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財政政策乗数の日米比較

—構造VARと制度的要因を併用したアプローチ—

2003年 6月 9日
加藤涼

日本銀行から

日本銀行国際局ワーキングペーパーシリーズは、国際局スタッフによる調査・研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行あるいは国際局の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに対するお問い合わせは、論文の執筆者までお寄せください。

以下には、(論文要旨)を掲載しています。全文は、こちら (iwp03j04.pdf 252KB) から入手できます。

論文要旨

  • 1980年代以降のデータを用いて、米国における短期的な財政支出乗数と減税政策乗数の計測を行ったところ、前者については、+0.61(95%信頼区間、+0.0〜1.2)、後者については、+0.36(同+0.2〜0.5)と、ともにプラスであるが、1を下回るとの結果を得た。長期的な乗数については、統計的には有意ではないが、1年から2年で政策効果は剥落し、その後はゼロからマイナスの影響との結果となった。
    —— 推計結果に基づいて、2001年のブッシュ政権による減税プラン(EGTRRA)が米国経済に与えた影響を概算すると、ピーク時(2002年上期)に、GDPに対して約+0.8%の押し上げ効果との結果。
  • 減税による財政収支の悪化はインフレ率を上昇させる。1標準偏差相当の減税ショック(−1.4%)に対して、物価はゆっくりと上昇し、長期的には+2〜4%の押し上げ効果を持つ。長期金利に対する効果は明確ではないが、減税ショックについては、若干のプラス効果(+0.2%ポイント程度)が確認された。
  • 一方、同様の手法で計測された日本の財政政策乗数をみると、財政支出乗数・減税政策乗数ともに統計的に極めて不安定。財政支出乗数については、不正確ながら短期的には+0.9程度(95%信頼区間は−0.6〜2.4)。減税乗数については、統計的には意味のある推計値は得られず、符号条件を確定できない。
  • 物価に与える影響については、推計値はプラスであるが信頼区間を考慮すると符号条件は微妙。長期金利に与える影響については、財政支出・減税の両方について、統計的に有意な結果は全く得られなかった。