おわりに

本稿では、国債先物市場のさまざまな流動性指標の推移を4つの評価軸で示したうえで、日中パターンを考慮した回帰分析により、金融政策決定会合や経済指標の公表が市場流動性を概ね低下させることを示した。また、市場流動性におけるショックの持続性については、2013年4月前後に一時的に高まったことを示したことに加え、値幅の狭さ、市場の厚みについてはショックの持続性は2013年以前の水準までは戻り切っていないことを示した。こうした結果は、国債先物市場の日中流動性の特性や構造変化の把握に知見を与えるものと思われる。一方で、ショックの持続性に関する構造変化をもたらす要因の分析などについては、今後研究が進んでいくことが期待される。

参考文献

  • 黒崎哲夫・熊野雄介・岡部恒多・長野哲平(2015)「国債市場の流動性:取引データによる検証」 [PDF 3,060KB]、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No. 15-J-2
  • 土川 顕・西崎 健司・八木 智之(2013)「国債市場の流動性に関連する諸指標」 [PDF 567KB]、日銀レビュー No. 13-J-6
  • Amihud, Yakov (2002) "Illiquidity and Stock Returns: Cross-section and Time-series Effects," Journal of Financial Markets, 5(1), pp. 31-56.
  • Bank for International Settlements (2016) "Fixed income market liquidity," CGFS Papers No. 55.
  • Bai, Jushan and Pierre Perron (2003) "Computation and Analysis of Multiple Structural Change Models," Journal of Applied Econometrics, 18(1), pp. 1-22.
  • Bollen, Nicolas P. B., and Robert E. Whaley (1998) "Are ‘Teenies' Better?" Journal of Portfolio Management, 25(1), pp. 10-24.
  • Kyle, Albert S. (1985) "Continuous auctions and insider trading," Econometrica, 53(6), pp. 1315-1335.
  • Neely, Christopher J. (2011) "A Survey of Announcement Effects on Foreign Exchange Volatility and Jumps," Review, Federal Reserve Bank of St. Louis, 93(5), pp. 361-385.
  • Tsuchida, Naoshi, Toshiaki Watanabe, and Toshinao Yoshiba (2016) "The Intraday Market Liquidity of Japanese Government Bond Futures," [PDF 1,103KB] IMES Discussion Paper Series, No. 2016-E-7, Bank of Japan.

日本銀行から

本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではありません。