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近年における邦銀の収益低迷の背景と今後の課題

預貸利鞘のトレンドからみた分析

2001年11月 2日
白鳥哲哉
大山剛

日本銀行から

考査局ワーキングペーパーシリーズは、考査局のスタッフによる調査・研究成果を編集したもので、うちディスカッションペーパーシリーズは、特に金融問題に関する議論の材料を提供すると共に、実務家や研究者等の有識者の方々から幅広くコメントを頂戴することを目的としています。ただし、論文の内容や意見は、日本銀行あるいは考査局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、各論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(はじめに)を掲載しています。全文は、こちら (bdp01j01.pdf 386KB) から入手できます。

はじめに

 邦銀は、近年、業務純益に匹敵する、ないしはこれを上回る不良債権処理を余儀なくされており、信用コストを負担した後の貸出採算が赤字の状態が長期に亘って続いている。収益低迷の最大の要因は、言うまでもなくバブル崩壊以降の不良債権の急速な増大とその処理である。しかしながら、邦銀の収益低迷をもたらした背景が、そうしたバブル崩壊の影響も含め、マクロ経済の動き、邦銀の行動特性、あるいは制度的要因とどのように関連しているのかが判然としない限り、今後の邦銀の収益改善策の中味もみえてこない。仮に、邦銀が不良債権の処理を一旦終えたとしても、従来の不良債権が邦銀の行動特性から生じたものであるならば、そうした行動特性が変わらない限り、同様の問題が今後も発生し、真の問題解決に繋がらない可能性がある。
 そこで本稿では、邦銀の預貸利鞘に焦点を当て、近年における預貸利鞘形成の背後にある要因を計量的手法で分析する。次に、こうした分析結果を用いて、利鞘形成にマクロ経済要因や我が国における銀行行動の特徴であるリレーションシップ・バンキング、および金融自由化等の制度要因がどのように係っているのかを整理する。最後に、邦銀が今後収益性を高めていく上での、経営上の課題及び金融システムを巡る制度的課題を示す。
 予め、本稿の内容を要約すると次のとおりである。

  1.  邦銀の預貸利鞘について過去20年間の推移をみると、80年代央にかけてやや縮小した後バブル期に一時拡大するなど若干の振幅はあるものの、90年代入り後は殆ど変化はみられず、全般に非常に安定した動きとなっている。不良債権の処理コストまで加味した形での貸出業務の収益性をみると、93年度以降8年間の長期に亘りマイナスが続いており、こうした状況に預貸利鞘が反応した形跡はみられない。
  2.  預貸利鞘を貸出・調達スプレッドに分解した上で、80年代から90年代への変化をみると、調達スプレッドが大幅に縮小する一方、貸出スプレッドは大幅に拡大している。調達スプレッドの変化については、80年代半ば以降の預金金利自由化に伴うレントの減少や金利水準のゼロへの収束といった要因が、貸出スプレッドの変化については、90年代以降の信用リスクに対する銀行の意識の高まりがそれぞれ影響を及ぼしたと考えられる。但し、貸出スプレッドの拡大は調達スプレッドの縮小を補うに止まっており、90年代以降大幅に増加した信用コストは、預貸利鞘で対応すべき経常的な損失ではなく、資本で対応すべき一時的な損失とみなされていた可能性があることを示唆している。
  3.  邦銀のこうした対応は、従来の邦銀行動を特徴づけてきたリレーションシップ・バンキングに根差すものとして理解出来る。リレーションシップ・バンキングに特有の(1)エージェンシー・コストの軽減、(2)長期的な顧客関係を展望した景気サイクル平準化機能、(3)不動産担保の広範な活用、(4)銀行主導による企業再生・再編、等の特徴点は、戦後長い間、預貸利鞘の水準や変動を抑えることに寄与してきた。
  4.  しかしながら、80年代後半以降、金融自由化や情報技術革新に伴う信用情報生産コストの低下、景気サイクルの不安定化、不動産価格の継続的な下落、従来型システムによるモラルハザード抑制の困難化等、リレーションシップ・バンキングを支えてきた外部環境は大きく変化した。このため、従来極めて合理的であった銀行行動が次第にその合理性を失い、結果的に、こうした環境変化への対応の遅れが、今日の銀行収益の低迷を招来した大きな要因となったと考えられる。
  5.  今後、邦銀が収益性を高めていくためには、外部環境の変化をも踏まえ、資産のリスク・リターンを再評価し、マネージ出来ないリスクはテイクしないと同時に、マネージ出来るリスクの範囲を広げていくことが必要となる。具体的には、(1)外部環境が変化した結果増大したリスクを貸出プライシングに織り込むとともにバランスシートの再構築によって収益率を改善すること、(2)信用情報生産コストの低下やリスク増大の結果縮小傾向にある銀行の市場を、信用情報生産能力(審査・モニタリング能力)の向上を通じて拡大すること、(3)(1)、(2)の実効性を高めるため、市場規律を通じたコーポレート・ガバナンスの強化を図ること、が挙げられる。
  6.  また、我が国の金融システムを巡る制度を新たな環境に相応しいものとすることも、邦銀の収益性向上を促すためには必要である。具体的には、(1)公的金融のプレゼンス縮小、(2)オーバーバンキング状況の緩和、(3)コーポレート・ガバナンス構造の改善やモラル・ハザード防止策の強化、(4)資本・労働の円滑な再配分をサポートする制度面での整備、等が挙げられる。