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P2Pレンディングの仕組みと投資家保護の在り方:英米日の法律構成の比較を踏まえて 左光敦(日本銀行)

Research LAB No.17-J-2, 2017年9月28日

キーワード:
P2Pレンディング、金融仲介、銀行、システミック・リスク、投資家保護、FinTech

JEL分類番号:
K22

Contact
atsushi.samitsu@boj.or.jp(左光敦)

要旨

P2Pレンディングとは、銀行等の金融機関を介さず、貸手が借手に、比較的小規模の、個人・中小企業向け融資をインターネット経由で行う、新しい金融仲介の仕組みである。P2Pレンディングは、2005年に英国業者がサービスを提供して以来、英・米・中において、急速に融資残高が増加している。本稿では、P2Pレンディングの仕組みとその特徴を、銀行による融資と対比しつつ明らかにする。そのうえで、P2Pレンディングは、法律構成が国毎に異なっており、投資家保護の在り方が異なる点についても考察する。左光(2017)[PDF 1,013KB]は、わが国では、P2Pレンディング業者が倒産する場合、投資家がその信用リスクを負う形となっている点を指摘し、投資家保護を強化するため、特定目的会社や特定目的信託といったスキームの活用を提案している。

はじめに

近年、FinTechと呼ばれるITを活用した新しい金融サービス事業が注目されている。P2PレンディングはFinTechの一種であり、2005年に英国のP2Pレンディング業者がサービスの提供を開始して以来、英・米・中において、急速に融資残高が増加している。

P2Pレンディングが拡大している背景として、以下の2点を指摘できる。まず、物理的な店舗やそれに携わる従業員が殆ど必要ないため、物件費や人件費といった運営費用が小さい。また、2007年夏以降の世界的な金融危機の反省から、銀行に対する規制・監督が強化された一方、後述するように、P2Pレンディング業者には、そうした規制が適用されないため、規制対応にかかる負担が小さいことが挙げられる。

ただし、P2Pレンディングには、銀行の融資とは異なるリスクがあり、そのリスクを適切に把握するためには、サービスの仕組みや法律構成を慎重に分析する必要がある。特に、法律構成によっては、P2Pレンディング業者の倒産時に投資家保護が十分に行われないおそれがあることに留意が必要である。P2Pレンディングの市場が拡大・発展していくためには、そうしたリスクを軽減するためのスキームを整備する必要があると考えられる。

本稿では、まず、銀行による伝統的な融資と対比しつつ、P2Pレンディングの仕組みとその特徴を整理する。次に、P2Pレンディングの法律構成には、国毎に違いがあることを示す。最後に、そうした法律構成の違いを踏まえたうえで、P2Pレンディング業者が倒産した時の投資家保護の問題について検討を加える。

銀行融資と対比したP2Pレンディングの仕組みとその特徴

銀行は、顧客から預金を受け入れ、融資先に中・長期の融資をすることで、満期変換を伴った金融仲介を行っている。これに対し、P2Pレンディングは、「銀行のような伝統的な金融仲介機関を介さず、インターネット経由で、貸手から借手に直接、融資すること」を指す(Atz and Bholat, 2016)。つまり、P2Pレンディング業者は、余剰資金を抱えた顧客と資金不足の状態にある顧客を、インターネットを経由して、マッチングすることを主たる業務としている(図表1)。

(図表1)銀行の金融仲介とP2Pレンディング

  • 銀行の金融仲介の仕組みを示す概念図。詳細は本文のとおり。
  • P2Pレンディングの仕組みを示す概念図。詳細は本文のとおり。

銀行による金融仲介とP2Pレンディングを比較すると、大略、以下のように整理できる(図表2)。まず、銀行は、融資の実行前に借手の信用情報を収集・審査し、融資の実行後は借手のモニタリングを行う。これと同様、P2Pレンディングでも、P2Pレンディング業者が、融資実行前の審査や融資実行後のモニタリングを行う。

しかし、両者は次の点で大きく異なる。銀行融資の場合、銀行が融資の意思決定を行い、借手のデフォルトリスクを負うのに対し、P2Pレンディングでは、貸手が融資の意思決定を行い、借手のデフォルトリスクを負う。これは、P2Pレンディング業者が、銀行と同じような形でバランスシートを使用して業務を行っていないことが理由である。したがって、P2Pレンディング業者は、銀行に課されているバランスシート規制の対象から外れた存在となっている。

