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アジア通貨単位から通貨同盟までは遠い道か

2006年11月
渡辺真吾*1
小倉將信*2

要旨

本稿では、アジア通貨単位(ACU)の設定・公表や将来の共通通貨導入を展望したアジア為替制度に関する一連の構想について、伝統的な最適通貨圏の議論だけでなく、幅広い観点から評価するほか、欧州通貨単位(ECU)の経験から得られる含意を整理する。共通通貨の導入に関し、最適通貨圏条件に基づく先行研究の多くが、少なくともアジアの一部地域については妥当としているが、歴史や政治・制度環境の他、各国の経済発展段階やマクロ経済政策のトラックレコードにおける相違を勘案すると、実現上解決すべき課題は多いとみられる。また、共通通貨導入の移行過程における管理相場制についても、アジアでは通貨アタックを受けるリスクを無視できない。さらに、ECUの経験をACU普及上の含意という観点から振り返ると、当局の取り組みのみならず、市場における通貨統合に向けた期待の醸成や国際的な関連決済制度・金融商品市場の整備が重要であると分かる。また、現金通貨を持たないECUでの商取引が限界的であったことや、ECU決済上安全性・利便性において改善すべき点があったこと、対域内通貨で変動範囲が設定されていたECUでさえ乖離指標として注目されなかったことなど、ECU普及上みられた問題への対処も課題である。

本稿作成にあたり、長井滋人氏からは、内容への丁寧なコメントだけでなく、論文作成のきっかけや進め方に関するアドバイスを頂いた。本文中のADXYに関する記述については、日本銀行金融市場局外国為替平衡操作担当から情報を頂いた。また、井上哲也、大澤祐次、大橋千夏子、川添敬、白神猛、曽我野秀彦、藤木裕、堀井昭成、松下顕、山寺智、渡辺賢一郎の各氏からは非常に有益なコメントを頂いた。記して感謝したい。ただし、あり得る誤りは筆者に属する。また、本稿に記された内容・意見は、筆者個人のものであり、日本銀行および国際局の公式見解を示すものではない。

  1. *1国際局 Email: shingo.watanabe@boj.or.jp
  2. *2国際局 Email: masanobu.ogura@boj.or.jp

日本銀行から

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