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ライフサイクルにおける非線形消費分散プロファイルと消費格差(要旨)

2006年 2月
阿部修人*1
山田知明*2

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。

なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
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以下には日本語の(要旨)を掲載しています。

なお、全文は英語のみの公表です

  1. *1一橋大学
  2. *2一橋大学

要旨

日本の家計消費格差は、アメリカと異なり20代から40代半ばまではほぼ一定であるが、40代後半から急激に増加する傾向がある。本論文では、消費分散で測った消費格差の非線形性は標準的な予備的貯蓄・ライフサイクルモデルに日本における労働市場の特殊な要素を組み込むことで説明できることを示す。年功賃金システムと非流動的な労働市場の下では、家計にとり年をとるほど所得変動のリスクが高くなる傾向になる。本論文はそのような年齢依存型の所得リスクの推計を行い、日本家計の消費格差に関する分析を行った。具体的には、1984年、1989年、1994年、1999年の4回にわたる全国消費実態調査の個票データを用い、(1)所得・消費格差に関して家計・地域属性を除去したコホートの分散プロファイルを作成し、(2)持続的な家計所得リスクが年齢に依存することを許容した家計所得過程を推計し、(3)推定された所得過程の下で、標準的な予備的貯蓄・ライフサイクルモデルをシミュレートすることで消費分散プロファイルを導き、(4)モデルが予測する消費分散プロファイルと観測値がフィットするように、家計モデルの構造パラメターを最尤法で推計した。

推定の結果、日本では、48歳近辺を契機に家計が直面する持続的な所得リスクが上昇すること、およびその要素を考慮に入れずに構造パラメターを推計すると、家計のリスク回避度が非現実的な値になってしまうこと、しかしながら所得リスクが年齢に依存することを考慮に入れた場合は、構造パラメターは安定的に、妥当な領域で有意な値となった。したがって、日本の家計行動、特に所得リスクや消費格差を分析する場合、所得過程の年齢依存が極めて重要であることが示された。

本稿ではさらに、日本の家計所得格差が1984年-1989年に比較し、1994年-1999年で増加したか否かを検証し、同一年齢で比較した場合は持続的な所得格差の増加は確認できないが、同一産業、あるいは同一職種内では所得格差が拡大していることが示された。これは、所得格差が統計的には拡大傾向にないが不平等感が広がっているという先行研究に対して、一つの解釈を与えるものであり、自分と比較可能な集団内において所得格差が広がっていることを示唆するものである。