(図表2)銀行と比較した場合のP2Pレンディング業者の特徴

(図表2)銀行と比較した場合のP2Pレンディング業者の特徴
P2Pレンディング 銀行
融資の審査 P2Pレンディング業者 銀行
融資の意思決定 貸手 銀行
融資実行後のモニタリング P2Pレンディング業者 銀行
借手のデフォルトリスクを負う主体 貸手 銀行

社会厚生的観点から見たP2Pレンディング

P2Pレンディングは、それが首尾よく機能する限りにおいて、既存の金融仲介機関が多大なコストをかけて展開してきた業務をより低コストで実行することができる。このため、そこから発生した社会的余剰を資金の拠出者と受領者との間で分配することで、社会厚生の改善につながる可能性を持っている。

たとえば、P2Pレンディングは、借手にとっては、借入金利が従来の資金調達手段と比較して低いほか、審査が迅速に行われるため融資の申込から実行までの期間が短いという利点がある。また、貸手にとっても、低金利環境のもとで収益源に乏しい中、預金金利を上回る高い利回りを獲得できるという利点があると言われている1

また、P2Pレンディングは、銀行のようなシステミック・リスクがないという点でも、社会厚生を改善し得る性質を備えている。この点を(1)P2Pレンディング業者を単体でみたときに、銀行と同様の財務構造上の脆弱性があるか、(2)P2Pレンディング業者が破綻したときに、1つの業者の破綻が他の業者の破綻を連鎖的にもたらすか、という2つの観点から確認しておこう。

(1)については、P2Pレンディング業者は、銀行のように自身のバランスシート上で満期変換を行っていないため、それに伴う財務構造上の脆弱性はない。(2)についても、P2Pレンディング業者は、(a)貸手から資金の返還を要求されることがないため取付けは起こらない、(b)与信しているわけではないので焦付きによる損失は被らない、(c)時点ネット決済システムに参加していない、といったことから、これらに伴うシステミック・リスクは存在しないと考えられる。

ただし、システミック・リスクをより広く、金融システムに何らかの悪影響を及ぼし、それによって実体経済にも何らかの悪影響を及ぼすものと捉えると(IOSCO, 2011)、P2Pレンディングにも留意を要する面がある。具体的には、(1)市場規模が短期間に非常に大きくなり得ること、(2)国境を越えて活動する業者の規制上の取扱いについて不明確な点があること、(3)機関投資家の参加や証券化により他の金融セクターとの間の相互連関性が増加する可能性があること、(4)与信基準が甘くなる可能性があること等が指摘されている(Kirby and Worner 2014, IOSCO 2017)。

  1. P2Pレンディング業者が提示する利回りには、借手の信用コストが含まれる点には注意が必要である。したがって、P2Pレンディング業者の提示利回りから、借手の信用コストを差し引いて、なお高い利回りが得られれば、貸手にベネフィットがあるといえる。

英国、米国、日本におけるP2Pレンディングの法律構成の違い

以上、P2Pレンディングの仕組みとその特徴を、最も単純化された形で説明してきたが、実際の運用においては、その法律構成が国毎に異なる。ここでは、英、米に加えて、わが国におけるP2Pレンディングの取扱いについて、実際の仕組みと法律構成の違いを説明しておこう。

英国では、貸手と借手が、直接、融資契約を締結することにより、金銭の貸付けがなされる。P2Pレンディング業者は、貸手と借手のマッチングを行うためのプラットフォームを提供し、債権の管理・回収業務を行うが、貸手・借手間で締結される契約にはほとんど関与しない。また、貸手と借手の資金は、P2Pレンディング業者のバランスシートには計上されず、P2Pレンディング業者の財産と分別管理された口座を通じて入出金される。このため、P2Pレンディング業者が倒産(プラットフォームの閉鎖)しても、その影響は貸手・借手に及ばない(図表3)。

(図表3)英国のP2Pレンディングの仕組み

  • 英国のP2Pレンディングの仕組みを示す概念図。詳細は本文のとおり。

これに対して、米国では、貸手と借手が、直接、融資契約を結ぶかたちとはなっていない。米国のP2Pレンディング業者は、貸手と借手のマッチングを行うが、最初に借手に対して融資を実行するのは、P2Pレンディング業者の提携先の銀行である。その後、P2Pレンディング業者は、対価を支払ってその貸付債権を買い取るとともに、証券(note)を投資家に発行し、投資家に対して証券の利払い・償還を行うというスキームが一般的である(図表4)。

