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我が国の対日投資促進策等が直接投資統計に与える影響について*1

2004年12月
和田 麻衣子*2

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には[要旨]を掲載しています。全文は、こちら(wp04j18.pdf 161KB) から入手できます。

  1. *1本稿の作成にあたっては、日本銀行国際局および調査統計局の関係者から、大変有益な助言を得た。この場を借りて感謝の意を表したい。ただし、本稿で述べられている見解は筆者個人に帰するものであり、日本銀行国際局あるいは調査統計局の公式見解を示すものではない。
  2. *2国際局国際収支統計担当 e-mail: maiko.wada@boj.or.jp

(要旨)

  • 我が国では、小泉首相が2003年1月の施政方針演説において、日本経済の活性化のため、対日投資残高倍増構想(5年後を目途)を提唱し、政府や関連省庁等によって具体的な対日投資促進策が検討・実施されている。近年打出された投資環境整備の代表例は、クロスボーダーの株式交換制度や日本版リミテッド・パートナーシップ(以下、日本版LPS)であり、こうした投資環境整備の結果、我が国への直接投資がどのような姿になるかについて注目が高まっている。
  • 外国企業の株式を用いてクロスボーダーの株式交換を行うにあたっては、一旦、外国企業の本邦子会社が当該外国企業(外国親会社)株式を取得し、被買収企業に対する三角合併もしくは孫会社化の対価として用いることが必要となる。本邦子会社による外国親会社株式取得は、IMF国際収支マニュアル第5版(Balance of Payments Manual, fifth edition:以下、BPM5)において「負の投資」として定義されており、外国親会社から受けた対内直接投資を相殺するもの(対内直接投資の減少要因)として計上する。このため、クロスボーダーの株式交換が利用された場合、対内直接投資フローは減少する可能性が高い。
  • 日本版LPSについては、二段階課税が行われないほか、有限責任性が確保されているため、今後、投資家が被投資先の状況やパフォーマンス等を適切に把握することが困難であり、初期投資額が大きい技術・研究開発型産業に対する投資組織として活発に利用されることが想定される。もっとも、我が国の国際収支統計(Balance of Payments:以下、BOP)および国際投資ポジション(International Investment Position:以下、IIP)の作成および原データの収集根拠である「外国為替及び外国貿易法」(以下、外為法)の下では、法人格のない日本版LPSに対する非居住者の出資は対内直接投資に該当しない。このため、非居住者による日本版LPSへの投資は対内直接投資フローおよびストックに含まれないこととなる。
  • 現行の日本版LPSの取扱いについては、(1)日本版LPSへの投資・投資回収を計上対象としていないため、当該投資組織の導入が我が国への投資に与える影響を適切に反映しない、(2)投資規模にもよるが、LPSへの投資を直接投資に含めている国とでは、厳密な意味で統計の国際比較が難しい、という問題がある。
  • こうした実情を踏まえると、我が国においても、外為法の枠組みの下で、出資比率が10%以上となる日本版LPS等への投資を直接投資に含めるよう、報告負担には十分に配慮しつつ、当該データを入手し、得られたデータを直接投資統計に反映することの実行可能性、その具体的方法について具体的な検討を進めることが適切である。