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生産性の経済学 −我々の理解はどこまで進んだか−

2006年 3月
宮川 努*1

要旨

 1990年代に入り、米国がIT革命を契機に、生産性の上昇を実現したことにより、世界的に、生産性向上の要因についての研究が広がった。日本でも90年代の長期停滞の主要因として生産性上昇率の低下が指摘されて以来、実証研究の蓄積が進んでいる。本論文では、全要素生産性(Total Factor Productivity)を中心とした生産性の計測やデータベースの整備、資源配分の歪みやIT化の生産性に与える影響、経済政策との関わりなどを、欧米の先行研究と日本での実証分析を中心にサーベイする。これまでの実証研究からは、(1)90年代に入って、日本のTFP上昇率は低下しているが、資本や労働力の質を考慮すると、当初指摘されていたほど大きな低下ではない。(2)ただし、労働市場における資源配分の歪みは今日に至るまで深刻である。(3)IT化の経済成長への寄与は、日本でも90年代後半から現われている。(4)技術ショックに対し、短期的な経済政策が有効か否かについては結論が出ていない、ということがわかる。生産性の分析のためには、より良いデータベースの整備が不可欠であり、今後はデータベースの整備と歩調を合わせて、残された課題を研究していく必要がある。

キーワード:
TFP、成長会計、ヴィンテージ資本、ネットワーク効果、組織資本、マークアップ率、purified technological shock

本稿は、2005年11月24日、25日に行われた「1990年代以降の日本の経済変動」に関する研究会(日本銀行・東京大学金融教育センター共催)における報告論文に基づいている。研究会における座長の西村清彦日本銀行審議委員、討論者の川本卓司氏(日本銀行)を始めとする参加者の方々からの貴重なコメントに感謝したい。なお残された誤りは筆者の責任である。

  1. *1学習院大学経済学部 E-mail: 19990230@gakushuin.ac.jp

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