(図表4)米国のP2Pレンディングの仕組み

  • 米国のP2Pレンディングの仕組みを示す概念図。詳細は本文のとおり。

わが国は、貸手と借手が、直接、融資契約を締結するかたちとなっていないという点で米国と類似している。ただし、わが国では、P2Pレンディング業者が、直接、借手に融資をし、その原資は、投資家から商法で定める匿名組合契約に基づく出資により調達するスキームが一般的である。すなわち、匿名組合契約のもとで、P2Pレンディング業者は営業者として融資に関する業務を行い、投資家は匿名組合員として、営業者に対して出資を行うかたちとなる(図表5)。

(図表5)日本のP2Pレンディングの仕組み

  • 日本のP2Pレンディングの仕組みを示す概念図。詳細は本文のとおり。

P2Pレンディングの法律構成の違いを踏まえた考察

英国では、融資が貸手と借手との間で直接行われるため、P2Pレンディング業者の倒産は必ずしも貸手の損失にはつながらない。しかしながら、P2Pレンディング業者が倒産した場合、(1)P2Pレンディング業者が借手から回収した金銭がP2Pレンディング業者の自己財産に混入するおそれがあるほか、(2)P2Pレンディング業者が有していた貸手と借手の融資に関する情報が失われることにより債権回収が困難となることが懸念される。これに対し、英国では、(1)については、P2Pレンディング業者に対して分別管理義務を課し、(2)については、P2Pレンディング業者に融資契約を他の業者に引き継ぐ等の義務を課している。

一方、米国やわが国の法律構成のもとでは、投資家は、借手に対して、直接、法的な権利を持つわけではないので、P2Pレンディング業者の倒産は、投資家にとって予期せぬ損失につながる可能性がある。特に、わが国では、匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する(商法第536条第1項)とされているため、投資家(匿名組合員)の出資は、P2Pレンディング業者(営業者)の財産に帰属する。したがって、P2Pレンディング業者が倒産した場合、投資家が同業者に対して有する出資価額返還請求権は、破産債権等の一般債権にしかならず、投資家は他の一般債権者と平等の割合でしか返還を受けることが出来なくなるおそれがある。

こうしたP2Pレンディング業者の倒産リスクに対し、わが国では、例えば、特定目的会社や特定目的信託のスキームの活用が考えられる。同スキームを活用すれば、P2Pレンディング業者が破産しても、投資家の貸付資金は特定目的会社または特定目的信託により隔離されるため、P2Pレンディング業者の破産財団を構成しなくなる。こうした法的手当ては、業者倒産時の投資家保護につながり、P2Pレンディングが投資家から信頼を得て健全に発展していくのに資すると考えられる。

おわりに

本稿では、P2Pレンディングの法律構成は、国によって違いがみられ、そうした法律構成の違いにより、投資家保護の在り方に違いが生じ得ることを指摘した。英国では、貸手と借手が直接、融資契約を締結する法律構成であるため、P2Pレンディング業者が倒産しても、融資契約が他の業者に引き継がれる限り、貸手は損失を被らない。このため、英国では、P2Pレンディング業者に対して、倒産時に備えて予め融資契約を他の業者に引き継ぐ等の措置をとることを義務づけている。

わが国と英国とはP2Pレンディングの市場規模や成長速度等が異なるため、わが国において、P2Pレンディングに固有の新たな規制が必要かどうかについては、現行の法制度のもとでの融資の実態や投資家保護の状況等を踏まえて、慎重に検討すべきと考えられる。この点、わが国の場合、P2Pレンディングに関して一般的に採用されている法律構成のもとでは、P2Pレンディング業者の倒産が、投資家の予期せぬ損失につながるリスクがあるが、本稿では、特定目的会社や特定目的信託のスキームを活用することで、投資家を保護することを提案している。わが国では、投資家保護の観点から、こうしたスキームの活用を業者に促していくことが重要であるとともに、業者においては、法令に基づき、こうしたリスクに関して、法律構成を踏まえて投資家に十分に説明を行っていくことが求められる2

  1. 2投資家に対する情報提供については、投資家が十分な情報に基づく意思決定を行えるように業者が情報開示を行うことが求められるが、P2Pレンディングでは、業者が投資家に借手の情報を詳細に開示すると、借手保護の観点から問題が生じる可能性がある。こうした点を踏まえ、情報提供に際しては、借手の匿名性を担保しつつ、投資家の意思決定に資する情報(英国の事例を参考にすると、例えば、業種、地域、延滞状況等の情報)を提供することが考えられる。

参考文献

日本銀行から

本稿の内容と意見は筆者個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではありません。