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デフォルトコストの観点から見たデフレのコスト分析*1

2003年10月
福田慎一*2
粕谷宗久*3
中原伸*4

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。

以下には(要旨)を掲載しています。

  1. *1本稿の作成にあたっては、日本銀行調査統計局のスタッフの方々および統計研究会「金融班」夏季コンファレンス(函館)の参加者から有益なコメントをいただいた。特に、早川英男、宮川努、岩本康志、関根敏隆、鎌田康一郎、亀田制作の各氏のコメントは、本稿を改善する上で大変役立った。また、赤司健太郎氏、佐々木明果氏には図表の整理等で研究の補助をしていただいた。なお、本稿で述べられた意見、見解は、筆者個人のものであり、日本銀行あるいは調査統計局のものではない。
  2. *2東京大学 e-mail: sfukuda@e.u-tokyo.ac.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 e-mail: munehisa.kasuya@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局 e-mail: shin.nakahara-7830@boj.or.jp

(要旨)

本稿では、近年続いているマイルドなデフレ下で発生する負債デフレ(Debt-Deflation)の弊害を、上場企業(含む店頭・地方上場)の財務データをもとに期待デフォルトコストの観点から検証した。分析では、期待デフォルトコストは、デフォルトコストと倒産確率の積として算出される。プロビット・モデルを用いた倒産確率の推計では、実質債務残高や特別損失は倒産確率に対して有意にプラスの影響を、メインバンクの自己資本比率は有意にマイナスの影響を及ぼした。この結果から、販売価格下落による収益の圧迫や実質債務負担の高まりや、株価下落による特別損失の増加・メインバンクの体力低下などは、企業の倒産確率を有意に上昇させることが分かる。この結果を用いて、価格変動が期待デフォルトコストに与える影響を分析してみると、一般物価の下落は、地価や株価に比べてその下落率がマイルドな場合でも、実質債務負担の上昇が企業の期待デフォルトコストを上昇させることが明らかになった。ただし、上場企業のみを対象とした本研究では、マイルドなデフレ下における負債デフレのコストは、金額ベースでは限定的なものにとどまった。