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長期低迷・デフレと財政

2008年2月
岩本康志*1
榎本英高*2

要約

 本稿は,長期低迷・デフレが財政にどのような影響を与えたのか,長期低迷・デフレ期にどのような財政運営がされるべきだったのか,の2つの問題意識にかかわる分析をおこなった。

 政府の支出・収入項目が経済環境にどのように反応するかを推定し,その結果をもとに長期低迷・デフレがかりになかったとした経済の経路を与えた場合には,政府債務残高(対名目GDP比)は現実値よりも26ポイント程度改善していたと推計された。

 つぎに,景気循環会計の手法を用いてGDPの循環変動を分解したところ,労働投入の歪み,生産性の変動,政府支出・投資支出等の変動のいずれもが影響を与えていることを見た。

 所得の変動を経済厚生の変動に変換すると,1997年から最近まで,2001年度を底にした,厚生水準の低迷があることがわかった。経済安定化の観点からは,この時期に拡張的な政策をとるのが適切である。小泉政権のもとで政府支出が縮小傾向に転じたのが,この底の時期にほぼ重なることは,非常に興味深い現象である。小泉政権期の歳出削減が適切であったかどうかを判断するには,政府支出の効用への直接的な影響に関する情報が必要である。本稿では,これについての確定的な知識がない現状を鑑み,特定化を進めて結論を導くのではなく,政府支出が直接的にもたらす効用の水準がどの程度であれば,財政支出の拡大が厚生への正の影響をもつかの試算をおこなった。

本稿は,東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局第2回共催コンファレンス「90年代の長期低迷は我々に何をもたらしたか」(2007年11月26・27日)の報告論文を改訂したものである。コンファレンスでは,小林慶一郎,櫻川昌哉,中里透,福田慎一氏から有益なコメントを頂戴した。岩本の研究の一部は科学研究費補助金・基盤研究(C)(課題番号17530141)の助成を受けている。ここに記して,感謝の意を表したい。なお,本稿の内容・意見は筆者の個人的見解であり,日本銀行あるいは同調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1東京大学 E-mail: iwamoto@e.u-tokyo.ac.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail: hidetaka.enomoto@boj.or.jp

日本銀行から

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