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上場変更と株価:株主分散と流動性変化のインパクト*1

2004 年1 月
宇野淳*2
柴田舞*3
嶋谷毅*4
清水季子*5

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局広報課までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には(要旨)を掲載しています。全文は、こちら(wp04j03.pdf 1353KB) から入手できます。

  1. *1本研究の中間報告の作成には、万年佐知子氏(日経QUICK 情報(株))が参加した。
  2. *2中央大学 e-mail: juno@tamacc.chuo-u.ac.jp
  3. *3東京都立大学 e-mail: sibata-mai@c.metro-u.ac.jp
  4. *4日本銀行金融市場局 e-mail: takeshi.shimatani@boj.or.jp
  5. *5日本銀行金融市場局 e-mail: tokiko.shimizu@boj.or.jp

(要旨)

 上場市場の変更は、当該企業の株主数や株式売買状況をしばしば大きく変化させる。Merton[1987]によれば、株主ベースの拡大によるリスク分散効果の向上は、株価にポジティブな影響を与えるとされている。また、Amihud and Mendelson[1986]によれば、流動性の向上も株価に対してポジティブなインパクトを与えるとされる。これまでの先行研究は、主として米国のNASDAQ上場銘柄がニューヨーク証券取引所等に変更するケースを対象にしているが、これらのケースでは、市場ごとに採用されている売買メカニズムが異なるため、市場参加者や株主ベースの拡大によるインパクトを純粋に取り出すことが困難であった。本研究が対象とするJASDAQと東京証券取引所(以下、東証)は同一の売買メカニズムを採用している銘柄が多数存在しているため、売買メカニズムが影響しない状況下でも、理論と整合的な結果が得られるかを検証することができる。
 本稿では、1999年から2002年の間にJASDAQから東証に上場変更し、同一の売買メカニズムが適用された銘柄について、上場変更の発表日から実際の移動日までの累積超過収益率を計測し、それが株主分散効果と相関していることを確認した。しかしながら、この関係は東証1部へ移動した銘柄のみにみられるもので、東証2部へ移動した銘柄では、株主分散効果との関係は明瞭でない。東証1部移動銘柄は、上場変更発表後の取引増大が顕著であることから、上場変更が取引の活発化につながっていることが重要な要因であることが示唆された。これは先行研究と整合的な結果といえる。また、上場変更時に公募や売出しを行って株主基準をクリアした銘柄では、超過収益率が相対的に低くなるという関係もみられた。超過収益や売買金額の変化は、単にJASDAQから東証に移行することで生じるのではなく、移行のプロセスや移行後の取引状況によって違ってくるとの結果である。
 上場変更申請の手続きに関する本稿の実証結果は、上場変更直前の公募・売出しは、株価や売買状況にネガティブな影響を与える傾向があることを示しており、株主基準をクリアせずに上場移動の申請を行う場合には、こうした影響を十分勘案する必要があることを示唆している。