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わが国企業の負債圧縮行動について:

最適資本構成に関する動学的パネル・データ分析*1

2004年 9月
西岡慎一*2
馬場直彦*3

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には[要旨]を掲載しています。全文は、こちら(wp04j15.pdf 390KB) から入手できます。

  1. *1本稿の作成にあたり、日本銀行スタッフから数多くの有益な示唆を受けた。記して感謝したい。もちろん、有り得べき誤りは全て筆者達に帰するものである。また、本稿に記された意見・見解は筆者達個人のものであり、日本銀行及び金融市場局の公式見解を示すものではない。
  2. *2金融市場局(現総務人事局)
  3. *3金融市場局 e-mail: naohiko.baba@boj.or.jp

(要旨)

1990年代後半以降、わが国企業は有利子負債の圧縮を続けている。これは理論的には、最適資本構成のフレームワークの下で議論されるべき問題である。最適資本構成の理論とは、Modigliani and Miller [1958]のいわゆる「MM命題」を出発点として、倒産確率や税制などの資本市場の不完全性を考慮した場合、資金調達手段としての資本か負債かという選択は無差別ではなく、企業価値を最大化する最適資本(負債)比率は内点解として求められるというものである。これによると、1.最適負債比率は、負債比率を上昇させることによる資本コストの低減効果と、財務リスク・プレミアムの上昇効果のトレード・オフにより一意に決定される、2.現実の負債比率が、最適負債比率より高い場合、負債返済や増資により企業価値を高めることができる、などの結論が得られる。本稿では、このほか、ガバナンス構造やペッキング・オーダー仮説、マーケット・タイミング仮説などから示唆される効果をコントロールしつつ、1990年代前半以降の上場企業約700社から成るパネル・データを用いて実証分析を行った。動学的GMMによる実証分析の結果、最適資本構成の理論が示唆するように最適負債比率は企業ごとに一意に求まることに加え、ガバナンス構造の相違を反映して最適比率への調整速度が有意に異なることが示された。また、推計式を用いた試算から、格付別に見た場合、高格付企業では最適負債比率への調整が相応に進捗している一方、中低格付企業では、1990年代終盤に過剰負債比率(実際の負債比率−最適負債比率)が拡大した後、横這いで推移しており、今後も相当の調整が必要であることが明らかになった。

キーワード:
最適資本構成、資本コスト、エージェンシー・コスト、負債圧縮、パネル・データ、GMM、ガバナンス構造