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ROAの国際比較分析 — わが国企業の資本収益率に関する考察*1

2003年 8月
亀田 制作
高川 泉

日本銀行から

日本銀行調査統計局ワーキングペーパーシリーズは、調査統計局スタッフおよび外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは調査統計局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せ下さい。

以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら (cwp03j11.pdf 813KB) から入手できます。

(要旨)

 本稿は、世界各国の上場企業の個社財務データを用いて、できる限り包括的かつ直接比較可能なかたちで、資本収益率(ROA)の国際比較を行った。

 その結果、マクロでみたわが国企業のROAは、過去、米国だけでなく欧州やアジア地域と比較しても、一貫して低い水準で推移してきたことが、あらためて確認された。こうした海外との格差は、とりわけ90年代入り後に拡大している。その背景には、わが国の資本生産性と資本分配率の両方が低いことがあるが、特に前者については、資本装備率が高いことだけでなく、全要素生産性(TFP)が低いことも強く影響していると考えられる。

 一方、ミクロ面からは、わが国におけるROAの企業間格差が、欧米アジア諸国と比べて非常に小さいことが特徴である。ROAの企業間分布を描いて国際比較すると、わが国ではROAの分散が非常に小さく、尖度が非常に大きいことが分かる。また、時系列方向にみた分散を国際比較しても、わが国では、マクロレベルのROA変動幅はそれなりに大きいにもかかわらず、個別企業レベルのROA変動幅は非常に小さい。このように、低い平均利益率水準の近傍に、数多くの企業が集中してしまっているという事実は、(1)わが国の企業行動が、リスク・テイクによるリターンの追求という点で、個別差異性に欠けていること、(2)またそのことが、マクロレベルでの資本収益率の低迷の一因となっている可能性を示唆している。こうした問題の背後には、わが国特有のコーポレート・ガバナンス構造もあると考えられる。

  1. *1本稿の作成に当たっては、日本銀行調査統計局のスタッフ、特に門間一夫氏から多くの指導、コメントをいただいた。また、日本銀行金融市場局の馬場直彦氏、同金融研究所の大谷聡氏からも有益なコメントを頂いた。この場を借りて深く感謝の意を表したい。ただし、本稿で述べられた内容は、全て筆者個人に属し、日本銀行および調査統計局の公式見解を示すものではない。また、本稿のあり得べき誤りの責任は全て筆者個人に属する。