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「小売物価統計調査」を用いた価格粘着性の計測

2006年 1月
才田友美*1
高川泉*2
西崎健司*3
肥後雅博*4

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局までご相談ください。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。

以下には(要旨)を掲載しています。

本稿は、東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局共催による「1990年代以降の日本の経済変動」に関する研究会(2005年11月24、25日)の第3セッション報告論文である。分析にあたっては、総務省統計局から「小売物価統計調査」のデータ提供を受けたほか、荒井千恵氏(日本銀行調査統計局)、山岡理恵氏(同)の多大な協力、萩原佐和子氏(同)の助言を得た。有賀健教授(京都大学)、西村清彦審議委員(日本銀行)をはじめ研究会参加者の方々、青木浩介先生(LSE)、清水誠氏(総務省統計局)、関根敏隆氏(BIS)、さらに川本卓司氏、木村武氏、白塚重典氏、早川英男氏、三尾仁志氏をはじめ日本銀行スタッフから有益なコメントを得た。記して感謝の意を表したい。ただしあり得べき誤りは筆者に属する。また本稿の内容・意見は筆者の個人的見解であり、日本銀行および調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局経済分析担当(E-mail: yumi.saita@boj.or.jp)
  2. *2日本銀行調査統計局景気動向担当(E-mail: izumi.takagawa@boj.or.jp)
  3. *3日本銀行総務人事局(ニューヨーク州立大学バッファロー校留学中)
  4. *4日本銀行調査統計局経済分析担当(E-mail: masahiro.higo@boj.or.jp)

要旨

本稿は、消費者物価指数(CPI)の原資料である「小売物価統計調査」の品目別・都市別平均価格データ(1989〜2003年)を用いて、価格粘着性をはじめとする価格改定の特性について計測したものである。計測結果から以下のことが分かった。

  1. (1)価格粘着性は、財では低く、サービスでは高いなど品目間で大きなばらつきがある。時系列変化をみても、1990年代以降、財で価格粘着性が低下する一方で、サービスでは顕著に高まっている。
  2. (2)価格改定パターンをみると、価格改定はランダムに生じているわけではなく、改定確率はこれまでの価格改定の履歴の影響を受けている。品目間でのばらつきも大きく、時系列的に一定ではないなど、その性質は複雑である。
  3. (3)こうした特性のばらつきには、生産コストに占める労働コスト比率の違いや価格改定コストの大小、企業の価格戦略の変化などが影響を与えており、カルボ型など既存の価格設定に関する理論モデルでは、容易には説明できないものである。
Keywords
消費者物価指数、価格粘着性、価格改定頻度、ハザード確率、時間依存型価格設定、状態依存型価格設定
JEL classifications
E31、D40、C41