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わが国企業による資金調達方法の選択問題:多項ロジット・モデルによる要因分析*1

2005年 3月
嶋谷毅*2
川井秀幸*3
馬場直彦*4

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には[要旨]を掲載しています。全文は、こちら(wp05j03.pdf 229KB) から入手できます。

  1. *1本稿の作成にあたり、日本銀行スタッフから数多くの有益な示唆を受けた。記して感謝したい。もちろん、有り得べき誤りは全て筆者達に帰するものである。また、本稿に記された意見・見解は筆者達個人のものであり、日本銀行及び金融市場局の公式見解を示すものではない。
  2. *2金融市場局 E-mail:takeshi.shimatani@boj.or.jp
  3. *3東京工業大学大学院 E-mail:kawai@ml.me.titech.ac.jp
  4. *4金融市場局兼金融研究所 E-mail:naohiko.baba@boj.or.jp

要旨

1990年代後半以降、規制緩和や信用収縮、株価の長期低迷などを受けて、企業の資金調達行動は大きく変化した。本稿では、借入、社債、転換社債、株式など資金調達方法が複数存在する場合における企業の意思決定問題を、個別企業データを用いて多項ロジット・モデルで分析した。実証分析の結果、(1)企業はエージェンシー・コストの程度に従って、資金調達方法に優先順位をつけるとするペッキング・オーダー仮説が有意に検出されたほか、(2)借入以外の市場性の資金調達方法は、比較的情報の非対称性の度合いが低いと考えられる企業規模の大きな企業が中心であることが明らかになった。また、(3)最適資本構成の理論が示すように、過剰負債比率の高い企業ほど、新規借入を抑えようとするインセンティブを持つことや、(4)マーケット・タイミング仮説が示唆するように、転換社債による資金調達は、当該企業の株価が市場対比で上昇したときに選択されやすいこともわかった。更に、各資金調達方法の選択確率を格付け別にみると、(1)比較的格付けの高い企業ほど社債の選択確率が高い一方、借入や株式、転換社債の選択確率が低いこと、(2)近年、すべての格付けで新規借入の選択確率が低下傾向にある一方、転換社債や株式の選択確率は、比較的格付けの低い企業を中心に上昇していることなどが明らかになった。

キーワード:
多項ロジット・モデル、資金調達、最適資本構成、ペッキング・オーダー仮説、マーケット・タイミング仮説、情報の非対称性